345:決別の意思

「チカチカ光るぅ~♪ お目目の星よぉ~♪ はぁあぁ~ん♪」


ま~た訳の分からん歌を歌ってらぁ……


「も~、無茶し過ぎなんだよカービィは~」


軽く溜息をつく俺。


「ったく……、正気に戻ったら一発叩いてやるわ!」


う……、グレコ、手加減してあげてね?

悪い事をしたわけではなく、どっちかというと、良い事を頑張ってしてこうなったんだから、ね??


騎士団のテントに向かう俺とグレコ。

火山灰が止んだ世界は、眩しい太陽の光に照らされて、灰色から銀色へとその色を変えていた。

かさばる防護服は俺の神様鞄にキチンと片付けて、身軽になった体でサクサクと、キラキラと煌めく銀色の道を歩く。

綺麗だな~♪ なんて、俺は気楽に笑っているけれど……

グレコはちょっぴり不機嫌だ。

何故ならグレコの背には、文字通り目をグルグルと回して、完全にいっちゃってるカービィがいるから。

そこまで怒ってはいなさそうだけど……、うん、プチギレだね。







勉坐との話を終えて、地上階に向かうと、既にそこではカービィが倒れていた。

無理もない、ずっと興奮状態を維持して、怪我した鬼達を治療し続けていたんだから。

オーバーヒート、からの電池切れってやつですね。


勉坐は、雄丸とその他の戦闘団の鬼達、また老齢会の鬼達も含めて話し合いをし、これからの事を決めていくと言っていた。

けれど、少なくとも、以前のような外界の者を敵視する風習は必ず無くすと、それだけは誓うと言っていた。


まぁ、そうした方がいいよね。

きっと、これからは雨が自然に降るだろうけれど……

水不足の事だけじゃなくてさ、もっと、いろんな物とか文化とか、外の世界には素晴らしい物がいっぱいあるんだよって、鬼族のみんなには知ってほしい。

俺も、テトーンの樹の村のみんなに、外の世界の素晴らしさ、その広さを伝えたいなって……、今ちょっとだけ思い始めているからね。


「カービィさんのおかげで、重篤な者も皆助かった。意識を取り戻されたら礼を言いに行く。グレコさんとモッモさんは、カービィさんを連れて先に野営地へ戻ってくれ」


衛生班リーダーのロビンズにそう言われて、俺とグレコとおまけのカービィは、一足先にテントへと戻る事にした。

衛生班のメンバーは、もう少しだけ患者が残っているから、全てを診てからテントに戻ると言っていた。







「ポポポ!? カービィちゃん、どうしたポッ!??」


騎士団のテントまで戻ると、外ではノリリア達が昼ご飯の用意をしていた。

グレコの背にあるカービィの姿を見るなり、ノリリアは心配というよりも、怪訝な顔をした。


ははは~、何も言ってないのに既にやらかしたってバレてるなこりゃ~。

さすがノリリア、だてに付き合いが長くないわ。


「治癒魔法の使い過ぎで目を回したのよ。ちょっと、部屋まで運んでくるわね」


「ポポゥ……、グレコちゃん、大変ポね」


ノリリアの言葉にグレコは苦笑いしながら、カービィをテントの中へと連れて行った。


「ノリリア、これありがとう。返しておくね」


神様鞄の中から防護服を引っ張り出して、ノリリアに手渡す俺。


「ポポ、ありがとポ……」


防護服を受け取ったノリリアの表情がどこか曇っている事を、俺は見逃さなかった。


「……何か、あったの?」


「ポ、ポポポ……。ポピー、ここを任せていいポか?」


「いいですよ~ん♪」


いつものブリブリブリっ子な調子に戻っているポピーは、可愛らしくウィンクをしてそう言った。


「モッモちゃん……、これからの事について話があるポ。ここじゃあれだから、テントの中で話すポね」


「うん。わかった」


ノリリアに連れられて、俺もテントへと戻る。


……まぁ、ノリリアの雰囲気からして、何がどうなったのか、大して察しの良くない俺でも理解はできる。

問題は、何がどこまで可能なのか、という事だ。


「ポポゥ……。座ってポ」


テントに入ってすぐの談話室の、テーブルの椅子ではなくソファーに腰掛ける俺とノリリア。

何故テーブルではないのかというと……、テーブルの椅子は高すぎて、ノリリアと俺じゃあお互いに自力で座れないからである。


「ギルド本部に、連絡をとったんだね?」


「ポポポ……、それで……。やっぱり、カービィちゃんを含め、モッモちゃん達四人をプロジェクトに同行させる事は出来なくなったのポ」


