251:はは〜ん

「よ~っし! そうと決まれば、こんな所とはサッサとおさらばするぜっ!!」


ホーリーはそう言って、指をパチンと鳴らした。

すると……


ガコッ……、ズゴゴゴゴゴォ~!!!


何か大きなものが外れる音がしたかと思うと、轟音を立てながら、地面が揺れ始めたではないか。

地震さながらのその揺れに、俺は立っていられずに……


「おととっと……、あぁ~!?」


すってんころりん、コロコロコロ……

地面に転がった。


「きゃっ!? モッモ!!」


「のぉおっ!??」


転がる俺の尻尾を、グレコがむんずと掴む。


ひゃ~んっ!? 尻尾は掴まないでぇえんっ!??


なんともいえない、全身を駆け巡るゾワゾワに耐えていると、いつの間にか揺れは収まっていて……


「さ、その扉から出ようか」


ホーリーは、俺たちの背後を指差す。

そこには、先程までは無かった、木製の扉が現れているではないか。

そして、俺たちが落ちてきたはずの天井の穴は無くなっていて……

グレコが引っ張ってきたロープは、扉の向こう側へと続いている。


いったい……、何が起きたのかしら?


わけがわからず、固まる俺たちを他所に、扉へと近づいて行くホーリー。

そして、ドアノブに手を掛けた、次の瞬間に……


バーンッ!!!


「ほぎゃっ!??」


勢いよく、こちらに向かって扉が開いて、ホーリーはその顔面に扉アターック! を食らった。

あまりの衝撃に、酷い顔して倒れるホーリー。


「……ん? ぬ?? お主ら無事であったか。こやつは……、何奴だ???」


「あっ!? どうしてっ!??」


開かれた扉の向こうに現れたのはギンロだった。

どうやら、目一杯の力で扉を蹴り開けたらしく……

足元で、白目を向いてピクピクと痙攣し、意識を失っているホーリーを、不思議そうに見下ろしていた。






日が落ちて、夜が来た。


イゲンザの神殿周りにて、野営をする俺たち。

パチパチと、焚き火の火が爆ぜて、リーンリーンと、どこからか夜虫の鳴き声が聞こえてくる。


今夜の晩御飯は、根菜のポトフと、干物の炙り焼き(タレ付き)、そしてデザートはプリンである。

こちらの世界でも、プリンはプリンと言うらしい。

だけど……、味と舌触りはこう、どっちかっていうと、ババロアみたいな?

まぁ、美味しいからなんでもいいや♪


あの後、ギンロの後ろから、神殿内の書斎にいたはずの白薔薇の騎士団のみんなが現れて……

倒れて白目を向いたままの残念ホーリーを見て、何故だかみんなはすぐさま彼がホーリーだと気付いた。

どうやら、フーガに肖像画が残っているらしく、みんなはそれを見てホーリーの外見を知っていたらしい。

なぜカービィは知らなかったのか? と問うたところ、「いんや、おいらも知ってたさ!」という、苦し紛れの返事が返ってきたので、もう問い詰めない事にした。


ノリリア曰く、建物が揺れ始めたかと思うと、独りでに書斎の本棚が移動し始め、机の前にあったはずの落とし穴は消えて、代わりに壁に扉が現れたらしい。

そして、グレコが引っ張っていったはずのロープがその先に続いていることから、怪しいと踏んだギンロが、みんなの了承も得ずに、扉を、フェンリルキーック! し、あのような事となったそうだ。


そして一番驚いた事は、その書斎の外、三時間以上かけて歩いてきたはずのカクカク迷路は、綺麗さっぱり消えていて……

書斎の扉を開けると、部屋をぐるりと囲む通路が一つ現れただけで、その通路にある扉を開くと、もうそこは屋外だった。


「んん? おや?? はは~ん……、 神殿の最深部までは行けなかったんだなぁ???」


外で見張り番をしていたらしい、間抜けな言葉を口にしたオーラスの突き出た顎を目にして、俺は思わずブッと噴き出してしまったのだった。


 そして今、ババロア風のプリンを片手に、焚き火の前で憩いの時を過ごす俺。

 周りには勿論、グレコにカービィ、ギンロがいて、みんなでプリンをちまちまと食べていた。

 そんな俺たちの背後、ノリリアが寝泊りしている大きなテントの中では、ホーリーに対する尋問が行われている。

 テントには、ノリリアとホーリー、そしておまけのキノタンの小さな影が映っている。 

 ただ残念ながら、中の声は全く聞こえてこない。


「ノリリアも、ほんと容赦ねぇよなぁ~。気を失ったホーリーに、冷や水ぶっかけて目を覚まさせるなんざ……。鬼だな、鬼……」

 

