252:調査報告会
神殿調査開始から二日後の、トガの月10日。
「じゃあ、神殿調査の結果と、イゲンザ・ホーリーさんからの聴取を元に、今回の探索結果を総まとめするポね」
イゲンザ島探索五日目の昼。
白薔薇の騎士団のテント内にて、今回の探索の調査報告会議が開かれる事となった。
何といっても驚いたのは、大きなテントだな~とは思っていたのだけれど、中が想像以上に広かった事。
普通に、二階建ての家一軒分の広さがあるのである。
およそ二十畳はあると思われる暖炉付きの談話室に、風呂場とトイレのついた水回り。
二階には個室が五つあって、それぞれベッドと小さな机が完備されていた。
何やら、テントに空間魔法がかけられているとかなんとか……
こんな事なら、あんなに狭いグレコの簡易テントなんて使わずに、今度からこちらにお邪魔しようと、俺は思うのであった。
ノリリアの総まとめを要約すると、以下の通りである。
①イゲンザ・ホーリーの神殿内部は、強大な空間魔法によって空間が捻じ曲げられており、中に入った者の忍耐を試すために、長い迷路のような造りになってはいたものの、実際には、最後に現れた書斎の周りにある一本通路を、ぐるぐると迂回していただけだった。
②イゲンザ・ホーリーの書斎にあった書物は全て、歴史的に価値の低いものであった。なぜなら、現存する書物も中には存在し、現在では絶版となっている書物においては、その内容が現代学会では大きく覆されているからだ。しかし、興味深い内容の物も数点あったので、ホーリーの許可を得て、フーガへ持ち帰る予定である。
③イゲンザ・ホーリーの祭壇内にあった念写紙は、全く価値がないどころか、現代においては違法物と指定されているために、持ち帰る事は断じてない。本来なら、そのような物を五百年前より隠し持っていたイゲンザ・ホーリーは、フーガの裁判にかけられ、厳しい処罰が下される事になるわけだが……。今回は大目に見て、学会への報告はしない事になった。
④アーレイク・ピタラスの残した遺物は、パロット学士の鑑定により、何かの歯車であると断定された(舵輪ではないらしい……)。それも、その歯車の造り手は恐らくドワーフ族だという。歯車の外周に彫られている文字は、ドワーフ族に伝わる古代文字らしく、今すぐの読解は不可能との事。
⑤現代に蘇ったイゲンザ・ホーリー本人に話を聞いたところ、アーレイク・ピタラスによる大陸大分断が遂行された日時は、今から五百五十三年前、ヴェルドラ歴2262年、ナタの月の12日と断定。それから五年後の2267年に、イゲンザ・ホーリーは、アーレイク・ピタラスの遺物を後世の時空王の使者へと繋ぐため、自ら作り上げた神殿内にて眠りについた。
⑥眠りにつく際に、以前から親交のあったモゴ族に、神殿内の見取り図と、自らの封印を解く鍵となる金の剣を授け、遥か未来に現れるであろう時空王の使者を神殿内に導く者を勇者とする、という伝承をモゴ族に残した。そして、禁呪とされていた【銀糸の術】を自らにかけ、自分の体の時を止める事で、現代まで生き永らえた。
「以上六つが、今回の探索で得た情報の全てポね。ちなみに、イゲンザ・ホーリーさんはこの後、一度オーラスと共にフーガへと向かってもらうポよ。さすがに、五百年前の人物が今も生きていたとなると、あたちだけの手に負える話じゃないポからね……。何か質問はあるポか?」
ノリリアの言葉に、質問は特にないらしい白薔薇の騎士団のみんなは、シーンとなる。
だがしかし、俺にはしたい質問が山ほどあるぞ……
「はいっ!」
「はい、モッモちゃん」
「モゴ族の里にあった、金の玉はいったい何だったのですか?」
そう、そうなのである……
調査結果には、あの金玉……、もとい、神の瞳の事が一切盛り込まれていなかったのである。
「ポポ、それについては、イゲンザ・ホーリーさん自身もよく覚えていないらしいのポ。確かに、何かを守るようにと封印魔法を施した記憶はあるらしいポが……。そもそも、あれを手にできるのは、神の力を持った者だけだポ。イゲンザ・ホーリーさんにはそのような力はないポね。もしかすると、封印魔法はしたかも知れないポが、あそこに運んだのは別の誰かかも知れないポね」
ふむ……、ホーリーは覚えてないと?
