365:昔話
ケンタウロスを呼び出す為の、魔法の笛とな?
これまた、えらくファンタジックな道具ですこと。
「じゃあ……、これを帰らずの森の中で吹けば、ケンタウロスが現れる、という事ですか?」
「そういう事♪ けれど、ただ吹き鳴らせばいいってものじゃないのよ」
グレコの問い掛けに、クリステルは俺の手の中にある木の箱の中から、森の笛と呼ばれたオカリナをそっと取り出した。
森の笛は、俺の知っているオカリナのような歪な三角形ではなく、縦長の楕円形だ。
上部には息を吹き込む為の穴が開いた突起があって、表面にはメロディーを奏でる為の穴が八つ開いている。
そして、裏側にも二つの穴があって、結構色んな音が出せそうだ。
するとクリステルは、おもむろに笛を口へと運び、左右の手の五本の指を器用に動かして、ホロロロロ~♪ と吹いてみせた。
そのメロディーはまるで、前世の記憶の中にある、地下鉄で電車が駅のホームに到着した時のような音楽に似ていて……、俺は思わずフッと笑ってしまう。
「今のが、ケンタウロスを呼び出す為の旋律よ。森の笛っていうのは、奏でる旋律によって、その森に住む様々な種族を呼び出せると言われているの。それで……、今吹いてみせた旋律の楽譜は、その木箱の底に入っているわ」
ふむ、楽譜……、おぉ、これかな?
木箱の底には、茶色くて破れかけの紙がペラっと入っていて、そこにはとっても簡単な楽譜が書かれていた。
不思議な事に、俺にはそこに書かれているものが楽譜だと認識できたし、それがどんな旋律を示す楽譜であるのかも自然と理解出来た。
「それじゃあモッモちゃん、試しに吹いてご覧なさい♪」
クリステルはそう言うと、俺に森の笛を手渡した。
ツルンとした触感の、土製の笛だ。
クリステルがやっていたように、両手でそれを包み込むようにして持つと、森の笛は俺の手にジャストフィットした。
そして、いざ! 吹いてみよう!! と思ったのだが……
ちょっと待てよ。
これ今、クリステルが吹いていたよな?
このまま吹いたら、クリステルと間接キッスする事に……??
ゾワワワワァッ!!!
全身の毛が逆立つのを感じた俺は、申し訳ないなと思いつつ、ポケットからハンカチを取り出して、キュキュっと笛の吹き口を拭った。
俺のその行動に対し、クリステルとグレコは無表情で俺を見下ろし、カービィはうくくと笑って、ギンロは何故か小さく頷いていた。
「さぁっ! 吹くぞぉおっ!!」
みんなの視線を断ち切るかのごとく、わざと大声を出して宣言した俺は、カプッと森の笛を加えた。
そして……
ホロロロロ~♪ ホロロロロ~ン♪
「おぉっ! すげぇぞモッモ!!」
「やるわねモッモ!」
「見事であるぞ、モッモ!」
俺はいとも簡単に、先ほどクリステルが奏でてみせたメロディーを、そっくりそのまま、なんなら俺の方が上手な感じで吹いてみせたのだ。
グレコ達はもちろん、俺自身も驚いていた。
「さすがは選ばれし者ね、モッモちゃん♪」
クリステルはニコリと笑って、また気色の悪いウィンクをしてみせたかと思うと、そのままゆっくりとテーブルの椅子に腰掛けて、静かに目を閉じ、ふ~っと大きく息を吐いた。
……
……
……ん?
しばし、沈黙が続いた。
なんだろう? どうしたのだろう?? と、互いに目を合わせる俺たち四人。
するとクリステルは、カッ! と目を見開いて、俺たちに視線を向け、そして……
「むか~し昔、ケンタウロスのお爺さんとお婆さんが、タウラウの森深くで仲良く暮らしておりました。二人に子供はおりませんでしたが、それでも毎日楽しく過ごしていました」
突然始まったクリステルの昔話に、俺たちは訳がわからず、ただ呆然と立ち尽くす。
え……、クリステル、急にどうしたの?
昔々って、一体何の話??
もしかして……、お爺さんは芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に、のあれですか???
「ある日、お爺さんが森の中を歩いていると、何処からか赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。泣き声の主を探しているうちに、お爺さんは大きな湖に辿り着きました。そこで泣き声の主を発見したのです。湖のほとりで泣いていたのは、とても醜い獣の赤ん坊でした」
……違ったか。
桃太郎的な話かと思ったけど、実は醜いアヒルの子的な話なのかしら?
