258:情けは人の為ならず

「いらっしゃいま……、うおっ!? え……、あ、テッチャさん? それに、モッモさん」


「久しぶりじゃのぉ~、マッサよ!」


「ど~もぉ~」


 ボンザを鍛冶職人協会の洞窟へと送り届けた後、俺とテッチャとグレコは、オーベリー村にあるマッサのビルド屋へとやってきた。

 例によって、テッチャの金ピカ服に驚くマッサ。


「お久しぶりねぇ、マッサさん?」


 最後に店の中へ入って来たのはグレコ。

 何やら、とても挑戦的な顔でマッサを見ている。


「あ、お前は……。あの時の口悪女」

 

 グレコを見て、ボソッとそんな事を言うマッサ。


「口悪女? まだそんなことを仰るのね?? 盗人扱いした挙句、その相手に大事な大事な槍を取り戻してもらったっていうのに……、私には謝罪の一言もないわけ???」


 胸の前で腕を組んで、大層偉そうな目つきで、ギロリとマッサを睨むグレコ。


 こ、こえぇ……


 そうか、グレコとマッサが顔を合わせるのって、この村の宿屋での怒鳴り合い以来なのですね。

 あぁ、そんな事もあったなぁ~と、俺は呑気に懐かしく思う。


「う……、あの時はその……、すまなかったな……」


 視線をあらぬ方へ向けて、気まずさ全開で、ぼそぼそと謝罪するマッサ。


「あらぁ? 声が小さくて聞こえませんわぁ?? それに、謝罪する時は、相手の目を見るのが常識ではなくてぇ???」


 ぎゃあ!? 出たぁっ!??

 グレコのネチネチした言葉攻め!!!!

態度もさながらに、その言葉が相手の心をチクチクといたぶる、なんともいやらしい戦法!!!!!


「くぅ……、す、すみませんでした……、この通りです……」


 どうしてもグレコの目を直視できないらしいマッサは、深々と頭を下げてそう言った。


「ふふん……、分かればいいのよ、分かれば♪」


 マッサの態度に満足したらしいグレコは、機嫌を直して、周りをキョロキョロと見渡しながら、マッサの店の奥へと進んでいった。


「ご、ごめんねマッサ。グレコがその……、あんなに根に持っていたとは思わなくて……」


 おどおどとした様子で、頭を下げたままのマッサを気遣う俺。


「まぁ、女の恨みは怖いからのぉ~。これから女に関わる時は、その後の事も考えて、言動には気を付けるんじゃのぉ~」


 にやにやと笑いながら、グレコの後姿を見るテッチャ。


 なんか、女を知ったような口ぶりだけどさ……

 テッチャ、老け顔のくせして、実はまだ若干二十五歳でしょう?

 そんなに人生経験積んでないと思いますけどぉ??


 するとマッサは、ゆっくりと顔を上げて……


「うぉ……」


 大層屈辱的な表情を浮かべたまま、眉間をピクピクさせていた。






「あんなに沢山の資材、いったい何に使うのさぁ?」


オーベリー村の通りを、南へと歩く俺たち三人。

これから、村の入り口にある、カービィの幼馴染であるデルグが育てた高原ベリーを売っている、ナラおばさんの店に行くのだ。


「いやぁ、これから寒くなるでの。川の水じゃとちぃと冷たいじゃろうて、村に風呂でも作ろうかと思っての」


「あ~、なるほどお風呂ね! けど……、それにしても沢山買いすぎじゃない?」


「でかい風呂の方が、みなも使いやすいじゃろうと思うての」


「ふむ……。テッチャは偉いね、いっつも頑張っててさ」


「ガハハッ! まぁ、わし自身が入りたいっつ~のもあるがの? ガハハハハッ!!」


それでも十分偉いよ。

普通そこまで出来ないよ? ほぼほぼボランティアだしね。


「私も入りたいから、深さも考えてね?」


「おぉ、勿論じゃよ~」


グレコは、ちゃっかりしてるよな~ほんと。


テッチャは、マッサのビルド屋で、水を弾く特性を持つ、大きなザザレ石という石材と、目地材となるクリートという泥のような資材を、双方あるだけ買い占めた。

それに加えて、大きな竹材と、イラ草製の#茣蓙__ござ__#を、こちらもあるだけ全部買ったもんだから、店を出る頃には、マッサはグレコとの一件なんてすっかり忘れて、とても上機嫌だった。