なんて役立たずなんだ、あのナルシスト梟め……
少し離れた場所にいるホーリーを、俺はギロリと睨む。
ホーリーはというと、何やらぐったりとした様子で椅子に腰かけて、目の下には隈ができ、体中からどんよりとした空気を発しているではないか。
うん、かなり疲れているなあれは。
無理もないか、この二日間、ノリリアを始めとして、白薔薇の騎士団のみんなが入れ替わり立ち替わり、休み無くホーリーを尋問していたからな~。
仕方ない、そっとしておいてやるか……
「他に何か質問はあるポか?」
「はいっ!」
「え? はい、モッモちゃん」
「その……、祭壇の中から出てきた遺物の歯車の事なんだけど……。ドワーフなら、そこに書かれている文字が解読できるんですか?」
「あぁ、それは……。どうなのポ? パロット学士」
「その質問には私も答え兼ねます。ドワーフ族であれば何者でも読解できる、というわけではないかと……。例えば、ドワーフ族の中でも、教養のある貴族や王族の者であれば、古代ドワネス語を容易に読み書きできるやも知れませんが……」
ほう? 王族とな……
「あっ! 思い出したわっ!!」
急に、隣に座っていたグレコが大声を出したもんで、俺はビクゥッ! と体を震わせて縮こまった。
「そうよ! テッチャの家でそれに似たものを見たのよ私!!」
一人興奮するグレコと、何のこっちゃらほいほい、という顔の騎士団のみんな。
「確かに、テッチャ殿の家にそのような物があったような……。グレコと我が共に知っているものとなれば、テッチャ殿の家でそれを見ていたとて不思議ではない」
ギンロが深く頷く。
「ポポ、その……、テッチャさん? いったい何者ポ??」
「たぶん……、ドワーフの国の王子様……、だったと思う」
「うんうん、おいらもそんな風に記憶しているぞ」
カービィも深く頷く。
「ポポポ!? ドワーフ族の王族と知り合いなのポ!?? モッモちゃん、あなたって人は……」
驚きを通り越して、まるで珍獣でも見るかのよう目で俺を見つめるノリリア。
やめてよ~、そんなに見つめられると恥ずかしいじゃ~ん。
「じゃあさ、モッモ。おまい、あの歯車持って、テッチャに会いに行って来いよ。イシュの村にも石碑は立てたんだろ?」
「あ、うん、立ててあるね」
「えっ!? モッモ、あなたお利口さんになったわねぇっ!!」
……ねぇグレコ、子どもにするみたいに頭をナデナデしないでくだぱい。
みんなが見ていて恥ずかしいし、尻尾ほどではないけどゾクゾクしちゃうんだよぅ。
「じゃあ決まりポね。あたち達はこの後、準備が出来次第、港町イシュに向かって発つポよ。商船タイニック号がこの島を離れるのは三日後の朝だポ。だから、二日後の夜までには、モッモちゃんも戻って来てほしいポね」
「オッケー!」
「あ、ねぇ、私もモッモに同行してもいいかしら?」
「ポポ、もちろんポね、グレコちゃん」
はて? どうしたのだろう、グレコちゃん。
「モッモだけじゃ心配だからね。そんな大事な物、持っていくのに」
え~、何それ~。
なんでここへ来て子ども扱いするのさぁ~?
グノンマルからグレコを救ったのは俺だって事、もう忘れたのぉ~??
「じゃあ……、他に質問は……?」
「はいっ!」
「……ポポポ、まだあるポか、モッモちゃん」
「ホーリーは、フーガに帰って、軟禁されたりしませんかっ!?」
俺の質問に、騎士団のみんながハッ! となる。
……そうなのだ、俺は唯一、その事が心配だったのである。
別に、五百年の眠りから覚めたナルシスト変態梟が、祖国に帰って監禁されようが拷問されようが、正直どうでもいいっちゃどうでもいいのだが……
仮にもこの二日間、俺たちの調査および探索に、少なからず貢献してくれたわけである。
あんなによれよれになりながら……
みんなも、感謝の気持ちがなくはないだろう。
「ポポポ、確かに……。あまり考えてなかったポが……。学会の強硬派のじじぃ達ならやり兼ねないポね……」
ほう? 強硬派のじじぃがいるのか……
聞くからにたちが悪そうだな。
「だがノリリア、さすがにこの事実を隠すには、少々我らには荷が重いのでは……?」
アイビーが助言する。
まぁ確かに……
五百年前の偉人であるホーリーが生き残っていた、という事実を隠し、どこかからそれが漏れれば、ノリリアが責められる事となるだろうな。
魔法王国フーガの王立ギルド、白薔薇の騎士団の副団長としての名誉を守る為にも、ノリリアは厄介事など避けたいはずだ。
「ポポポ……、む~ん……」
腕組みをして、考え込むノリリア。
「心配には及ばないさ」
静かに話を聞いていた、疲れ切ったホーリーが声を出した。
「俺には翼がある。どこへ行こうとも、誰と会おうとも、俺の自由を奪える奴などいない。いざとなったら、この自由の翼で、大空へ羽ばたくさっ!」
キラーン☆ と、カッコつけたホーリーだったが……
可哀想に、目の下の隈のせいで、かなり痛々しいな。
「ポポゥ……、国には王立ギルド所属の衛兵達が何千といるポよ。そう簡単には……。けれど、あたち達も王立ギルドに所属している以上、規律に背くわけにはいかないポね」
「あぁ、それは重々承知しているさ。だから、俺の心配は必要ないよ、お嬢さん」
またもや、疲労困憊な様子でのキラーン☆
「ポポ、悪いポね……。じゃあ……、もう質問はないポね、モッモちゃん?」
「あ、はい、ないです」
「オッケーポ。それじゃあみんな、出発の準備を始めるポよ!」
「おぉお~!!!」
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