253:アデュウッ☆

「ガッハッハッハッ! そんでおめぇ、そのフーフーとかいう奴は、勝手にどっかへ飛んで行っちまったってわけか!?」


「……フーフーじゃなくて、梟のホーリーね」


「そうそう、そのフーリー。……ぐぐ、ぶははっ!? そのロリリアっちゅうやつも、可哀想にのぉ!? なんちゃら団の副団長なんて肩書きを、小さいくせに背負っとるんじゃろうっ!?? そりゃもう、国へ帰ったらこってり絞られるじゃろうて……。ガッハッハッハッ!!!」


「……フーリーじゃなくて、ホーリー。それに、なんちゃら団じゃなくて、白薔薇の騎士団のノリリアね!」


「ガハハッ! いやぁ~、面白いのぉ~。モッモ、おめぇ、いつかわしの国に来たら漫談でも開くとええ。おめぇの話は面白いっ!! 国の親父たちに聞かせりゃ、そりゃあもう、ガッポガッポ儲かるぞ!!!」


……どうしてもこう、金儲けの方に傾くよね、テッチャと話しているとさ。


ふ~んと鼻から息を吐く俺。

すると、テッチャの家の扉が開いて……


「ただいま~♪ 貰ってきたわよ~。テッチャおすすめの、満月屋の蒸しポンディー♪」


ちょっぴり頬をピンク色に染めた、ほろ酔いグレコが帰ってきた。


「おぉ! それじゃそれじゃ!! いやぁ~、ソアラとロアラはなかなかに料理上手での!!! わしが教えたドワーフ伝統のツマミを、見事に再現してくれたんじゃよぉ~♪」


待ってましたと言わんばかりに、手の平を擦り合わせるテッチャ。

グレコが持っている小さな籠の中には、ホカホカと湯気を上げる、ま~るい黄色のお饅頭みたいな物が沢山入っている。


俺の幼馴染、ピグモルのソアラとロアラの姉妹は、宣言通りに村で店を開いていた。

その名も満月屋。

ピグモルの体系は皆一様にまん丸で、まるで満月に見える、……とかいうテッチャのとても失礼な意見から、その名が付いたそうだ。

小さな露天式の店なんだけど、これがもう、流行っているのなんのって……

毎日毎晩、大行列の大繁盛らしい。

ピグモル達の生活には貨幣制度がないから、ただ食べ物を作ってみんなに配っているだけなのだけど、テッチャだけは、ちゃんとお金を払っているそうだ。

露天の隅には、ここでは全く価値のない銀貨や銅貨がジャラジャラ入った箱が、無防備に置かれているのだった。


パクリ、と一口、お饅頭を頂く俺とグレコ。


「ほぉ? なひこれ?? えひみたひ!!!」


ほくほくのお饅頭を、ハフハフしながらそう言ったグレコ。

うむ、確かに海老の味がするな。

前世の食べ物で例えるなら……、しゅうまい、みたいな感じだ。


「おいひいね♪」


俺も、ハフハフしながらそう言った。


「いやぁ~、川で採掘しとったら、たまたま目に入ってのぉ~。まさかとは思ったが、デタラッタの周辺の川に生息するポンディーと呼ばれるジャリガニが、ここにもおったんじゃよ~。しかも、ここの川のやつの方が、デタラッタにおったやつよりも何倍も大きいでの。おったまげたのなんのってもう……、パクッ、ハフハフ……、ゴクン! ん~、美味いっ!!」


ほほう? ジャリガニとな??

……って、ザリガニか~いっ!??


「じゃあ、おツマミも揃ったところで、改めて……。ウルトラマリン・サファイアの高額売却を祝しまして! 乾杯っ!!」


「カンパーイっ! お金がたくさ~んっ!!」


「乾杯じゃぁっ! ガハッハッ!!」


こうして、本来の目的を忘れた俺とグレコは、何やらかなりの高値で売れたらしいウルトラマリン・サファイアの、パッと見ただけでは金額がわからないほど0が並んだオークション売却額通知書とやらを前に、テッチャの家で祝杯を上げるのであった。