うむ、想定の範囲内である。

まぁそうだよね、こんな、どこの鼠の骨とも分からない奴らを、大事なプロジェクトに参加させるわけにはいかないのだろう。

白薔薇の騎士団というギルドが、どの程度の規模の組織なのか、俺は正直把握していないが……

一国の王の直属である王立ギルドっていうくらいなんだから、かなりきちんとした組織に違いはないのだ。

そして、今回のプロジェクトは、歴史的にもハイパー重要なものであると俺は認識している。

即ち、そのような大事な大事なプロジェクトに、部外者を立ち入らせてはいけない、そういう事だろう。


「団長は元々、カービィちゃんと折り合いが悪いのポ。モッモちゃんが時の神の使者である事を差し引いても、カービィちゃんがプロジェクトに関わる事だけは許せないって言って……、はぁ~。ごめんポよぉ~。モッモちゃんも、ここまで来ておいてそれはないだろうって、思うポねぇ~?」


頭を抱えるノリリア。


一体全体、本当に、カービィは何をやらかしたのだろう?

そこまで嫌われてるって……、ほんと、何したんだ??


俺が時の神の使者であるって事を、ノリリアが白薔薇の騎士団の団長にすんなり話してしまった事は、この際無視しておこう。


「それで……、その……。僕たち、船も降りなくちゃ駄目なのかなぁ?」


「ポポ? それはどういう……??」


「えっと……。僕たち四人の目的はさ、あくまでもパーラ・ドット大陸に辿り着く事なんだ。その方法が、船で行くしかないってだけであって……。正直、ピタラス諸島は経由するだけで、そこまでその……、ノリリア達のプロジェクトに、どうしても参加したいわけじゃないんだよ。だから、プロジェクトには参加しないから、船に乗せてもらう事だけは出来ないかな?」


そう、大事なのはそこなのである。

俺たちの目的はあくまでも。パーラ・ドット大陸に存在するという精霊国バハントムへ行く事。

ピタラス諸島はただの通り道に過ぎないのである。


アーレイク・ピタラスの墓塔、別名封魔の塔に、様々な呪いを解く方法が眠っているとか、アーレイク・ピタラスさんが時の神の使者で、更には数百年後に悪魔を倒す者が現れるとかいう予言的なものも、ぶっちゃけ俺の旅には関係ない。

勿論、港町ジャネスコのスノーなんちゃらとか、喜勇達の呪いを解いてあげたいとは思うし、俺は曲がりなりにも時の神の使者だから、先輩であるアーレイク・ピタラスさんがやろうとした事、やろうとしたけどやり切れなかった事、やり残した事などを、後輩の俺がしなくちゃならないのかも知れない、とも思うけど……


ハッキリ言って、神様は俺に、そんな事しろなんて一言も言ってないのだ。


「僕は……、パーラ・ドット大陸に辿り着けるのならば、この先ずっと、船の中に缶詰でも構わない」


俺の言葉にノリリアは、ちょっぴり残念そうな、更には寂しそうな顔で俯いた。

だけど、こうでも言わなきゃ……

どうしてもプロジェクトに参加したい! だから船に乗せてっ!! なんて事を言えば、それこそノリリアが困るだろう。


「そう、ポか……。そうポよね……。わかったポ。団長も、プロジェクトに参加する事を拒否しただけであって、船に乗る事自体は何も言ってなかったポね。もう一度その事を本部に報告して、乗船だけは出来るようにお願いしてみるポ」


ふんっ! と意気込むノリリアに対し、俺はふっと表情を緩めるも……


「ただ……。今現在モッモちゃん達は、白薔薇の騎士団のお金でタイニック号に乗船しているポ。もし、プロジェクトに参加する意志がなく、それでも船には乗りたいという事なら、乗船料を別に払ってもらわなきゃいけなくなるポ。それでもいいポね?」


キリリとした表情で、俺の意志を確認するノリリア。

これはきっと、決別の意志の確認だ。

ここからは別々の道を行く、本当にそれでいいのか? と……


「うん、分かった。お金の事なら大丈夫、心配しないで。だから、僕達が船に乗れるように……、団長さんに許可を貰えるように、よろしくお願いします!」


俺はぺこりと頭を下げた。


あっさりと決断した俺の言葉に、ノリリアがどんな顔をしているのか、見るのが嫌だったから……

しばらく俺は、顔を上げられずにいた。

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