234:モゴ族の使命

「真の調停者様とはつゆ知らず、失礼つかまつりましたですノコ」


ペコペコと頭を下げる長老とキノタン。


「いやいや構わんよ、苦しゅうない」


両手を腰に当てて、偉そうな態度で彼らを見下す俺。


先程までは、こいつ絶対に偽物だノコ、なんて思っていたはずの二人が、今は俺の前で頭を垂れているのだ。

これを快感と言わずになんと呼ぶ?

ふははははっ!!


「さ、用事は済んだポね。さっさとここを出て東へ行くポ~」


そそくさと立ち上がって、家から出ようとするノリリア。


え~、もうちょっと良い気分を味わわせてくれよぉ~。


「んだな! モッモ、それちゃんと鞄に入れておけよ~」


カービィも立ち上がって、ヘラヘラと俺に指示した。


え~、カービィもそんな感じなのぉ~?

もうちょっとこう、調停者様を敬う感じで接してくれないと……、あ! ほら見てよっ!?

長老とキノタンが訝しげな顔をしてるよっ!??


「ちょちょっ! ちょっとお待ちくださいノコ!! もうここを発つおつもりですノコ!??」


慌ててノリリアとカービィを引き止める長老。


「ポポ、あたちたちは先を急ぐポね。調停者がそれを持ってここを出ればいいのなら、モッモちゃんがそうしてくれるポよ。それとも他にも何かあるポか?」


決して怒っているわけではなさそだが、早く事を済ませたいらしいノリリアは、セカセカとした口調でそう言った。


「ノココッ!? まだお話しなければならない事がありますノコ!! キノタン!!! 急いであれを二階から持って来るノコ!!!!」


「わかりましたノコ!」


長老の言葉に、二階へと階段を駆け上がって行くキノタン。


「時に長老さんよ、ここから東へ向かう洞窟は通っていけるのか? そっちにも、モゴ族の戦士たちが待ち構えてたりしないよな??」


「ノコッ!? ここから東へ!?? となると……、地下道は使えませんノコ」


「ポポ!? なんでポ!??」


「それが……、ここ最近、森の木の根が洞窟内にも生え始め、特に東は我らとて通るのもやっとの狭さになっておりますノコ。あなた様方三人のみならなんとか進めましょうが……、面のお仲間様は体も大きい故、難しいかと……」


おぉ、まじか……

じゃあつまり、地上を行くしかないわけだな?

え、でも……、地上って、マンチニールの森の中でしょ??

有毒植物生物がわんさか溢れているって噂の、恐ろしい森なんでしょ???

……不安だわ~。


「なんで、東だけそんななってんだ?」


「理由は我らにも分かりませんノコ。ただ、西側は以前より生き物の往来が多く、戦士を遣わせて、この里へ向かぬようにとしておりますノコ。最近は特に、手足を縛られて自由を無くし、果てには自我をも失った輩が洞窟内を徘徊しております故……。戦士たちには、そのような者を発見したら、速やかに体の自由を解き、西の出口へと導くようにと伝えておりますノコ。ですが、西側はそうでも、東側は全くと言っていいほど、長年、洞窟内には獣一匹見当たりませんノコ。生き物が通らぬということは、樹木の根は踏まれずに生え放題。それらはやがて成長し、絡み合い、洞窟内を埋め尽くす。それ即ち、道が狭まるという事かと……」


なるほど、つまり、こういう事かな……?

有尾人達のデスゲームによって、西側の洞窟には定期的に人やその他の種族が放り込まれているけれど、東側はそういった事がないので、マンチニールの森の木の根が蔓延っている、という事か。

洞窟内で目を覚ました時に、解いてないカービィの縄が解けていたのは、きっとモゴ族の戦士のうち誰かがやってくれた事なのだろう。

チカチカと体を点灯させて、西の出口へと俺たちを導こうとしたのも、彼らにとっては外界の者である俺たちを、この里へ近付かせないようにと取った行動だったんだ。


「ポポゥ……。でも、ギンロちゃんなら、根なんて全部斬り払ってくれるポね」


「ノッ!? 根を斬るなんぞとんでもないっ!! 我らならばまだ森に住んで長い故、毒に対する耐性もそれなりにあります。しかし、あなた様方は昨日今日ここへ来られたばかり。もし万が一にも、根の切り口より零れ落ちた樹液などに触れれば、たちまち全身が毒に侵されてしまいますノコ!?? ……悪い事は言いませぬ、森の中を歩いていかれる方が得策ですノコ」


げっ、毒はヤバイな……

カービィが有尾人達に盛られた毒が何なのかは知らないけれど、万が一にでも俺が毒にやられて、あんな風な奇行に走るなんざ絶対の絶対に嫌だっ!!