……時を遡ること、八時間前。


「それじゃあ出発するポ~、忘れ物はないポか~?」


テントを片付け、荷物をまとめたノリリアが、最終確認をみんなとしている時だった。


俺は、さすがにもう来ることはないだろうとは思いつつも、イゲンザの神殿にも導きの石碑を立てておこうと、神殿周りを見渡していた。


「モッモ、ちょっといいかい?」


そう声を掛けられて振り向くと、そこには肩にキノタンを乗せたホーリーが立っていた。


「ん? あぁ、ホーリー。どうしたの??」


五百年前の偉人に対し、もはや敬語のカケラもない俺。


「うん、君はその、瞬時に場所を移動できるそうだが……。モゴ族の村へも行けるのかな?」


「あ、うん、行けるよ。カービィが無駄に石碑を立ててたからね」


「そうか、なら助かったよ」


「どうかした? モゴ族に用事があるの??」


「いやぁ、そのぉ……。君に頼みたくてね。このキノタンが、俺と一緒に行きたいって言うもんだからさ。君から長老に話しておいてくれないかい?」


「えっ!? キノタン、旅に出るの??」


「ノコ! 勇者ホーリーと共に、世界を見て回るノコ!!」


ほう? 何やら、目覚めたような顔をしてらっしゃるわね。

勇者ホーリーって……、勇者は君なんじゃないのかね、キノタン君よ。

……ややこしいからどうでもいいけど。


「ん~、まぁ~、じゃあ~。……うん、わかった! テトーンの樹の村へ帰る前に、モゴ族の里へ寄って、長老さんに話しておくよ!!」


「ありがとノコ!」


「恩にきるよ、モッモくん!」


「でも……、ホーリーは今からオーラスと一緒に、一度魔法王国フーガへ戻るんでしょ? モゴ族は、絶滅したと思われている幻獣種族だから……。キノタン、誰にも見つからないように、ホーリーの服の中に隠れておいたら??」


拉致された経験を持つ幻獣種族の先輩として、キノタンにアドバイスをする俺。


「その心配には及ばんよ。俺とキノタンは、フーガへは行かない」


ホーリーの言葉に、俺は目をパチクリさせる。


「え……? でも……。え?? なんで???」


「時にモッモくん、この世で一番大切なものはなんだと思う?」


「は? 何いきなり??」


「いいから、答えたまえ」


……そんな事、言われてもなぁ。


「うんと……、愛とか、勇気とか?」


「ほぅ? ありきたりだな」


はんっ!? いきなり聞いておいてなんだよおいっ!??

そんなすぐ、この世で一番大切なもの~なんて、思い浮かぶかってんだよっ!???


「俺が思うこの世で一番大切なもの……、それは、自分を信じる心さ。どんな状況においても、自分の心に正直に、ありのままの自分を信じて行動すること。それが、生きていく上で、一番大切な事なのさ!」


お決まりの、ホーリーズ・キラキラスマーイル☆


「へ~、なるほど~」


棒読み、薄目の俺。


「それじゃあ、そろそろ……。俺たちは行くよ。またどこかで会えたら、その時は酒でも酌み交わそう!」


キラーン☆ は、もういらないけどね……

ん? 俺たちは、って……、えっ!?


するとホーリーは、折り畳んでいた翼をバッ! と広げた。

その翼は、俺が想像していたよりもずっと大きくて、美しい……

翼を広げたホーリーの姿は、空を行く鳥の王者のように、とても偉大だった。


「ポポ!? ホーリーさんっ!??」


瞬時に事を理解したノリリアが、慌てて声を上げる。

その声に反応して、帰る準備をしていた白薔薇の騎士団のみんなが一斉にホーリーを見て、懐から魔導書を取り出し……

なんと、杖を構えたではないか。


「えっ!? えっ!??」


何が起きているのかわからずに、アタフタとする俺。

ホーリーは、バッサバッサと大きな翼をはためかせて、上空へと昇って行く。


「ホーリーさんっ!? 待つポ!! くっ……、全員、攻撃っ!!!」


えぇええっ!? こっ!?? 攻撃っ!???


ノリリアの号令で、白薔薇の騎士団のみんなは一斉に魔導書を開き、口々に何かの呪文を唱えながら、それぞれの杖から様々な色の光線をホーリー目掛けて放った。


魔法だっ!? ホーリー、危ないぃいっ!??


しかしホーリーは、上空で、ぐるんっ! と一回転して、その勢いでブワワッ! と突風を起こしたかと思うと、自分に向けられたそれら全ての魔法を跳ね除けた。


やっべっ!? カッケェエッ!!!


「はっはっはっ! まだまだだね諸君っ!! またいつか会おうっ!!! アデュウッ☆」


キラーン☆ と輝くホーリースマイルを残して、瞬く間に、ホーリーは青空の彼方へと飛んで行った。


「逃しはしないぞぉっ!」


咄嗟にオーラスが、顎を突き出しながらその後を追ったが……

数分後、見失ったと言って、肩を落として帰ってきた。

突き出ていたはずの顎が、申し訳なさそうに凹んでた。

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