193:性別
「その、かしやりょうって、何なのかしら?」
グレコが尋ねる。
さすが田舎者、学校の寮制度なんてものは知らないのだろうな。
隣のギンロも、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「貸家寮っていうのは、ビーシェント国立魔法学校に入学した学生たちに与えられる家の事ポ。こう、学校の周りにプカプカ浮いていて、魔法線で学校と繋がっているポよ」
……あ~、ごめんなさいグレコ、田舎者扱いして。
俺も、ノリリアが言うような学生寮は知りませんでした。
……プカプカ浮いてる? なんじゃそりゃ??
「浮遊石と融合させた巨大な金属板の上に建てられた一軒家でな、土地を節約する為に、魔法で宙に浮かせているんだよ。だいたいそうだな……、たぶん、三百はあるんじゃねえかな?」
は? 三百?? 三百軒の家が、学校の周りにプカプカ浮いてるんすか???
「この間、また魔法線が切れて、四軒ほど風に流されて山にぶつかったらしいポ。そろそろ魔法線の強度を見直した方がいいポよね、あれは」
え~、そこじゃないと思う~。
普通に地面に家を建てれば良いと思う~。
「つまり、その貸家寮って場所で、学校に通う学生さん達は、共同生活を送る、って事ね?」
あ、まだそこ理解してなかったのねグレコ。
「そうだポ。あたちの寮には、先輩二人と、後輩一人の四人がいたポ。そこに、カービィちゃんが加わったんだポ」
「その……、貸家寮ってのは、男女混合の寮なの?」
話が前に進まないので、自ら尋ねる俺。
「違うポ。女の子は女の子だけ、男の子は男の子だけの貸家寮だポ。だけどカービィちゃんは、自分の性別を偽って、女の子の貸家寮に入居申請したんだポよ。ほんとにもう、呆れて物も言えなかったポ」
「え……、入居申請って事は……。学校側が、カービィが女の子の貸家寮に入る事を認めたってこと? どうして??」
「……カービィちゃんが、申請書で嘘の記述をしたからだポ」
ジトっとした目で、カービィを睨むノリリア。
「ん? 人聞きの悪い事を言わないでいただきたい。あれは、お茶目なおいらのスクールジョークだったのである」
はいはい、もう意味わからんよ君の言ってる事はさ。
話はノリリアに聞くから、カービィちゃんは黙ってお肉でも食べてなさい、ね?
「皆さん、身分証明書は持っているポ?」
「えぇ、あるわよ」
「そこに、性別は記載されてるポか?」
「え、性別? どうだったかしら??」
ノリリアの問い掛けに、各々の身分証明書を確認する俺たち。
しかし、俺の身分証明書には、性別の記入欄こそあれ、そこは空欄となっていた。
グレコのも、ギンロのも同じだった。
そう言えば、総合管理局で、種族とか出身地とか、年齢は聞かれたりしたけど、性別は聞かれた覚えがないな……
「ポ、空欄ポね」
「これは、どうしてなの? 自分で書くものなのかしら??」
「性別がちゃんと決まっている者は、自分で記入する者もいるポね。けれど、世の中には性別が決まってないどころか、性別という概念がない種族も存在するポ。およそ二十年ほど前までは、性別の記載も義務だったポが、制度が緩和されて、身分証明書の性別欄の記入は本人の任意となったポよ」
なるほど、それは……、あれかな?
前世の記憶で言う、両性類とか、そういう類のものかな??
それとも、オカマとか、オナベとか、オネェとか……、そっちの類のものかしら???
「じゃあ……、まさかカービィは……?」
「そうポ。カービィちゃんの身分証明書の性別欄には、女、と書かれているポよ」
……う、うえぇえぇぇっ!?
そ、そうだったのぉっ!??
「ほれ、これが証拠だ!」
ニヤニヤとしながら、鞄から見たことのあるパスケースを取り出して、中の身分証明書を俺たちに提示するカービィ。
そこには、念写された爽やかな笑顔のカービィと、性別欄に女の文字が……
「うっそ!? あなた、女だったのカービィ!??」
……おいグレコ、驚くところそこじゃない。
「いやいや、おいらは列記とした雄だぞっ!!」
……おいカービィ、雄とか言うな、何故か卑猥に聞こえる。
「ふむ、つまり……。女子と生活を共にしたいが故に、己の性別を偽った、という事か?」
「そういう事だっ☆」
「ほぅ……、さすがカービィ」
……おいギンロ、褒める事じゃないからっ!
「こうして、おいらの薔薇色ハーレムスクールライフが始まったのでした! 綺麗なエルフお姉様と、妖艶な翼人のお姉様、可愛らしい後輩ちゃん達に囲まれた、なんとも幸せな日々!!」
自分で言うんじゃねぇよカービィこの野郎っ!
鼻息を荒くするんじゃないよっ!!
堂々と胸を張るんじゃないよっ!!!
「すぐさま、学校の事務部貸家寮課に転居申請をしたポが、もうどこも空きがないとか言われて……。結局、飛び級に飛び級を重ねて、あたちと一緒の年に学校を卒業するまで、カービィちゃんはあたちたちの貸家寮で過ごしたポよ」
は~っと、重い溜息をつくノリリア。
相当迷惑を掛けられたらしい、当時を思い出しているのか、かなり疲れた顔になっている。
「しかしおまい、おいらが同じ貸家寮で楽しかったろ?」
どの口がそんな事を言えるんだか……
まさか、性別を偽ってまで、女子寮に忍び込むなんざ、誰も考えなかったんだろうな。
まぁ、他種族の者からしたら、外見をパッと見ただけでは男か女か分からなくても当然かも知れないが……
スキンヘッドの学長といい、男か女かちゃんと確かめないで入居させる事務といい、なかなかにいい加減な学校なんだな、ビーシェント国立魔法学校っていう所は。
「……まぁ確かに、楽しかった事はあったポね。先輩のお風呂を覗いたカービィちゃんが、お仕置きとして、一ヶ月間お風呂掃除とトイレ掃除を担当させられたり、後輩の下着を盗もうとしたカービィちゃんが、罰として、頭の毛を全部刈り上げられたり……、ポポポ、今思い出しても笑えるポね」
「そ、そんな事はなか……、いや、あったかも知れないけど! あれは若気の至りってやつでだなっ!?」
アセアセするカービィ。
どうやら、いっぱい悪い事をして、いっぱい恥をかいてきたようだ。
……余計な事をすれば、そんな風になるんだから、最初からしなけりゃいいのに。
「傑作はあれポね、惚れ薬事件……」
「ばっ!? それだけは誰にも言わない約束だろぉっ!??」
さらにアセアセするカービィ。
高級レストランに不釣り合いな大声を出すので、周りの客が白い目でこちらを見てくる。
……頼む、カービィ。
恥をかくなら君一人だけの時にしてくれたまえ。
ほら見て? あそこの偉そうなおじさんの顔。
静かにしないと、金に物言わせて追い出すぞ! とでも言いたげな顔してますよ??
でも、その惚れ薬事件……、ちょっぴり気になるな。
カービィはいったい、何をやらかしたのだろう?
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