「けど、地上にも有毒植物生物は多数存在するだろ? そっちの方が危なくねぇのか??」


「確かに、森の中は毒を持つ草木で溢れかえっておりますノコ。しかし、あなた様方が通れる道はあります。地下道を行き、不用意に根を傷つける事に比べれば、森の中を静かに進まれる方がよっぽど安全ですノコ。それに……、そこのキノタンは、森には詳しいですノコ。道案内として連れて行ってくださいノコ」


え? お?? キノタンを???


長老は、その手に自分と同じ大きさの羊皮紙を持って、よたよたと階段を下りてくるキノタンを指差した。


「道案内は必要ないポ。方角くらいわかるポね」


「いえいえ、そうはいきませぬノコ。キノタン、それをテーブルへ」


「はいノコ」


キノタンは、部屋の中央にあるテーブルの上に羊皮紙を広げて見せた。


「これは……、神殿の、図面ポ?」


興味深そうに、テーブルへと近寄るノリリア。


「左様でございますノコ。これは、勇者様が我らに授けし三つの宝の内の一つ、神殿の見取り図でございますノコ」


「ほうほう……。で、これがいったい何だってんだ?」


カービィも、その見取り図を覗き込む。


「神殿は、外観こそ小さく造られておりますが、中は何かしらの魔法の為にとても広いのですノコ。そして、予期せぬ侵入者を防ぐ為に、あらゆる仕掛けがされていると言われておりますノコ」


ほう? つまり、罠が仕掛けられてるって事か。


「ポポ、それは予想外ポね……」


「その……、でも、なんでおいら達にこれを見せるんだ?」


「我らモゴ族に託されし使命は二つ。一つ目が、先程調停者様にお渡しした金のオーブを守る事。二つ目が、金のオーブを手にした調停者様を、神殿の祭壇まで案内する事なのですノコ」


ほほう? つまり、金のオーブを手にできてしまった俺は、その神殿の祭壇って場所まで行かねばならんのだな。


「ふ~む……、なるほどその為の見取り図か……」


「けど、どうして調停者がその祭壇に行かなきゃならないポ? それも、その金のオーブを持って?? なんだか、怪しい臭いがプンプンするポね……」


顎に手を当てた全く同じポーズで考え込む、ノリリアとカービィ。


「その祭壇に何があるのかは知りませぬが、言い伝えでは、調停者様に何らかの恩恵をもたらしてくれる物だという事ですノコ。そして、その祭壇の扉を開く鍵となるのが、キノタンが携えている、勇者様より授かりし三つ目の宝、黄金の剣なのですノコ。よって、キノタンをあなた様方に同行させる事、調停者様であるモッモ様を神殿の祭壇まで送り届ける事、それら全てが、我らモゴ族の使命を果たす為に必要な事なのですノコ」


ほほほう? つまり……、えっとぉ……

だぁ~! 話が長くてまとめられねぇ~!!


「なぁノリリア。その、神殿の祭壇にあるのって、まさか……」


「ポポ、あたちも今それを考えていたところポね。金のオーブに鍵となる黄金の剣、そして見取り図……。そんな物をモゴ族に託してまで、時の神の使者であるモッモちゃんを神殿の祭壇に導こうとするその理由……。おそらくその祭壇には、あたち達が求めるものが眠っているはずポ」


おっ!? それってつまり!??


「アーレイク・ピタラスの、墓塔の鍵って事?」


「そういう事になるポね。やっぱり……、あたち達とモッモちゃんが出会ったのは、ただの偶然では無かったのかも知れないポ……」


おおうっ!? なんだか話が大きくなってきましたなっ!??


しかし、ここは一旦落ち着いて……

これからどうするのかを再確認しよう!


「じゃあえっと……、確認なんだけど……。今から僕たちは、キノタンと一緒に地上に出て、マンチニールの森の中を東へ向かって進んで行く……、って事でオッケー?」


「そうなるなっ! こりゃ~冒険の匂いがプンプンするぜぇっ!!」


「地下洞窟が無理ならそうするしかないポね。あまり気乗りはしないポが……。キノタンちゃん、勿論森には詳しいのポね?」


「勿論。森の中は我らモゴ族の庭とも呼べるほど、隅々まで熟知しておりますノコ」


「オッケーポ。それじゃあ長老様、キノタンちゃんをお借りして行くポね」


「はい、よろしくお願い申し上げますノコ。キノタンよ、我らモゴ族に課せられし使命、しかとやり遂げてくるが良いノコ」


「はいっ! 分かりましたノコ!!」


……こうして、俺とカービィとノリリアとギンロの四人パーティーに、モゴ族のキノタンが加わって、東に存在するイゲンザの神殿を目指す事となったのであった。


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