346:私たちは私たちで

「え~、そんな事言っちゃったのっ!? ……私、ずっと船に缶詰なんて嫌よ」


「それは物の例えであろ? さすがのモッモも、この先ずっと、船内に籠り切るつもりではなかろう。のう??」


「う……、ごめん、何も考えてなかった」


俺の言葉に、グレコとギンロは揃って溜息をついた。


ノリリアと話がついた後、俺はグレコを追って、テントの二階へと向かった。

グレコはギンロの部屋にいて、椅子に座っていた。

まだベッドから出られないギンロは、頭側の壁を背もたれにして、ベッドの上で体を起こしている。

治癒魔法の使いすぎで目を回したカービィは、ギンロのベッドの足元側で、大の字になっていびきをかきながら眠っていた。


俺は、ここから先は騎士団のプロジェクトには参加できない事、船には乗せてもらえるようにギルド本部に掛け合ってもらえる事などなど、ノリリアと話した事の一部始終を二人に話して聞かせた。


「でもまぁ、仕方がないわね。船に缶詰は困るけど……。あ、けれど、コトコの遺産はどうするの?」


「あ、それなんだけど……。ノリリアに渡しておいた」


「なっ!? どうしてよっ!?? あれは粗霊アメフラシが、モッモに託したものでしょう!???」


「だって……。そうは言ってもさ、僕はもう、もしかしたらアーレイク・ピタラスの墓塔には行けないかも知れないし……。あれが塔の鍵の一つなら、塔の攻略を目的とするノリリア達には必要でしょう?」


「そうだけど……、でも……。あ~も~、どうして相談もなしにそんな事しちゃうのよ~」


頭をわしゃわしゃ、顔をくしゃくしゃにするグレコ。

あ~あ、せっかくの美人が台無しですよ?


「しかし、いずれは我らも、そのアーレイク・ピタラス殿の塔へ向かわねばならぬのであろ? 何という名だったか……、モッモの想い人を、眠りの呪いから覚まさねばならぬのではなかったか??」


え? 俺の……、想い人??

誰よそれ???


「えっと、それは……、え、違うよ? ジャネスコのモーンさんとこのスノーなんちゃらは、別に僕の想い人でも何でもないよ??」


「なぬ? そうだったのか?? それは失敬」


……ったく、ギンロったら、中二病な上に異常に恋愛脳なんだから、もう。

想い人の呪いを解く為にって、乙女かこの野郎っ!


「けど、そのスノーなんちゃらもそうだけど、キユウさん達の呪いも解いてあげなくちゃ。ベンザさんと約束したんだもの。その為にもやっぱり、封魔の塔へ行くべきよ」


「うん……、でもぉ……」


それはグレコ……、君が勝手に約束したんでしょう?


「それに、アーレイク・ピタラス殿は、お主と同じ時の神の使者だったのであろ? それも、聞くところによると、数百年後に後継者が現れるという予言を残していたというではないか。それはどう考えても、お主の事であろう、モッモ。ならば、やはりお主は、何としてもその塔へと行かねばならぬのではないか?」


「やっぱり……、そうなる?」


でもさ、でもさ、神様は俺に、一言もそんな事言ってなかったよ?


「そうよ! プロジェクトに参加出来ないからって、封魔の塔へ行く事を断念する訳にはいかないわ!! ノリリアに渡しちゃった二つの鍵はこの際もういいから……。私たちは私たちで、残りの島で封魔の塔の鍵を探して、塔へと向かいましょう!!!」


「う、ん~、でもさ……」


「何よモッモ。まだ何かあるの?」


渋る俺に、グレコは眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「……残りの島にも、悪魔が潜んでるかも知れないんでしょ? 正直もう僕は、悪魔なんて関わりたくないよ。また、ギンロみたいに……、誰かが傷付くのは嫌なんだ」


シュンとなって、下を向く俺。


コニーデ火山の山頂で、悪魔ハンニと戦った時……

ギンロがハンニにやられて倒れたあの時、本当に生きた心地がしなかった。

ギンロが……、大切な仲間が、死んじゃうんじゃないかって……

あんな思いをするのは、もう嫌だ。


しかし、そんな事を考えながら俯く俺を見て、ギンロは……


「ふっ……、ふはははっ! 何をしょげておるのだモッモよ。体の傷は戦いの証、戦士の勲章であるぞ。我は悪魔など怖くも何ともない!! 次の島でも、その次の島でも、敵が何体いようとも、我が不滅の剣で全てを蹴散らしてやる!!! そして、必ずやお主を守ってやろうぞっ!!!!」


鋭い牙が幾本も生え並ぶ怪物のような口を、食われちゃうんじゃなかろうか? と俺がビビるほどに大きく開けて、豪快に笑った。


強いな~ギンロは……

内蔵が飛び出る寸前までお腹を切られたくせに、全然懲りてないんだもんなぁ~。

不滅の剣て……、そんな名前があったのね、その二本の剣……、知らなかったわ~。


「大丈夫よモッモ。これからはもっと、慎重に動きましょう。そうすれば危険は避けられるはず……。だから、私たちは私たちで、やろうと思った事をやりましょう!」


小さくガッツポーズをしてみせるグレコ。


……てかさ、元はと言えばさ、グレコのせいだよね?

グレコが、袮笛から聞いた聖なる泉の古の獣に会いに行こうとか言い出したから……

グレコが一人で突っ走ったから……、グレコが暴走したから、こうなったんだよね??

あの時、真っ直ぐ船に戻っていれば、もうちょい違う結果になったと思うんだけど……、そこはどうお考えで???


「よし! そうと決まれば、さっさとお昼ご飯を食べて、ネフェとサリを探しに行くわよ!!」


「えっ!? ……やっぱりぃ~??」


「当たり前でしょ!? ノリリア達のプロジェクトから外されるって事は、次の島の情報も自分たちで一から収集しなきゃならないって事なのよ!?? ネフェとサリを探し出して、話を聞かなくちゃね!!! そうと決まれば……、私、お昼ご飯もらってくるわね♪」


グレコはそう言って、やる気マンマンな顔をしながら、勇み足で部屋を出て行った。


「……何やら、張り切っておるな、グレコのやつ」


「うん……。ギンロ、お願いだから、早く良くなってね。またグレコが妙な暴走を始める前に」


「う、うむ……。しかし、我にグレコの暴走を止められるとは思えぬが……」


「く……、はぁ~。そうだよねぇ~?」


俺とギンロは、お互いを見て、苦笑いするしかなかった。

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