189:たわわ

財布の中から、100000センス分の札束を抜き取り、ノリリアに手渡す俺。


「カービィがご迷惑を掛けました」


一応、謝罪のつもりでペコリと頭を下げる。

……なぜ俺が謝らなければならないのか? そこは正直、俺も分かってない。


これで残りは五万ちょっと……

宿代を払うと、残りは三万ちょっと……

はぁ~、貧乏金なしだね~ほんと。


「はい、確かに十万あるポね! カービィちゃんっ!? 今度はモッモちゃんに借金したんだから、早いうちに返しなさいポ!!!」


「う、あ、はい……」


小さくなってションボリとするカービィ。


大丈夫だよカービィ、俺はこの十万を返してもらおうなんてこれっぽっちも思ってないから。

代わりにと言ってはなんだけど、今後も俺の事を守ってね、よろしく!


「ビッチェとダーラ、連れてきたぜ~」


先程船長室から出て行ったライラが、二人の獣人を連れて戻ってきた。


「こっちはビッチェ、このタイニック号の副船長だ。ザサークがいない時はビッチェを頼ってね。ダーラは船のコック。前日の夜に注文つけておけば、次の日の夕食は注文したものを作ってくれるよ」


ビッチェと紹介されたのは、先程、俺たちが船に乗り込んだ時に船長室を教えてくれた、深緑色の鱗を持つワニ顔人間だ。


「ダイル族のビッチェだ、一応副船長って事で、よろしくな~。って言ってもまぁ、キッズ船長が船を空けるこたぁそうそうねぇから心配すんなよ。まぁなんだ、あんまり俺は出番がねぇだろうが、旅の途中で何か困った事があればすぐに言ってくれ」


怖~いお顔に似合わず、とっても優しいお言葉。

……うむ、人は見かけで判断してはいけないな。

そして、ワニ顔人間たちはダイル族という種族なんだな、ふむふむ。


「ダーラよ。私はダイル族と人間とのパントゥーなの。普段は船内の下層一階のキッチンにいるから、お腹が空いた時は遠慮なく足を運んでちょうだいね」


ダーラと名乗った女は、それはもうお色気ムンムンで、体格や顔はほぼほぼ人と同じだ。

ただ、ダイル族とのパントゥーというだけあって、首筋や露出している長い手足のところどころに、赤黒い大型の鱗が張り付いているし、目は鋭い爬虫類のものである。

日に焼けた小麦色の肌と、長くてウェーブのかかったブロンズ色の髪の毛、オレンジ色の口紅を引いた唇がとても印象的で、大人なお姉さんって感じがする。

そして、みんなと同じようにランニングシャツを着ているのだが……

これがまたエロいのなんのってもう……

上半身でたわわに実った二つの果実が、ダーラのちょっとした動きで左右に揺れるのだ。

……グレコもかなり魅力的ではあるものの、ダーラは比べ物にならないほど、男心をギュッ! と掴んで離さないボディーをお持ちなのである。


隣にスッと目を移すと……、あぁ、やっぱり……


「うほっ!? お美しいお姉たまっ!??」


どうやったらそこまで伸びるんだよっ!? と、突っ込みたくなるくらいにのびのびの鼻の下、目には真っ赤なハートがチカチカしている。

……そういやさっき、ムチムチが好みだって、ザサークと言い合っていたっけか。

なるほど、ボンキュッボン! がお好みなわけですね。

けど……、どう考えても、君とダーラじゃ体格差が激しすぎるよ、カービィ君。


そして、ダーラの魅力にやられた奴がもう一人……


「……美しい。絶世の美女である」


おい~、ギンロもかよ~。

おきまりのムフフ顔で、ダーラの肢体をガン見していた。

カービィはまぁいいとして、ギンロよ、君はダメだぞ。

いくらフェンリルが多夫多妻制であったとしても、人魚の世界もそうとは限らないだろう?

浮気したなんてバレたら、フェイアが悲しむぞ??

……悲しむだけならまだいいけど、怒って、海の底に引き摺り込まれたりして。

悪い事は言わない、ギンロ、やめとけっ!!!


「お~しっ、それじゃあ面子が揃った所で、明後日からの航海についての会議を始めようか!」


大きな船長机に、これまた大きな地図を広げてザサークは言った。

ワラワラと、テーブルを取り囲む俺たち。

しかし、……悲しい哉、テーブルが高すぎて地図が全然見えない。

俺と同様のピンク色した奴が隣に二人。

なので、ギンロとビッチェが無言でソファーを移動させてくれて、俺たち三人はその上に立たせてもらった。


「すみません、お手数おかけしまして……」


「ありがとポ♪」


「あじゃっす!!」


(先に言っておこう。これからは、このあまりの体格差による、ちびっ子三人組の可愛らしいシーンが増えていきますよ!)


