191:タイニック号、船内紹介

甲板を横切り、船首側へと歩いて行く俺たち。

船首楼の扉を開けて、中に入っていくライラに続く。


「ここから船内に入れるんだ」


沢山のぶっといロープや#錨__いかり__#のような巨大な金属物質が所狭しと置かれている船首楼には、船の下層に続く階段が設置されていた。

案内されるままに、階段を下りて行く俺とグレコとギンロとカービィとノリリア。


階段を降りた先は、とっても広い、酒場のような空間だ。

天井が高く、たくさんある丸窓から光が射し込んできて明るく、船の中とは思えないほどだ。

船首側にはキッチンと、食器棚やお酒が沢山並んだ棚が作りつけられていて、その前には対面式のカウンターテーブルがある。

カウンターの他にも、大きめの丸いテーブルが左右に三つずつ、計六つ並べられていて、椅子は全部で……、わからないけど、部屋の隅に積み上げられているのも数に入れると、ざっと百はありそうだ。

左右にある窓には金色のカーテンが掛けられ、床には赤い絨毯が敷かれていて、なかなかに小洒落た雰囲気である。


商船ってこう、荷物を運ぶためだけの船って感じで、もっと陰気なイメージを持ってたんだけど……

船長室といいここといい、家具は全体的にお洒落で品が良く暖かい雰囲気だし、壁には金属製のガラスランプがあちこちに沢山設置されているので、夜になってもきっと明るだろう。


こりゃかなり良い船と見たぞ。

貸してもらえる寝室も期待できそうだっ!


「ここは食堂。朝昼晩の食事はここでとる。コックはダーラだけど、もう一人見習いのパスティーっていう男の子が船に乗っていて、航海中は二人のうちどちらかが必ず食堂にいてくれるから、お腹が空いたら食事時間に関係なく気軽にここへ来るといいよ。だいたいそうだな……、朝日が昇る前にパスティーは起きて朝食を作り始めるし、ダーラはみんなが寝静まるまでここで作業してる。まぁ、ダーラの場合、自分が酒を飲んでるんだけどね」


ほう、ダーラはお酒好きとな?

あの風貌で酒好きとは、まんまだな。

……なら、一度は一緒に盃を交わしてみたいものですな! むふふ。


「あっちの大きな扉の先は食料庫と武器庫、それから客人の荷物部屋があるんだけど……。ノリリアさん、移動用の魔物を乗せるって言っていたっけ?」


「ポ! フーガのミュエル鳥っていう飛空用魔鳥なんだポ。性格は大人しいポが、あんまり窮屈な思いをさせると、ストレスで羽をむしるんだポ。全部で七体乗せて行きたいポが、スペースは充分にあるポか?」


「大丈夫だと思うよ。今回は大砲をいつもの半分しか積んでないからね、その分スペースが充分に空いているから、後で確認してよ」


「ポ、オッケーポ!」


ふむ、鳥型魔物を移動手段に使うとは、なかなかに面白そうだな。

記憶の中にある、あの黄色くて大きな、クエッ! と鳴く鳥を想像する俺。

飛空用と言っているので、たぶんそれとは随分違うだろうけど……


しかし、この世界の鳥型魔物っていえば……、幻獣の森のムーグルと、ダッチュ族くらいしか思い浮かばない。

ムーグルは、背中に乗ったら暴れそうだし、ダッチュ族はあの突き出たお尻に乗れそうだけど……、歩くたびに左右にプリプリ揺れてるもんだから、すぐに振り落とされそうだ。

うん、きっと違う、あんなのじゃないはず。


ミュエル鳥、いったいどんな鳥なんだろう、楽しみだ♪

……まぁ、俺たちが乗せてもらえるのかどうかはわかんないけどね。


「それから、甲板で見たかも知れないけど、この船の真ん中には空洞があるんだ。そこには、下層三階にある荷部屋に荷物を積みやすくするための滑車が設置されている。たぶん、下層二階の通路から見てもらった方がわかりやすいだろうから……。とりあえず、二階に向かおうか」


ライラに促され、食料庫と武器庫があるという部屋の扉は開かずに、階段を更に下りて行くと……、その先は部屋ではなく、細い通路に続いていた。

通路には、食堂と同じように金属製のガラスランプが沢山設置されていて、壁面には等間隔で扉が並んでいる。


「下層二階はみんなの寝室。ザサークだけは船長だから、さっきの船長室の奥にある自室で眠る。部屋は六人部屋で、十六部屋あるから充分に足りると思うよ。ちょっと中を覗いてみる?」


