190:五十四日間
ゴブリンと言えば……
俺の前世の記憶にあるゴブリンとは、下記のようなものである。
その一、RPGの初期モンスターで、かなり弱い。
その二、可愛くない、……いや、醜い。
その三、肌が緑色で角があって、姿勢が悪くてお腹が出てて、かっこ悪い。
その四、棍棒を持ってて、野蛮で暴力的である。
その五、知性がかなり低い。
だがしかし、目の前のライラはそのどれにも当てはまらない。
確かに、肌は黄緑色だし、頭には小さな黒い角が三本あるし、ザサークと言い合う辺りちょぴっと暴力的な雰囲気も持っているから、ゴブリンの特徴としては一致するのかも知れないけれど……
お顔や体格は、どちらかというとエルフに近い。
とんがり耳に、愛らしい顔つきで、シャンと立っていてスマートである。
知性は問題ないだろうし、棍棒だって持ってない、当たり前だけど……
「まぁ、一括りに小鬼と言っても、種類が沢山あるからな。殊にこいつは、おそらく小鬼と何か別の種族のパントゥーだ。おそらくってのは、こいつの出生はハッキリしなくてな。なんせ、俺様が航海の途中で拾って娘にしたからな、わからなくて当然だ。まぁでも、安心しな、小鬼だからって、いきなりてめぇらを襲ったりはしねぇはずさ、なぁ?」
……途中までは、ちょっぴりしんみりとした気持ちで聞いていたのだが。
「襲うわけねぇだろうがっ!?」
ザサークにからかわれたライラが怒ったので、俺の中のしんみりした気持ちはスッとどこかへ消え去った。
「そうだったのね。ごめんなさい、余計な質問して……」
「いいって事よ! これから長く生活を共にするんだ、相手が何者かもわからねぇ奴と一緒にいるのはお互いにしんどいだろう。わかんねぇ事があったら、遠慮せずにバンバン聞いてくれっ!!」
「ふふ、ありがとう、船長」
反省を述べたグレコに対し、ザサークは気持ちの良い返事をしてくれた。
ふむ……
最初は外見の怖さで拒否反応が出ていたけど、ザサークといい、ビッチェといい、どうやらダイル族はかなり温厚な種族と見たぞ。
少なくとも、ユークやタークのような、見た目は可愛いのに中身が悪い奴よりかは、ダイル族の方がよっぽど好感的である。
……今のところは、だけども。
「さてと……、えっと、どこまで話したっけか?」
「乗組員の説明からでさ、船長」
「おぉそうか、悪いなビッチェ。でだな……、この船の乗組員は総勢十二名だ。俺様とビッチェとライラとダーラ、この他に八名。パントゥーもいるが、みんなダイル族だ。詳しくは出航の前夜祭で紹介するつもりだから、今日は数だけ伝えておく」
ふむふむ……
となると、乗組員十二名、白薔薇の騎士団員が十八名、俺たちが四人で、合計三十四名って事か。
なかなかに大所帯だな。
みんなの名前……、覚えられるか今から不安だ。
「よし、船の説明は以上だ。船の内部に関しては後でライラに聞いてくれ。じゃあ、本題に入ろうか……」
そう言うと、ザサークは机の端にあった小さな船の模型を取り上げて、地図上の港町ジャネスコの位置に置いた。
「今このタイニック号は、ここ、ワコーディーン大陸のモントリア公国、港町ジャネスコにいる。三日後にここを出発して、ランダーガン大海を南に進む。そして五日後の夜、もしくは六日後の早朝にピタラス諸島の最初の島に着く予定だ」
船の模型を動かしながら、丁寧に説明してくれるザサーク。
ふむふむふむ……
どうやらこの、ワコーディーン大陸の西に広がっている海は、ランダーガン大海と呼ぶらしい。
前世の記憶の中にある太平洋とか、大西洋とかと同じくらいに、大きく広い海だ。
「ピタラス諸島は、大きな五つの島と、六十五個の小さな島々で形成されている。俺様たちが上陸するのは、大きな五つの島だ。最初に上陸するのが、ピタラス諸島郡の最北端に位置するイゲンザ島。次が南へ進んだ先にあるコトコ島。三番目が更に南へ進んで、東へ向かった先にあるニベルー島。四番目が更に東にあるロリアン島で、最後に、ピタラス諸島郡のど真ん中に位置する最大の島、アーレイク島に上陸する。どの島も、このモントリア公国の領土より小さく狭い。島間の移動は、最長でも二日程度だろう。それに加えて、各島々で七日ずつ滞在する計算だと……、あ~、全部で何日だった?」
「ジャネスコ出港からアーレイク島を出港するまでの期間はおよそ四十六日ですね、船長」
「おぉそうだったな、悪いなビッチェ。……て事だ! ノリリアたちは、アーレイクから先へは行かねぇんだったよな?」
「そうポ。ただ、探索の結果、遺物が多い場合は一度に運べないポから、団員数名と遺物をパーラ・ドット大陸のサラブライまで運んで欲しいポね。サラブライからフーガへの直行便が出ているはずポから」
「お安い御用だ。一千万も貰ってるんだ、遠慮はすんなよっ!」
「ポポ、ありがとポ♪」
ふむふむふむふむ……
ノリリア達白薔薇の騎士団は、少なくとも、全員でパーラ・ドット大陸へ行く事はないわけだな。
……でも、その、アーレイク島からどうやって帰るつもりなんだろう?
船があるのだろうか??
いやいや、それならわざわざ商船に一千万も払って乗ったりはしないだろうし……
む~ん……、後でノリリアに聞いてみよっと。
「その後はどうなるのかしら? パーラ・ドット大陸まではどれくらいの日数がかかるの??」
グレコが尋ねた。
「よっぽどのトラブルやシケがない限りは、およそ六日から八日で到着するはずだ。風の向きと、ライラの調子によるがな。……て事でだ、ここからパーラ・ドット大陸の港町サラブライまでは、最長でも五十四日間必要となるってわけさ!」
ふぅ~むっ! 五十四日間かぁ~!!
なかなかに長旅になりますなこりゃあっ!!!
「そういやてめぇら、帰りはどうすんだ? サラブライに停泊するのはいつも通り三日間だけの予定だが……。そもそも、あんな
ザサークが首を傾げる。
辺鄙な所て……、やっぱりそうなのか……
以前グレコが、大陸中砂漠だらけって言っていたくらいだからな……
「まぁ、それは追い追い話そうとは思うが……。とりあえず、おいら達も探索が目的でパーラ・ドットに行くんだ。だから、三日間で帰るわけには行かねぇと思う。けど、待ってもらう必要はねぇよ。このモッモが、結構便利な魔道具を持ってるんでね、なんとか自力で帰ることはできる」
サラッと、ザサークの質問を交わし、必要なことだけを伝えるカービィ。
精霊国バハントムを探しに行く! なんて言ったら、それこそどうして? ってなるはずだし、そうなれば一から全部説明しなきゃならなくなる。
それは面倒過ぎるよなぁ……
カービィの言う通り、追い追いで良いだろう。
「そうかい、なら大丈夫だな。じゃあ……、俺様からの説明は以上だ。五つの島の地理的特徴とか、住んでいる種族のことなんかは、また出航後に話すとしよう。ライラ、後は頼んだぞ。俺様はちょいとダーラと明後日の打ち合わせをせにゃ~な」
「あいあいさっ! じゃあ皆さん、ここからは俺が船内を案内するから、ついてきてっ!!」
こうして、ザサークから航海の説明を受けた俺たちは、各々ペコリと頭を下げつつ、ライラに続いて船長室を後にした。
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