192:お調子者

「それじゃあ、二日後の夕方六時にここで!」


ライラの言葉に頷いて、俺たち五人は船を降りた。

甲板に立ち、手を振るライラに笑顔を返しながら、改めて船の外観を見た俺は、ほぅ~っと溜息をついた。


でっぷりとした船体、三本のマスト、見るからに頑丈そうなその有様、大きな商船タイニック号。

前世の記憶が正しければ、十五世紀の西洋で、貿易船として開発されたキャラック船という船があったはず……

タイニック号は、その姿を彷彿とさせる。

堂々とそこにあって、荒波などには負けない、ドーン! とした強さを感じる。


中を見せて貰ったから、この船がいかに凄いか、今ならよくわかる。

そんな船で、ちょっぴり強引ではあったものの、冒険の旅に出られるなんて……

ほんと、俺ってば、なんてラッキーなんだろう!


「カービィちゃん、この後どうするポ? もうお昼ご飯の時間だポよ」


「お、もうそんな時間か。 じゃあ……、せっかくだし一緒に食うか?」


……おい、ちょっと待てカービィ。

手持ちのお金が五万ちょっとな事わかってますか?

お高いお店は駄目ですよ?? 無理ですよ???

それに、誘ったら奢らなくてはいけないのでは……

特に相手は女の子だし……

そんな余裕はないですよぉおぉぉっ!!??


しかし、そんな俺の思いも虚しく……


町の中心部である商店街に立ち並ぶ飲食店の中でも、かなり高級そうなレストランをお選びになるノリリア。

しかも、何にも気にせず、ニコニコと後をついて入っていくカービィ。


……あぁ~。

……あぁ、どうしよぅ~。


店の入り口の前で、愕然と立ち尽くす俺に、グレコとギンロが気付いた。


「ねぇモッモ。こんなとこ入って大丈夫かしら?」


「やばいよグレコ……。手持ちがもう五万しかないんだ。しかも、宿代の16000センスは絶対に残さなきゃならないから……。シーツも枕も買わなきゃならないのにぃ……」


「まだ、銀行に預けた分があるのであろ?」


「うぅ、あるにはあるけど……。もしもの時の為にとっておきたかったのにぃ……」


「ん~、でもせっかく再開できた二人に、水を差すような事言いたくないしね~」


「え~、でも~……、お金ないよぉ~?」


「ふむ。とりあえず、メニューの一番安い物を注文しようぞ。グレコ、酒は控えるのだぞ」


「あいあいさ~。ほら、モッモ、行きましょ?」


「うぅ~。う~ん……」


あぁ……、お金貯めたかったのになぁ……

もう絶対下ろさないと足りないフラグ~。






「遠慮せずに食べてポ♪」


「いっただっきまぁ~す!」


「ふんふん……、うっま! これ美味いっ!! モッモ、食べてみろよっ!??」


「どれどれ……、はむはむはむ……、んんっ!? 美味しいっ!??」


「だろっ!? ここ最近で一番美味いぞこの店っ!??」


テーブルに運ばれてきた、牛フィレ肉のミディアムステーキ風の……、何の肉なのかはわからないけど柔らかくてジューシーなお肉を食し、あまりの美味に唸る俺とカービィ。


「ふふふん♪ 当たり前ポね。この店は、この港町で一番お高いお店なんだポ。シェフはヴェルハーラ王国の高級ホテルで修行を積んだ、超超有名な一流シェフだポ! 美味しくて当たり前ポねぇ~♪」


可愛らしいお顔には到底似合わない、泡がぶくぶくと出てくるビールのような、それでいてグラスに入ったお洒落な飲み物を片手に持ち、ノリリアは自慢気にそう言った。


「でも……、本当に良かったのかしら? こんな高いお店でご馳走になるなんて……」


若干戸惑いながらも、ちゃっかり赤ワインチックなお酒を頼んでいるグレコ。


そう、ノリリアは俺たちにご馳走してくれると言うのだ。

臨時の十万が入ったからと言って……

さっき、俺が肩代わりしたカービィのあれだな、うんうん。


「いいんだポ。明々後日から一月半以上もの間、海の上で、慣れない共同生活をする事になるんだポ? だったら、早く仲良くなっておいた方が、お互いに気を使わなくて済むポね~♪」


いやぁ~、すみませんねぇ~、気を遣わせてしまってねぇ~。

モグモグモグ……、ん~美味いっ!!!


