366:早く先に進もうぜっ!

「アルテニースはっ!? おまいの母ちゃんは今どこにいんだっ!??」


「さぁ~、わからないわねぇ~。あたしが成人すると同時に、この町を出て行ったから」


成人って……、何年前の話?

てか、今は何歳なのさ、クリステル。


「町を出たっ!? 森に入ったのかっ!??」


「いいえ、船に乗って、外界に飛び出して行ったの。なんて言ってたかしらね……、一族の使命? というのかしら?? その役目は終わったし、子育ても終わったから、これからは自由に世界を旅して回るとか……、そんな事を言っていた気がするわねぇ。まぁ、もともと奔放な人だったから、今どこにいるのかは娘のあたしにも分からないわ」


興奮気味のカービィを他所に、クリステルはアハハと笑いながら答えた。


カービィいわく、そのアルテニースという女性は、間違いなくニベルーの子孫であり、魔法王国フーガにおける未来予知魔法の第一人者であった。

にも関わらず、三十年以上前のある日、突然行方をくらまし、現在まで生死が分かっていないそうだ。

故に、未だにアルテニースの捜索クエストを継続しているギルドも多数あるという。


何故それほどまでに、このアルテニースという女性が有名なのかというと、ニベルーの子孫である事は勿論なのだが、未来予知魔法というものがとても稀少な能力であるかららしい。

数百年に一人……、いや、千年に一人と言われるほど、未来予知魔法を正確に行使出来る魔導師は少ないのだ。

 よって、一度でも正しい未来予知を言い当てた魔導師は、国家レベルで保護の対象となり、安定かつとってもセレブな未来が約束されるという。


しかしながらアルテニースは、キャリアも安定した未来も、全てを投げ捨てて国外へ逃亡。

現在まで、その行方は知られていない。


「くっそぉ~、もうここにはいねぇのかぁ~……」


くぅうぅっ! と、悔しそうな声を出すカービィ。

言葉には出していないが……、なんとなくだけど、私的な事情でそのアルテニースって人に会いたいんだろうなって、俺には分かったよ。


「さ、あたしに出来る事はここまでよ! 後は、選ばれし者であるモッモちゃん自身が、道を切り開いていかなくちゃねん♪」


本日三回目の、気色の悪いクリステルのウィンクをかわしつつ、俺は手元の森の笛に視線を向けて、小さくフーンと鼻を鳴らした。








「それで……、その笛を、タウラウの森で吹けばいいと?」


木の箱の中にある森の笛を、ジーっと見つめながら問い掛けるカナリーに対し、俺はこくんと頷いた。

そして……


「そんな小さな笛の音を、ケンタウロスは聞き取れるのでしょうか?」


いつもの調子で、なかなかな事を言うカナリー。

その言い方だと、笛の事も、ケンタウロスの事も、両方ディスっているぞ。


クリステルに別れを告げて、俺たちは店の前で待っていたマシコットとカナリーに合流した。

そして、クリステルから聞いた事を全て伝えて、これからタウラウの森、別名帰らずの森へ行って、ケンタウロスに会う事を伝えた。

彼らが、タウラウの森に住まうという、太古からの神がいる場所へと案内してくれるはずだ、と……


「しかし……、大丈夫でしょうか? ケンタウロスは縄張り意識が高い種族。即ち、外界の者とは交流を持たないはずです。いくらモッモさんが時の神の使者とはいえ、見知らぬ者がその笛を森で吹くという行為は……、少々危険だと思うのですが」


ふむ、それは一理あるな。

マシコットの言うように、知らない奴に笛で呼ばれたとなれば、ケンタウロスもさぞかし気分を害するだろう。

そうなれば……、怒らせちゃうに決まってるぅ!?


「けれども、その笛が偽物である可能性もあります」


なっ!? おいカナリー!!

そんな風に、人の事を疑うんじゃないっ!!!

確かにまぁ、クリステルは昨日出会ったばかりの変態……、いや、オネェさんだけど……

嘘はついてないと思う、絶対、……いや、たぶん。


「まぁ、仮に偽もんだとしてもだ、笛を鳴らしたって何も現れねぇ、ただそれだけの事だろう? とりあえずやってみりゃいいさ」


いつもながら、とりあえず試してみる主義のカービィ。


「それもそうね。そもそも、別にそんな物がなくたって、モッモの望みの羅針盤があれば、私たちが目指す神様の居場所はわかるんだから」


あ……、なるほどなるほど、そうだよね~。

グレコの言う通りだわ。

別に、わざわざ笛を鳴らしてケンタウロスを呼び出して道案内して貰わなくても、自分で探せばいいのよね~。


「……我は、その笛を使うべきだと思うぞ」


お? 珍しいね、ギンロがそんな風に言うなんてさ。

いつもはこう……、みんなの決めた事に黙ってついて行くって感じなのに。


「どうして? 何か理由があるのかしら??」


グレコも、そんなギンロが珍しいと感じたのだろう。

その訳を尋ねる。


「縄張り意識の高い種族は、当たり前だが、他種族の者が縄張りに入る事を許さぬ。それだけではない、縄張りの周りをうろつかれる事も解さぬだろう。仮にその笛を吹き、ケンタウロスが我らの前に現れずとも、少なからず、我らが今からそちらに向かうという意思表示にはなるはず。コソコソと隠れて森を進む相手と、堂々と真っ向から来る相手と……、奴らがどちらを好むか、敵とみなすか。グレコ、お主ならば分かるであろ?」


「なるほど……、確かにそうね。コソコソとしている奴なんていけすかないわ」


……ねぇ、それさ、君たちの好き嫌いの問題じゃなくて?


「じゃあこうしようっ! おいら達は今からタウラウの森へ入って、そこでその笛を吹く。しばらく待ってケンタウロスが来たら話をすればいいし、来なかったらモッモの便利な羅針盤を頼りに森を進む!! これでいいだろうっ!?」


みんなをまとめにかかるカービィ。


「僕、カービィに賛成~!」


一番に手を上げる俺。

ここでグダグタ言っていたって仕方がない。

早く先に進もうぜっ!


「そうですね。そうしましょう」


「リスクはありますが……、やってみましょうか」


カービィの提案に、カナリーとマシコットが頷く。


「よ~っし! そうと決まれば出発だっ!! 時間は限られてんだ、ちゃっちゃと行くぞぉっ!!!」


「おぉっ!!!!!」


こうして、モッモ様御一行、プラス、カナリー&マシコットの六人パーティーは、港町ニヴァを出て西に向かい、ケンタウロスの住むタウラウの森、通称帰らずの森へと、足を進めるのであった。








この時俺は、まだ何も知らなかった。

この先に待ち受ける、薄気味悪い真実を……

深く深い闇の中にいる、恐ろしい相手の名を……

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