250:俺の思い出
小さなキノコ型植物魔物のモゴ族から、まさかまさかの、勇者キノタン爆誕っ!
しかし、世界を守る勇者にしては、その体は小さすぎるのではっ!?
勇者って、勇者って……、こんなんでいいのぉおっ!??
「我が、勇者……。勇者……」
手に持った金の剣を見つめて、独り言のように繰り返すキノタン。
動揺しているのか、感動しているのか……
目しかないその顔からは、感情が全く読み取れませぬ。
「それで……、結局、恩恵って何なのかしら?」
話を戻すグレコ。
「それが……。悪い、恩恵ってのは嘘っぱちなんだ!」
顔の前で、両方の翼をパンッ! と合わせて、ごめんなさいのポーズをとるホーリー。
「嘘!? 何それ!?? どういう事よ!???」
半ギレするグレコ。
「いやぁ~、そうでも言わないと、時の神の使者がここを訪れてくれないんじゃないかと思ってさ~」
ナルシストな口調で言い訳するんじゃないよ、ホーリーこの野郎め。
つまりあれだろ? 自分の封印を解いて欲しいから、恩恵があるとか嘘を伝えて、俺をここまで導いたんだろ??
……え? でも、封印を解くのはキノタンの役目だったし、俺は何もしてないのだが??
俺、必要なかったのでは???
「じゃあ……、でも、おいら達に渡す物はあるんだろ?」
一通り、ホーリーの体を観察し終わったカービィが、会話に参加する。
「あぁ、それは勿論さ。アーレイク師匠から預かってる物があってね。あの祭壇の中に隠してある」
ふむ……、という事はやはり……
「おそらくそれが、ノリリアの探している、アーレイク・ピタラスの墓塔の鍵ね」
うん、やっぱりそうなるよね。
あ~あ、ちょぴっとだけ、カービィの言う金銀財宝ザックザク! てのを期待してたんだけどなぁ~。
ホーリーは、祭壇の上にある銀の繭の残骸を、顔をしかめながら取り払う。
今まで五百年もの間、自分を守ってくれていたものなんだから、もうちょっと丁寧に扱えばいいのに……
そして、繭を全部取り払い終わると、ホーリーは何処からともなく、変わった形の杖を取り出した。
さっき椅子を出した時も思ったけど、やっぱりこのホーリー、なかなかに凄い魔導師と見たぞ。
何にもない所から、特に呪文も唱えずに、椅子や杖を取り出すなんてさ。
まぁ、大魔導師と呼ばれたアーレイク・ピタラスの一番弟子なわけだから、凄い魔導師に決まっているんだろうけど……
でもなんかこう、性格がナルシストだから、とても残念だよね、うん。
「
ホーリーが呪文を唱えると、ただの四角い岩の塊だと思っていた祭壇が、その上部をズズズ~っとずらしていくではないか。
そして、その中に現れた物は……
「ん? え??」
「なっ!? 何よそれぇっ!??」
「うわ~お! すげぇっ!!」
顔をしかめる俺と、嫌悪感を露わにするグレコと、興奮するカービィ。
「おっと、忘れていた……。俺の思い出も詰まっているんだったぜ」
カッコつけてそんな事を言うホーリー。
だけど……、祭壇の中身は全然カッコよくないよそれ……
祭壇の中には、溢れそうなほど大量の、念写の紙が入っている。
そのどれもが、あられもない格好をした、美しいエルフのお姉さんの裸体なのだ。
もう、何て言うか……
思春期の男の子のベッド下な匂いがプンプンするわ。
「なんて破廉恥なのっ!? カービィ!! あれを全部焼き捨ててちょうだいっ!!!」
真っ赤に染めた顔を両手で覆いながら、グレコが叫ぶ。
「えぇっ!? あんなに素晴らしい物を何故っ!??」
驚きを隠せない様子のカービィ。
「まぁまぁ、待て待て……。確かこの奥に~、あったあった」
いかがわしい念写の紙の山を漁って、ホーリーが取り出したのは……
何それ? 舵輪??