 ババロア……、違う、プリンをちゅるちゅると食べながら、チラリとテントを見るカービィ。

 カービィの言葉通り、外に運び出してもなお意識を取り戻さないホーリーに対し、ノリリアは魔法で生成した氷水を思いっ切りぶっかけたのだ。

 勿論、ホーリーは驚き慌てて目を覚ましたのだが……


「大魔導師アーレイク・ピタラスの一番弟子、イゲンザ・ホーリーさん……。あなたには、聞きたい事が山ほどあるポ! こっちに来てポよ!!」


 そう言ってノリリアは、有無も言わさず、ホーリーをテントの中に引っ張って行ったのだ。

 それから約二時間近く、ノリリア達はテントにこもりっきりなのである。


 ……早く出てこないと、美味しいポトフが冷めちゃうよ?


「まぁ、仕方がないんじゃない? 私たちじゃ、彼のペースに流されて、上手く質問ができなかったしね。ノリリアが彼から話を聞いてくれた方が、私は安心だわ」


 まるで他人事だな、グレコよ……

 まぁ、師匠であるアーレイク・ピタラスから守るようにと頼まれた物と一緒に、あんなに破廉恥な物を祭壇に隠しちゃうような奴だからな、グレコがそう思うのも無理はないか。


「して……、受け取った物とは、先ほどパロット学士に渡していた、あの輪か?」


「あ、うん、そう。よく見てたねギンロ」


「うむ、何やらどこかで見た様な物だと思うてな……」


「あ、ギンロもそう思った? 私もなのよ。あの形に似ている物をどこかで……。でも、どこで見たのか全然思い出せない」


 ほう? グレコとギンロは、あれと似たような物をどこかで見た事があるとな??


「今パロット学士が鑑定しているから、明日にでもそれが何かわかるだろうよ。あと、神殿内の通路が無くなった事で、アイビー達が夜中まで内部調査をするらしいから、明日の昼にはここを発てそうだって言ってたぞ」


「あ、そうなんだ。じゃあ……、まぁ、予定通りには、港町イシュに戻れそうだね」


「そういう事だ☆」


 ホーリーの真似して、キラーン☆ とするカービィ。

 もう、すぐに真似したがるんだから……


「けれど、ホーリーさん、この後どうするのかしらね? ワコーディーン大陸のタジニの森に行くって言っていたけど……。とても危険な場所なんでしょう??」


「ん~、というかだな~。危険かどうかもよくわかってねぇ場所なんだ。調査に行った奴らは悉く行方不明になっているし、森の入り口付近で活動している狩猟師ハンター捕獲師キャプターの話だと、森の中には境界線ってもんがあるらしくて、それを越えると戻って来られないとかなんとか……」


 ひえぇ~……、そんなのオカルトばりばりじゃないかぁ~……


「ふ~ん……。でもほら、私たちの故郷である幻獣の森も、そんな風に言われていたわけでしょ?」


「ん、まぁな。おいらの知るところじゃあ、フーガにはクロノス山を越えた者はいねぇな」


「だったら、タジニの森っていうのも案外、行ってみたら大した事ないかもね」


 え~、それはちょっと、どうなのよグレコさん~。


「なんであれ、いずれはおいらたちも、タジニの森には行かなきゃならんだろうからな。もしホーリーが行くってんなら、また会えるかも知れねぇな!」


 え……、なんで? 

 あ! そうか……

 タジニの森には、神の光が沢山あるんだったっけか……

 え~嫌だなぁ~……、そんなオカルトチックな森。


「ともかく、無事に最初の鍵を手に入れられて良かったわ。一時はどうなる事かと思ったから。さすがに、あのグノンマルを倒したんだもの、帰りは大丈夫でしょ、きっと」


 ……いんや~、グレコ、遠足は家に帰るまでが遠足なんだよ?

 即ち、船に戻るまでは気を抜いてはいけないのであ~る。


「……プリン、お代わりはあるだろうか?」


「あ、僕も欲しい!」


「おいらも!」


「じゃあ私も!」


「うむ……、聞いてこよう」


 こうして、ギンロが貰って来た二つ目のプリンを四人揃って食べながら、イゲンザ島探索三日目の夜は更けていった。

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