「お爺さんは、その醜い獣の赤ん坊を連れ帰り、お婆さんと一緒に育てる事にしました。そして幾年月が経ち、言葉を話せるようになった醜い獣の子は、ケンタウロス達に様々な知恵と知識を与えました。そうしていつしかケンタウロス達は、その醜い獣の子を、神の生まれ変わりだと崇め奉り始めたのです」
ほほう? 神様の話でしたか……
ん?? だとしたら、どの神様の???
「しかしながら、醜い獣の子は、ケンタウロス達の行いに戸惑いを感じ始めました。そして、育ての親であるお爺さんとお婆さんに告げたのです。自分が生まれた湖に帰りたい、と……。心優しいお爺さんとお婆さんは、醜い獣の子の願いを叶えてやりました。そして、自分達に知恵と知識を与えてくれた醜い獣の子が安心して暮らしていけるようにと、ケンタウロス達は未来永劫、湖を守る事を決意したのでした」
……お終い、ですかね?
「それって……。その醜い獣の子というのはもしかして、帰らずの森に住まうという、太古からの神の事ですか?」
グレコの問い掛けに、クリステルはニコリと笑う。
「恐らくそうなんでしょうね。この辺りでは、帰らずの森の湖には島の守り神が住んでいるって、大昔から語り継がれているようだから。ただ、あたしの母は別の名前で呼んでいたわね。……あたしの母は、幼い頃からずっと、何度も何度もこの昔話をあたしに話して聞かせていたの。いつかきっと、この昔話を話すべき相手に出会えるからと言ってね。その者の姿形は分からないけれど、神に遣わされし、選ばれし者だからと言っていたわ。そして昨日、モッモちゃん、あなたがあたしの前に現れた。神様の事をペラペラと喋っちゃう、なんとも緊張感のないあなたがね♪」
うっ……、それを言わないでクリステル。
ほら、俺を睨み付けるグレコの視線が痛いじゃないか。
「じゃあおまいは、母ちゃんからその笛を預かって、選ばれし者ってやつを森に案内するよう言われてたんだな?」
「そういう事♪ その森の笛は、母が父から貰った物よ。元々は逢引の為に使っていたんでしょうけど♪ 母は不思議な人でね、時々未来が見えると言っていたわ。だから、モッモちゃんがあたしの元へ来る事も、あたしが成すべき事も、全部分かっていたんでしょうね。だからその笛をあたしに託した……。モッモちゃん、あなたはその笛を持って、タウラウの森へ行き、ケンタウロスに会って、森の湖で暮らす醜い獣の子に会わなければならない」
ほほう? あれか、未来予知とかいうやつか??
……何者なんだ、クリステルの母ちゃんは。
「しかし、何故モッモが、その醜い獣の子とやらに会わねばならぬのだ?」
ギンロが尋ねる。
「ごめんなさいね、理由はあたしも知らないの。けれど、選ばれし者は使命を背負っている。醜い獣の子は、選ばれし者を救うはずだ……、母はそう言っていたわ」
ほほほう? なるほどなるほど……、って、全然わから~んっ!
まぁ、その湖に、何かが居るって事はわかったな。
で、今の話の感じだと、間違いなくそいつはなんらかの神だ。
えっと……、蛾神か、河馬神か……、あとなんだっけ?
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「えぇ、どうぞ♪」
珍しくカービィが真面目な顔をして、クリステルに尋ねる。
「その……、おまいの母ちゃんの名前は何て名だ?」
「あたしの母の名は、アルテニースよ」
「なっ!?」
クリステルの言葉に、カービィは目と口、更には鼻の穴までをもあらん限り開いて、驚愕の表情になる。
よくもまぁ……、そんな変顔が一瞬で出来ますね。
「アルテニース!? まさか……、アルテニース・パラ・ケルーススかぁあっ!??」
耳がキーーーーン!!!
声がデカすぎるよカービィ!!!!!
「えぇそうよ。あらあなた、母をご存知なの?」
うふふと笑うクリステルに対し、カービィは手のひらを額に当てる。
「なんてこった、そういう事か……」
「何? 何なのよ?? どういう事なのカービィ???」
一人で事態を理解したらしいカービィに対し、苛立った様子で尋ねるグレコ。
するとカービィは、またもや真面目くさった顔でこう言った。
「アルテニースは、魔法王国フーガでも有名な、未来予知魔法の第一人者であった魔導師であり、更にはニベルーの……、アーレイク・ピタラスの弟子であったニベルー・パラ・ケルーススの、直系の子孫なんだよ!」
……え?
……えっ!?
……えぇええぇっ!?!?
つまり……、え、どういう事なの?????
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