船の操縦桿についているような、あの丸い、舵輪のような物だった。
ホーリーは、それを俺に手渡す。
ズシンとした重みがあるそれは、赤銅色の金属で出来ていて、それぞれ違う色の七つの宝石が埋め込まれており、周りには何やら読解不能な文字が彫られている。
「なんだこれ? 何かの……、歯車かなんかか??」
ふむ、カービィの言うように、歯車にも見えるな。
「俺にも何なのかわからないが……。アーレイク師匠が守れと言っていた物だからな、何か重要な物だろう!」
キラーン☆ と笑顔を向けるホーリー。
……そんな重要な物を、どうしてあんな破廉恥な物と一緒の場所にしまっておいたのだね君は。
「ちょっと! 早く閉めなさいよっ!!」
相手が、五百年前の偉大な魔導師であろうとも関係ないといった雰囲気で、グレコが怒鳴る。
「お、おぉ、悪いね……」
少々焦り顔で、ホーリーは祭壇の石の蓋を閉めた。
グレコの怒りは万国共通……、いや、万時代共通なのである。
「まぁとにかくだ……。俺の役目は、これを、次代の時の神が使わせし調停者に渡す事。ピグモル族の子どもがそうだとは思いもしなかったが……、それが神の選んだ道ならば、俺がとやかく言えるような事じゃない。えっと……、君、名はモッモ君と言ったか?」
「あ、はい、モッモです」
「うん、じゃあ……。モッモ君、これから君は、ここより南に位置する島の、オーガ族が暮らす岩山へと向かってくれ。俺の妹弟子であるコトコが、これとは別の何かを守るようにと、アーレイク師匠に言われていたはずだからな」
ふむ、やはり、アーレイク・ピタラスは、四人の弟子それぞれに、何かを守るようにと命令したわけか……
「ホーリーさんはどうするの? その……、五百年も眠っていたわけだから……。知り合いも、家族ももう……」
グレコは遠慮がちにそう言った。
確かにそうだ。
五百年間もこんな所で眠っていたわけだから、家族も友達も、誰一人として、もうこの世に生きてはいないだろう。
「ん~……。まぁ、こうなる事は全く想定してなかった訳ではないからね。五百年という時の長さにはちょっとばかり驚いたが……。家族やギルドの仲間達には、ちゃんとお別れの挨拶は済ませておいたさ。それに、フーガが健在なら、少なくとも同胞には会えるだろう。また新しく、友や家族を作るさ!」
キラーン☆ とするホーリー。
なかなかに前向きな奴だなこいつ。
けど何故だろう……、ホーリーが家族を作るって言うと、どうしてだか俺には卑猥に聞こえた。
「あ~その~……。めちゃくちゃ言いにくいんだが……。獣人ウルラ族は、五年ほど前に絶滅して、幻獣指定されたはずだ」
申し訳なさそうな顔をして、カービィが言った。
「なんっ!? 絶滅っ!?? ……なんだその、幻獣指定ってのは???」
「あぁ、五百年前には幻獣指定制度がなかったか……。その……、五年ほど前に、フーガで唯一のウルラ族だった爺さんが寿命で亡くなってな。その爺さんが、息をひき取る間際に言ったんだよ。この世界にはもう、ウルラ族は存在しないってな。実際、他の地域、他の国、他の大陸で、ウルラ族の目撃情報はない。だからもう、この世界にウルラ族は、おまいさん一人しか……」
うわ~、なんてこった……
五百年眠り続けていた間に、自分の種族が滅んでしまっていたなんて……
いくらポジティブシンキングなホーリーとはいえ、さすがにこれは堪えるのでは……?
だがしかし、ホーリーは、何やら腕組みをして考え込んでいる。
その表情からして、特にショックを受けた様子もなさそうだ。
「ほほう……、とすると……。ワコーディーン大陸にはまだ、タジニの森が存在するかい?」
お? なんかその森、聞いたことあるぞ!?
「あ、あぁ、タジニの森は存在するよ。でも……、え、まさか!? ウルラ族はもともと、タジニの森に暮らす種族なのか!??」
「ご名答。ただ、タジニの森のウルラの里を旅立つ者は、外の世界でその命を落とす際に、決してその存在を明らかにしてはならないという決まりがある。だからきっと、その、五年前にフーガで亡くなったというご老体も、その掟を守ったんだろう。俺は、外で暮らしていたウルラ族の子供だから、里の位置までは知らないが……。でも、掟の事は知っているし、タジニの森が元々の故郷である事も親から伝えられている。つまりだ……、タジニの森のウルラの里には、まだ同胞が生き残っている可能性がある、というわけさ!」
キラーン☆
ふ~ん……
なんかよく分からないけど、希望があるのなら良かったね!
「けど、タジニの森っていやぁ……。並みの冒険者では歯が立たねぇような、太古の森だって聞くぞ。大昔から生き残っている巨大なドラゴンや、見たことのない危険な魔族が暮らしているとかなんとか……。そんなところに、おまいさん、向かうってか?」
「な~に、心配には及ばないさ。俺を誰だと思っている? 勇者ホーリー様、だぜ??」
キラキララーン☆
今日一番の、ホーリーズ、ナルシストスマーイル!
無駄に眩しいっ!!
「おぉ! さすが、大魔導師アーレイク・ピタラスの一番弟子!!」
何故か感動するカービィ。
「……彼、いつから勇者になったのかしら? 違うって言ってなかった??」
辟易するグレコ。
「勇者ホーリー! 万歳っ!!」
テンションあげあげのキノタン。
そんな中、俺はというと……
手渡された舵輪、もしくは歯車を、しげしげと眺めていた。
これが、アーレイク・ピタラスの墓塔を攻略する為の、鍵……
全くもって、どんな風に使用するのかはわからないけれど……
でもとりあえず、これで、第一関門は突破だな!
ふ~んと、満足気に息を吐いて、それを両手でギュッと握りしめた。
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