203:前夜祭

ドンドコドンドン、ドコドコドン♪


タラリラタラリラ、タラリラリ~♪


ピーヒョロピーヒョロ、ピロロロロン♪


「わぁ~お! 豪華ぁ~!!」


辺りに響く音楽と、目の前に広がる光景に、瞳をキラキラさせて、思わず感嘆の声を上げる俺。


「すっご~い……。なんだか想像していたものと全然違うんだけど♪」


隣のグレコも、楽しそうに周りを見渡す。


「……ぬ!? おぉ、あそこに美しいエルフの女子がおる」


白薔薇の騎士団の団員であろう、白いローブを身に纏った水色髪のエルフを見て、ギンロがムフフな顔になる。


「ん? あ~、あの子は駄目だぞ。女にしか興味ないんだあいつ」


カービィが、とんでもない情報をポツリと漏らした所で、ピンク色の彼女がこちらに気付いた。


「ポ! カービィちゃん達っ!! いらっしゃいポ~!!!」


可愛らしい声と笑顔で、ノリリアは俺たちに向かって大きく手を振った。


ここは、商船タイニック号の甲板。

時刻は午後の六時過ぎ。

薄暗くなった港にて、一際明るいこの場所で、今夜はパーラ・ドット大陸を目指す大航海の前夜祭である。


音楽を奏でているのは、この日の為に雇われたのであろう、音楽家らしい五名のラビー族たち。

甲板の真ん中に赤い絨毯を敷いて、その上で、軽快で楽しげな音楽を響かせ続けている。


食堂のものであろう、机と椅子が無造作に設置され、魔法でいろんな色の炎が灯されたランプが沢山宙に浮かんでいて、なんとも幻想的で美しい。

コックのダーラが作ってくれたのであろう料理の数々と、それに負けない数のお酒が用意され、まさに豪華なブッフェ形式のパーティーである。

漂ってくる料理の良い匂いと酒の匂い、流れてくる音楽に、自然と俺の体はウキウキと揺れていた。


「野郎共! 今夜は飲み明かすぞぉっ!!」


「うおぉおぉぉ~!!!」


ザサークの乾杯の音頭に合わせて、グラスを高く掲げて、雄叫びを上げるダイル族の乗組員たち。

ピグモルたちの宴がおままごとかと思えるぐらい、ダイル族たちの飲みっぷりは凄まじい。

ギャハギャハ! と大声で笑って、お酒を樽ごとぐびぐび飲んでいる様なんてもう……


「まさに海賊」


彼等の姿を見て、苦笑いしながらボソッと声に出す俺。


「モッモ、その言葉はこれから禁句ね?」


「う……、あいあいさ」


グレコに釘を刺されて、視線を別のところに向ける俺。


白薔薇の騎士団の皆さんは、総勢十八名。

みんないろんな姿形をしているけれど、お揃いの白いローブと胸のブローチで統一感が半端ない。

なるほど、これが魔法王国フーガで最強と謳われるギルドの皆様か……

エルフが一番多い、のかな?

全く何の種族なのか見当もつかないような、節くれだった体の細い種族の方とか、体がほとんどまん丸に近いような太り方をしている種族の方もいるけれど、みんなどことなくお上品な雰囲気を醸し出している。


カービィは以前、このギルドに所属していたと言っていたけれど……

だとしたら、相当浮いていたんじゃなかろうか?

みんなどう見ても、下ネタなんて言いそうにない雰囲気だしね。


そんな事を思いながら、少し離れた場所の小さなテーブルの椅子に腰掛けて、ノリリアが凝視する中、ノリリアテストをせっせと回答しているカービィをチラリと見る。

頑張れカービィ、頭の中のカンニングペーパーをフル活用するんだっ!


「あ、こんばんは~♪ 楽しんでるぅ?」


黄緑色の肌に黒い三本角を持つ、小鬼のライラが俺たちのテーブルにやってきた。

お酒の入ったグラスを片手に、ちょっぴり出来上がっているらしく、頬をピンク色に染めている。


「こんばんは♪ 凄いわね、こんなに豪華な前夜祭だとは思わなかったわ」


「ははは! ザサークはああ見えて楽しい事が大好きだからね~。たぶん、航海の途中でも何かにつけて宴を開くと思うよ~」


ふ~む、それも海賊の頃の名残ですかな?