一番近い部屋の扉を開けるライラ。


ガチャリ……、ドキドキドキ……


ん~、思ったより狭いな、うん。


率直な感想だが、予想以上に狭かった。

俺の体が小さいから、当たっているかはわからないけど……、おそらく四畳半くらいだろう。

ほぼ真四角の部屋には、二つの丸窓と、壁収納式ベッドが六つ設置されている。

ベッドは、ギンロが余裕で寝られる広さがあって、ピグモルなら四匹で寝てもかなりゆったり使えるだろう。

そのベッドを壁から引き出すと、三段ベッドが両サイドに一つずつあるかのような形になる。

そうすると、ここも天井がかなり高いのでそこまで圧迫感はないものの、人一人が通るのがやっとなほどのスペースしか残らないのだ。


……まぁ、眠るだけならこれでもいいか。

それに、おそらく俺たちは四人で一部屋貸してもらえるはずだ。

俺とカービィは小さいし、グレコとギンロもそこまで馬鹿でかいわけではないから、ベッドも四つしか使わないだろうし、これだけのスペースがあれば充分充分。


「今回の航海は、白薔薇の騎士団が貸切にするって事だから、部屋割りはそっちに任せるよ。乗組員たちの寝室は船首側の二部屋を使うから、後は自由にしてくれて構わないよ」


という事は、かなりゆったり過ごせるわけか。

それならば、この狭さでも全然問題なしだ!

ベッドのシーツや枕は持参するようにとの事なので、明日みんなで買い出しに行くとしよう!!


「じゃあ、このまま通路を船尾側に進んで行くよ。あ、ここがさっき言っていた、積荷を下層三階に運び入れる為の空洞ね。みんなは荷穴にあなって呼んでる」


通路の真ん中に、突如として現れた大きな穴。

天井と床に同じ大きさの穴が開いていて、真ん中にロープが数本垂れ下がっている。

一応、穴の周りに柵があるから、よほど酔っ払ったりしてない限り、穴に落ちることはないだろう。


「あの階段は船の甲板まで続いている。その階段の奥に、浴場があるんだ」


通路の先にある螺旋階段を指差すライラ。

螺旋階段の横を通り過ぎて、大きな両開きの扉を開けると、モワッとした蒸気の匂いがした。

四人ほどで使えそうな広い洗面台と鏡、その両隣には赤と青の扉が一つずつある。


「ここは共同の洗面所ね。で、赤の扉が男湯、青の扉が女湯だ。中にトイレと脱衣所もあるから」


ほう? 赤が男で青が女とな??

俺の中にある前世の記憶だと、青が男で赤が女であるのが通常だったから、間違って女湯に入らないように気をつけないとな……


グレコとノリリアとライラは女湯を、俺とカービィとギンロは男湯を覗いてみる。

脱衣所は結構広くて、三つ並んで設置されているトイレもなかなか綺麗で嫌な臭いはしない。

水捌けの良さそうな床に、作り付けの棚がいくつかあって、使い勝手が良さそうだ。

そして、浴室へと続く扉を開くと……


「うぉっ!? すごぉおぉっ!??」


「こりゃ~広いなぁ~♪」


「うむ、ゆったり湯に浸かれそうだな」


白い石造りの浴室は、天井がこれまでの部屋の倍ほどあって、浴槽も銭湯並みに大きい。

船尾側には大きな窓があって、露天風呂気分を味わえる仕様になっている。

バルコニーにも出られるようで、風呂上がりの夕涼みにはちょうど良さそうだ。


なるほど、この天井の高さから考えると、浴場は下層一階と二階の天井をぶち抜いて、かなり大きく作られているようだ。

つまり、さっきまで俺たちがいた船尾楼の船長室の真下が、この浴場の天井ってわけだな。


しっかしまぁ、商船と言うくらいだから全く期待していなかっただけに、こんなに設備が整っているだなんて、本当に予想外!

食堂といい、浴場といい、明々後日からの船旅がすっごく楽しみになってきたぞっ!!


「女湯はこっちだよな~?」


ソワソワとしながら、女湯がある方の白い石壁にべったりと張り付いて聞き耳を立てるカービィ。

その行為を、無言で見つめる俺とギンロ。


「……お!? かすかにグレコさんの声が聞こえるぅ!!!」


興奮気味にムハムハするその姿に、ギンロはスッと目を細め、俺は小さく溜息をついた。


……もう、やめてよカービィ。

純粋に船旅を楽しみたいんだよ俺はっ!

そんな事していたって、後でノリリアに言いつけてやるっ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る