254:よっぽどタチ悪いんじゃないか?
「じゃあオーラス、団長への報告は任せたポね」
ミュエル鳥の背にまたがり、ノリリアはそう言った。
「うぅぅ~。なぁノリリア、やっぱり一緒に帰ってくれないか……?」
顎が凹んだまま、頭を抱えるオーラス。
「馬鹿言ってんじゃないポ! あたちがこの探索プロジェクトをすっぽかして帰る方が、もっともっと団長の逆鱗に触れるポねっ!?」
「うぅ、そうだよなぁ……。あ~も~、なんだってこんな事にぃ~……」
「ポポ、だから言ったポよ、ホーリーさんから目を離さないでポって……。久し振りに会えたからって、ポピーといちゃこらしてるからこうなるポ!?」
ふむ、オーラスはポピーといちゃこらしてて失態を犯したわけか……
「うぅぅ~。団長怖いんだよなぁ~……」
涙目のオーラス。
「大丈夫だオーラス! なんなら、おいらが逃したとでも言っておけ!!」
ヘラヘラと笑いながら、ドンと胸を張るカービィ。
おお? 何やら男らしいね、カービィ君よっ!?
「ポポ!? オーラス、団長の前で、カービィちゃんの名前は絶対に出しちゃ駄目ポよっ!?? あたちもまだ、今回のプロジェクトにカービィちゃんが同行しているって言ってないのポ。ど~しても融通の効かない旅行客四名が、無理矢理に乗船する事になった、としか言ってないのポね。なのに、カービィちゃんが同行していて、なおかつプロジェクトに参加してるなんて知ったら……。ポ~ポポポ……、それこそオーラス、生きて故郷の国には帰れないポよっ!??」
……ノリリア、なかなかな嘘ついたのね君。
ど~しても融通の効かないって……、まぁ、当たっちゃいるけどさ。
「ひぃい~!??」
小刻みに震え、ちびりそうな顔のオーラス。
可哀想にオーラス。
ちょっとポピーといちゃこらしていたせいで、そこまで恐ろしい事になるなんてね。
あ! あ~あ……、意中のポピーが残念そうな表情で見てますね~。
終わったな、オーラス……、どんまい!
それにしても……
白薔薇の騎士団の団長って、そんなに怖い人なのか?
まぁ、国一番の王立ギルドっていうくらいだから、団長もそれなりに厳しくないと、成り立たないのかねぇ?
「さぁ、もう時間ポ! あまり遅くなると、それこそ何かトラブルでもあったかと言われるポ。出来るだけ平然と、当たり前のように、イゲンザ・ホーリーは逃げました、と報告するポね」
え? ノリリア、それでいいの??
「それで……、大丈夫、なのか……?」
かなり不安げなオーラス。
「仕方ないポよ。真実を伝えないと、後でもっと恐ろしい事になるポね。大丈夫。プロジェクトが無事に終了して、あたちも国に戻ったら、一緒に弁明するポよ。それまでの辛抱ポ!」
それって……、ノリリアが国に戻れるのって、たぶん、あと一ヶ月以上は後になるよね。
……うん、よくわかんないけど、オーラス頑張れ!
「はぁ……、逃げる場所はない、か……。よし……、帰るぞっ! 俺は帰るっ!! みんな、達者でなっ!!!」
そう言ってオーラスは、何故だか両目にタプタプと涙を浮かべて、大きく手を振った。
白薔薇の騎士団のみんなに見守られながら、神殿内から取り出した数十冊の書物を抱えた状態で、首から下げたあの土星型のネックレス、星雲のペンダントを握りしめるオーラス。
すると、星雲のペンダントから、七色の光が放たれて、オーラスの体をすっぽりと丸く覆った。
そして……
シュンッ!!