宴は楽しいので、沢山開かれる事に異論はありませんが……


遠くで踊るザサークを、ジーッと見つめる俺。


それにしても、なんだ? あの妙なステップは??

よくあんな足の動きが出来るもんだな。

俺があのダンスをしようもんなら、すぐさま足が絡まって、すってんころりんしちゃいそう。


「もう少ししたら、乗組員と乗船客の紹介が始まるはずだから。みんな一言ずつ話してもらうからね、何を言うか言葉を考えといて~」


ほほう、自己紹介をするのですな。

ここは一丁、可愛らしく決めなければ!


お酒をグイッと煽って、イカした自己紹介文を頭の中で考えていると、カービィがノリリアと一緒にこちらの席へ戻ってきた。

双方の表情からして、どうやら丸く収まったらしい。


「ふぃ~。いやぁ~、良かった良かった! なんとか合格したぜぇ~!!」


良かったねカービィ、頭の中のカンニングペーパーのおかげだね。


「さすがカービィちゃんポ! やれば出来る男だポ!!」


ノリリアさん、騙されてますよ?

こいつ、本当はズルしたんですよ??


「じゃあ、カービィの称号とかジョブ資格とかは……」


「勿論、抹消したりはしないポ! またいつか、あたち達のギルドに帰ってくるかも知れないポね、全部残しておいてあげるポよ~」


「ん? おいら、ギルドに戻る気はねぇぞ??」


「ん? まぁ~、可能性の話だポよ。団長も、カービィの除籍は惜しい事をしたって、反省していたポね」


「はんっ!? 何を今更……。おいらはもう、ギルドなんかにゃ縛られねぇぞいっ!!」


「ポポポ……。まぁ、気長に待っているポ~。それじゃあ皆さま、前夜祭を楽しんでポ~♪」


そう言って、ノリリアはカービィを残して去って行った。


「さ~て……。これで心置きなく酒を飲めるなっ!」


俺の隣に腰掛けて、満面の笑みを浮かべるカービィ。

……別に、飲んでもいいけどさ、ゲロ吐くのだけはやめてね?


「あんまり酔っちゃ駄目よ? 後でみんなの紹介があるんだから」


ブッフェコーナーから、適当なおつまみと小さなジョッキに半分ほどのお酒を入れたものを持ってきて、カービィに手渡すグレコ。


「おう? なかなかにちゃんとしてるんだな、あの船長」


遠くにいるザサークを、チラリと見る俺たち四人。

何やら白薔薇の騎士団の可愛い女団員達に囲まれて、ニマニマと嬉しそうに笑っている。

ただでさえも全身黒光りのアダルトマンなのに、あんな顔していると、ただのエロ親父にしか見えないな、まったく……


「……羨ましい」


「……激しく同意」


カービィ、ギンロ、やめなさい……、はしたないっ!!


「ねぇ、紹介の事だけど……。やっぱり、種族を偽って言うの? 私の場合、なんだったかしら?? チェリーエルフ??? とか言わなければいけないのかしらね」


グレコがカービィに尋ねる。


「ん~……。正直言うとな、騎士団の奴等には本当の事言っても平気だと思うんだ。フーガは魔獣も妖獣も関係なく、どんな種族でも入国可能な国だからな。ただ、ダイル族達にはどうかな~? と……。おいら、あいつらの事よく知らねぇんだ」


ふむ、なるほどなるほど。


「我は……。いつかバレるならば、最初からフェンリルであると言っておきたいのだが……」


「私も、乾いた時の為にも知っておいて貰いたいわね~」


うん、まぁ、二人の言い分はわかるよ。

俺だって、自分がピグモルだって言いたいしね。


「じゃあ……。おいらたちの自己紹介は最後に回して貰ってだな……。騎士団たちがどんな自己紹介するのか見てからにしよう。あいつらが何も偽らずに話すなら、おいらたちもそうすればいい」


「オッケー♪」


「え? あ、モッモは駄目だぞ??」


「えっ!? なんでさっ!??」


「なんでさって……。ピグモルは世界的には絶滅種で、今や幻獣指定されている種族だからな。騎士団の奴等にバレたら、研究対象としてフーガに連れて行かれるかも知れねぇぞ?」


「えぇえっ!???」


ま、ま、じ、かぁ……

くぅ~! なんてこったぁっ!!

俺は、いつになったら、ヌート族のモッモから卒業できるんだぁっ!??

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