204:自己紹介 (その1)
「あ~、あ~、ゴホン……。ちゅ~も~くっ!!!」
音楽隊の演奏を止めて、ザサークが甲板の真ん中にある大きな箱の上に立って声を上げた。
「お集まりの皆様方! ご機嫌ようっ!! それではここで、これからの航海へ向けて、それぞれ自己紹介をして貰おうと思う!!! あ~しかしだな、今回はなかなかに数が多いんで、名前と種族の紹介は各団体のリーダーに行ってもらって、各々は一言ずつの自己紹介でお願いしたい」
おぉ、始まったぞ! 自己紹介タイム!!
「では~。このタイニック号の乗組員から紹介させてもらおう! ちなみに、乗組員はライラを除いてみんなダイル族だ!! まずはこの俺様……、ザサーク・キッズ!!! この商船タイニック号の船長だっ!!!! 何か問題が起きた時は、真っ先に俺様に知らせてくれっ!!!!!」
……あんたは自己紹介しなくてもいいだろうよ。
誰もあんたの事を知らない奴なんてここにはいないよきっと。
「そして、あ~……。野郎共っ! ここに整列っ!!」
ザサークの号令で、ワラワラと乗組員たちが甲板の真ん中に集まって、一列に並んだ。
「右から順に紹介する! 副船長のビッチェ!!」
「よろしく。船長がいない時は俺を頼ってくれ」
よっ! ビッチェ!!
パチパチパチ
「次! 航海士のライラ!!」
「ハーフ小鬼のライラだ! よろしく!!」
よっ! ライラ!!
パチパチパチ
「次! 操舵手のヘルマン!!」
「よろしくお願いしやっす!」
ヘルマンは初登場だな。
灰色の鱗を持つ、でっぷりとした体格の良いダイル族だ。
なんかこう、お相撲さんみたい。
「次! コックのダーラ!!」
「ダーラよ。お腹が空いた時は遠慮なく食堂に来てね~」
よっ! ダーラ!! 今夜も刺激的だねっ!!!
「次! コック見習いのパスティー!!」
「よっ! よろしくっ!! お願いしますっ!!!」
おぉ、ダイル族にも弱々しい感じの奴がいるんだな。
カーキ色の鱗を持つパスティーは、年齢も若いのだろうが、体が細く小さめで、ダーラと同じようにパントゥーのようだ。
お顔が、可愛らしい人間の少年のものなのである。
……なんだかちょっと、雰囲気が、オーベリー村のデルグに似てるな。
「それから、甲板長のバスク!」
「どうぞ、よろしくお願いします」
鮮やかな緑色の鱗を持つバスクは、ダイル族の中でもイケメンな部類に入るだろう。
こう、シュッとして、キリッとしてる。
「三つ子の乗組員、ギガ、グガ、ゲガ!」
「よろしくっ!」
「よろしくっ!」
「よろしくっ!」
うっ!? よく似た奴らがいるな~と思っていたら、三つ子かよっ!??
焦げ茶色の鱗を持つ、全く同じ風貌のダイル族が三人、全く同じ笑顔で同時に挨拶をした。
声も全く同じだし、息もピッタリ揃っている。
てか、名前……
親御さん、三つ子だからってその名前は……、適当すぎないかい?
……ん? てか、ダイル族はワニっぽいから、卵から生まれるのよね??
だとしたら、三つ子って……、何よ? どういう事なのよ??
「それから、積荷担当のカルゴ!」
「荷物管理は任せろ!」
薄ピンク色のダイル族もいるんだな~。
「最後に、客室担当のストルーだ!」
「皆さまが快適に旅が出来るよう、精一杯お手伝いしますね。よろしくお願い致します」
おぉ~、まんまダイル族の女性だ!
ワニ顔だからわからなかったぜ!!
水色の鱗が綺麗だ!!!
「以上! タイニック号の乗組員十二名!! てめぇらの航海は俺様たちが一手に引き受けた!!! 大船に乗ったつもりで、ドーンっと乗りやがれぇっ!!!!」
ザサークの言葉に、周りのみんなは大きな拍手を送る。
けど……、大船に乗ったつもりで乗りやがれって……
言葉は汚いし、言い回しも変だし……
さすが元海賊だな、うんうん。
「ふぅ……。名前を覚えるだけでも一苦労ね」
「うん……。あ……。僕、もうあの人の名前忘れたよ。あの白い、でっぷり体型のダイル族……」
「彼は操舵手のヘルマンね」
「あ、うん……」
なんだよグレコ、ちゃんと覚えているじゃんかこの野郎……、偉いねぇ~。
しかし、この後に白薔薇の騎士団の皆さんの紹介があるのかぁ~。
……うん、絶対に名前覚えられないなこりゃ。
「次は、フーガの王立ギルド、白薔薇の騎士団の皆さんに自己紹介してもらおうかぁっ! ノリリア、前へっ!!」
ザサークに指名され、テクテクと甲板の中央に歩いていくノリリア。
しかし、自力ではあのザサークが立っていた箱の上には乗れない為、ザサークがヒョイと持ち上げて箱の上に上げた。
……まぁ、箱の上に立っても、元々が小さいせいでなかなかに目立たないな。
「ありがとポ♪ えっと……。タイニック号の皆さん、今夜はこのような楽しい前夜祭にお招き頂き、誠にありがとうございますポ。それでは、改めて紹介させて頂きますポね~。あたちたち白薔薇の騎士団は、魔法王国フーガの王立ギルドだポ。そしてあたちは、白薔薇の騎士団の副団長を務める、ノリリア・ポーだポ。種族は妖獣狢族、出身国はここより東の離れ島にあるアリア小国だポ。今回の探索プロジェクトでは、あたちがリーダーを務めるポね。騎士団の事で何かあれば、あたちにご報告を……。以後、よろしくお願いしますポ~♪」
可愛らしい笑顔と声で自己紹介し、ペコリと頭を下げるノリリア。
なんというか、全くぬかりないお言葉の数々……
本当にしっかりしていらっしゃる。
「ぃよっ! ノリリアリーダー!!」
どうやら、白薔薇の騎士団にもお調子者はいるようだ。
ノリリアをよいしょするような声を上げている輩が一人いる。
先程目に付いたあの真ん丸フォルムの獣人だ。
……なんだろうなあいつ、妙に親近感の湧く外見をしてる。
薄い紫がかった毛並みの、鼠のような獣人だ。
「みんなが前に出てくると移動が大変だポ。なので、名前を呼ばれたら起立して、皆さんに挨拶するポね~」
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