瞬く間にオーラスの体は、 七色の光と共に、その場から姿を消したのだった。
さらば、顎が残念なオーラスよ……
また会う日まで……
「それじゃあ、あたち達も行くポよ。モッモちゃん、グレコちゃん。二日後の夜、港町イシュで会おうポね!」
「モッモ、グレコさん、また後で!」
「モッモよ、ガディス殿によろしく伝えてくれ」
「は~い! またね~!!」
ノリリアとカービィ、ギンロ、そして白薔薇の騎士団のみんなが、ミュエル鳥やそれぞれの翼や羽で空に飛び立つ姿を見届けて……
「さっ! 私たちは、モゴ族の里とやらへ行きましょうか!!」
「ほ~い!」
俺とグレコは、仲良く手を繋いで、モゴ族の里へとテレポートした。
「ぎっ……、ぎゃあぁっ!? ばっ!?? 化け物ノコぉっ!!??」
俺とグレコの突然の訪問に……、特にグレコに対してだが、例によって、モゴ族の里はプチパニックとなった。
しかし、俺の事はちゃんと覚えてくれていたらしいモゴ族たちは、すぐさま落ち着いて、長老を呼びに行ってくれた。
俺は長老に、ここ数日間の出来事と、キノタンが実は勇者であって、五百年ぶりに目覚めたイゲンザ・ホーリーと旅に出た事を伝えた。
長老は静かに、最後まで話を聞いて、キノタンの世界を見てみたいという思いを尊重して、大きく頷いた。
「キノタンはまだ若い……。ひと回りもふた回りも成長して、大きくなって帰ってくる事を願いますノコ」
長老は、遠い目をしてそう言った。
「ほんっと~に、いろんなキノコがいっぱいね~♪」
長老と俺が話をしている間に、持ち前のコミュ力を生かして、グレコはモゴ族達と仲良くなっていた。
「エルフの女神、グレコ様!」
「グレコ様! 万歳っ!!」
……どうやったら、そんな風にすぐ、彼らを手懐けられるものかね?
色とりどりの、大小様々なモゴ族達に囲まれて、グレコはキノコのお姫様になっている。
「ん~っと~……。何かこう、珍しい物が欲しいのだけど……。この森にしかないような、とっても珍しい素材って、ないかしら?」
そんな事を、モゴ族達に注文するグレコ。
いくら仲良くなったからって、そんな急に言っても、モゴ族達は何にもくれないよ~?
……なんて、俺は思ったのだが。
「ロキソの実はいかがですノコ? 食べると頭痛を引き起こす実ですノコ」
マッシュルームのような体をしたモゴ族が、緑色の果実をグレコに手渡す。
何それ? 頭痛を引き起こす??
いったい何に使うのさ???
「ソシソシの草は、なかなかに臭いですノコ。これもどうぞ!」
しめじのような体をしたモゴ族が、紫色の草を束ねて持ってきた。
臭……、くはないな。
強いて言うなら、ちょっと香りの強い紫蘇だな。
「これはいかがでしょうノコ? ラニバの小枝ですノコ。なかなかに痺れる味がしますノコ」
エリンギのような体をしたモゴ族が、白い小枝を数本担いできた。
痺れる味とか、食べたかないわ!
でも、この匂い……
なんていうか、バニラアイスのような良い匂いが、ふわんと俺の鼻に届いた。
「どれもこれも、私の知らない物ばかりね……。いいわ、全て私にくださいな♪」
グレコズ・ビューティースマーイル!!!
「ノコォウッ! みんなっ!! グレコ様に有りっ丈の物を差し上げるノコォッ!!!」
「ノココウッ!!!!!」
異常にテンションの上がったモゴ族達は、せっせといろんな物を運んで来始めた。
果実に葉っぱに、草木の根や枝。
中には蛇の抜け殻とか、小動物の骨みたいなものまでチラホラ……
グレコの周りには、遠目だとゴミにしか見えない、様々な素材の小高い山が出来上がっていく。
「ね、ねぇグレコ……。これ全部、貰って帰るの?」
「え? うん、勿論♪」
オー・ノーウ。
それはきっと、俺の鞄で、って事ですよね。
こんな大量の、わけがわからぬ物を、俺の鞄に……
「モゴ族って、本当に親切なのね♪ こんなにたくさんくれるなんて♪」
せっせと山を築いていく周りのモゴ族達を見て、上機嫌なグレコ。
そして、俺は気付いてしまったのだ。
なぜ、モゴ族達がこんなにも、グレコに対して積極的に働きかけているのか……
グレコさんや、まだ清血ポーション飲んでませんね?
髪の毛、かな~り茶色いですよ??
そう……
モゴ族達は、ブラッドエルフが乾いた際に放つあの素敵な香りに、見事にやられてしまっていたのだ。
モゴ族の顔には、鼻なんて何処にも見当たらないから、どこからその匂いを嗅ぎ取っているのかはわからないが……
恐るべし、ブラッドエルフの魅惑の香りよ。
もしかして、意図的にみんなを誘惑していたあのグノンマルより、無意識にみんなを虜にするグレコの方が、よっぽどタチ悪いんじゃないか?
ニコニコと微笑むグレコと、必死に動き回るモゴ族達を、俺はなんとも言えない気持ちで見つめていた。
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