「それにしても、お主のようなしっかり者と、カービィのようなお調子者が友だとは……。どのような経緯でそうなったのだ?」


ギンロが、いつものように甘~いケーキを頬張りながら、ノリリアに尋ねた。

お調子者って……、うん、まぁ、確かにね……


ノリリアは、ライラに船の中を案内して貰っている間ずっと、持参した手帳に熱心にメモをとっていた。

そして、船を降りる前に、疑問点をいくつか上げてライラに質問していたのだ。

見た目や口調の可愛らしさと、きっちりしっかりしている性格は、かなりギャップがある。


「あたちとカービィちゃんが出会ったのは八年前、ビーシェント国立魔法学校の入学式だポ。その時あたちは既に四年生で、入学式が行われる大講堂の三階から、一階に並ぶ新入生の列を眺めていたんだポ。新入生たちはみんな、これから始まる新生活に期待を膨らませて、その目はキラキラと輝いていたポ。なのに……、あたちがふと目にした新入生は、有り難~い学長の話を聞かずに、グ~スカ寝てたポ。それが、カービィちゃんだったポよ」


……何というか、カービィらしいな。

以前、一念発起して魔法学校へ入った! とか言っていたくせに、入学早々居眠りとは……


「その頃はまだ、あたちの毛並みもカービィちゃんの毛並みも、普通の色だったポ。けどそれでも、あたちは一目で、カービィちゃんがカービィちゃんだって気付いたポ」


ほほう? と言いますと??


「ねぇ、ノリリアは何ていう種族なの?」


おいグレコ、話の腰を折るんじゃねぇよ……


「あたちは むじなという妖獣族ポ。学術的には、マジク・ラコーンと呼ばれる事もあるポ」


狢って確か……

俺の前世の記憶シリーズによると、狸の妖怪だったはず。

化け狸、みたいな感じの奴だったはずだ。

……まぁ確かに、ノリリアは狸っぽいしな。


「妖獣族? 何それ??」


「ポポ、種族分類学の俗称だポ。魔物の中には、魔人族、魔獣族、妖獣族、妖精族といったように、細かい分類法が存在するんだポ。狢は、魔物の妖獣族とされているポ。と言っても、妖獣族の持つ妖力と、魔獣族の持つ魔力とは、その力の性質がほぼ同じであるという結果が研究で明らかになっているポから、魔獣となんら変わりないポね」


ふ~ん……

なんのこっちゃ分からんけど、世の中複雑なんですね……


「それで、なぜカービィがカービィであると、気付いたのだ?」


ギンロが話を戻す。


「入学式の前々日に、入学の許可を求めて学長室に侵入した不届き者がいるって噂になったポ。しかも、追いかけてきた学長に、身体中の毛が抜ける魔法をかけて、直して欲しければ入学させろと脅したらしい。とかなんとか……」


「ちょっと待て! おいらはそんな事してないぞっ!! 学長が禿げ面隠してカツラを被っていたから、髪の毛を生やす魔法を教えてあげましょうか? って言ったんだ!!!」


……ん~、ちょっぴり内容が違うけど、ほぼほぼ合ってるね。


「あ、そうだったポか? でも結局、学長はその後スキンヘッドになったポし、カービィちゃん、なんで入学できたポ??」


学長がスキンヘッドて……

そんな学校、入りたくねぇ~。


「学長が、いろんな魔法を試したけど髪の毛が生えないんだって言うから、生涯をかけて、髪の毛が生える魔法を研究します! ってカマかけたんだ。そしたら学長が大笑いして……、頼んだぞ!! って言われたんだおいらは」


……うん、要は、カービィのヘンテコさ加減を、そのスキンヘッド学長が気に入ってしまった、という事だろうね。

類は友を呼ぶとは言うけれど……

ほんと、運が良いよねカービィって。


「ふ~ん。そうだったポね~。それで、学長の話の途中で眠る奴なんて、ろくな奴じゃないポな~って思っていたポが、周りに聞くと、やっぱり例の不届き者だとわかって……。絶対に関わりたくないポと思っていたら、なんと、次の日から同じ貸家寮で暮らす事になってしまったんだポ」


おぉ、それはそれは……

ノリリアさん、災難でしたね……

しかし、何故男女が同じ寮に?

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