ジャネスコの資材屋で買えばいいじゃないかと提案したものの、支部長のボンザが「ジャネスコの資材物価は異様に高い」とテッチャに助言したもので、ここオーベリー村のマッサの店に立ち寄る事となったのだ。

お支払いした金額は、109000センス。

名実共に、お得意様だなこりゃ……


こうして、財布の中の残金は、小銭を省いて20000センスのみとなり……

あまりに心もとない金額に、銀行に全て預けず、もう少し手元に残しておけばよかったと、俺は思うのであった。


「こんにちは~♪」


「あれまぁ! 坊やはいつかの!! 今日はエルフのお嬢さんも一緒なんだねぇ~。えっと……、あぁ、あんたはドワーフの!!! ……すごい格好しているねぇ~ 」


ナラおばさんは、以前と全く変わらない雰囲気で、店先で高原ベリーを売っていた。

こちらも少々、テッチャの服装を見て、引きつり笑いをしている。


「高原ベリー、また欲しいんですけど♪」


「はいはい♪ 今回は何人分いるんだい?」


本当は、村のみんなにお土産として買って行ってあげたいところなのだが……、チラリ。

お財布の中身を確認する俺。

小銭と紙幣を合わせて20910センス。

高原ベリーは確か、一人分が100ラム30センスだったから、四百人分……、いや、多めに買って五百人分……、となると……、15000センスかぁ……

うん、手持ちが心許なさすぎるな。


「どれ、今日はわしが払おうかのぅ」


俺の様子を見兼ねて、テッチャが懐から財布を取り出した。

これまた金ピカなお財布で、あまりの輝きに目を細める俺。


「え、テッチャ、いいの? お昼ご飯も払ってくれたじゃないか??」


「構わん構わん! たまには金を使っとかんとの。金は天下の回り物じゃて、自分のとこに回ってくるよう、使う事も大事なんじゃよぉ~」


ははん? 情けは人のためならず、てか??


「ありがとう! じゃあ……、六百人分くださいっ!!」


せっかく奢ってくれると言うのだから、盛大に甘えよう!


「あれまっ!? ま~たそんなに買ってくれるのかいっ!?? ありがとうねぇ~。けど、もう収穫期が過ぎちまって、生の物はこれだけしかないんだよ」


そう言って、ナラおばさんは店頭に並んでいる高原ベリーを指差す。

ザッと見て、二百人分ってところかな?

まぁ、ないなら仕方ないか……


「生の物はって事は……、他にも何かあるんですか?」


グレコが尋ねる。


「あぁ、保存食用に乾燥させた物なら沢山あるよ♪」


ほう? なるほどドライフルーツですな!?

グッジョブ! グレコ!!


「じゃあ、そっちを六百人分ください!」


「あ……、あはははっ! ありがとうねぇ!! 乾燥させた物は手間賃がかかってくるから、100ラム40センスになるけど……。構わないかい?」


テッチャをチラリと見る俺。


「構わんよ」


ニコリと笑うテッチャ。


おぉ! 男ですな!! テッチャ!!!


「お願いしま~すっ♪」


こうして俺は、テッチャの奢りで、六百人分の乾燥高原ベリー、合計24000センス分をお買い上げし、鞄へと詰め込んだ。

こっそりと、一粒だけ、つまみ食いした。


「高原ベリーは夏から秋にかけてが収穫期でね。秋から冬は乾燥した物を売って、春には新芽の間引き葉を使った茶葉を売り出すんだ。だからまた、是非買いに寄っておくれね♪」


「はい! また来ますっ!!」


ナラおばさんに手を振って、俺たちはオーベリー村を後にした。

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