「ノリリアには先日ざっくりと説明したが、カービィたちはまだ何も知らねぇだろうから、俺様が一から説明してやる!」


……ノリリアの事も、カービィの事も、客だと言うのにもはや呼び捨てなんだな、ザサークよ。

いや、いいんだ、豪快な海の男はこうでなくちゃ!

でも……、一応こちらのパーティーリーダーは俺なんだけどな。

なんだか、カービィのパーティーみたいになってるのがちょっと、気になるんだけども……


そんな事を思いながら、俺は机の上の地図に目を向けた。

俺の持っている、神様から貰った金属製の世界地図とは違って、この地図は世界の半分しか描かれていないようだ。

今いる港町ジャネスコがあるワコーディーン大陸と、その東の端から南に位置するピタラス諸島、更に南にあるパーラ・ドット大陸、その西にあるゴンゴール大陸のみが描かれている。

つまり……、俺の持っている世界地図でいうと右半分の部分だけが描かれていた。


「まず、俺様の船について説明する。このタイニック号は三本マストの四階層造りの商船だ。今いる船尾楼と船首楼が一階、キッチンや浴室、武器庫などがあるのが下層一階、下層二階は寝室、最下層である下層三階は荷部屋だ。まぁおそらく、最下層にはそうそう用はねぇだろうから、後でライラに下層二階までを案内させる」


ふむふむ、かなり大きな船と思ってはいたけれど、地下三階まであるとは恐れ入った……


「船長はこの俺様、ザサーク・キッズだ! 目的地まで商品と客を安全に送り届けるのが俺様のモットーだから、航海の心配はするな、何かあっても俺様が必ず守ってやる!!」


おぉ~、さすが船長だな、頼もすぅいぃ~!!


「副船長はビッチェ、航海士はライラだ」


えっ!? ライラ、航海士なのつ!??

航海士ってあれだよね、地図を見て船の進路を決める……、かなり重要な仕事だよね!???


「三年前まではもう一人、ベテランの航海士がいたんだが、もうかなりの爺さんだったもんで、かなりボケてて船が遭難しかけた事が何度かあったんだ。さすがにもう無理だと判断して引退してもらった。その後、この船に乗ってからその爺さんとずっと一緒に行動していたライラが後任に就いたってわけだ。まぁ、年端もいかねぇし、ガキンチョ丸出しな事ばっか言ってやがるが、航海の腕は確かだぜ? 安心してくれ」


俺の……、いや、俺たちの心の中を読み取ったかのように、ザサークがそう付け加えた。

不安は残るものの、ボケた爺さんよりかはマシだろうと、俺たち四人は納得した。


「ガキンチョ丸出しとか言わなくていいじゃねぇかっ!」


ライラがザサークに噛み付く。


「へっ! ほんとの事言って何が悪いんだよぉっ!?」


「何おぉっ!?」


げげっ!? また喧嘩がおっぱじまるのかっ!??


「船長、説明の続きを」


「お、おぉそうだったな!」


ビッチェの言葉に、ザサークとライラは睨み合うのをやめた。


なるほど、ビッチェが二人の緩衝材なわけか。

今度また二人が争い始めたら、ビッチェを探しに行こう!


「でだな……、そうそう、航海士はライラなわけだが、このタイニック号は魔動船舶でな。風が吹いてりゃマストを操作して船を進めるが、凪続きで風が無い時はライラの風魔法で前進できる。よって、航海の予定が狂うことはそうそう無いから、その辺りも安心してくれ」


ほう! ライラは魔法を使えるのかっ!?


「ごめんなさい、少し質問をいいかしら?」


おぉ、どうしたグレコ?


「おう、なんだ?」


「あの、船に関係がある事じゃ無いんだけど……。ライラはその、何の種族なのかしら? あなた達はみんなダイル族っていう種族らしいけど、ライラだけは違うわよね??」


わぉ!? またぶっ込んだ質問をするわねあなたは!!

けどまぁ、確かに、俺もその事はちょっぴり気になっていたのよ。

ザサークとは親子みたいな関係に見えるけれど、実の子ってわけでも無いだろうし……


「あぁ、説明してなかったか? ライラは小鬼ゴブリンだ」


ほほうっ!? ゴブリンとなっ!??

え、でも……、ゴブリンってこんなだっけか!???

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