177:原則他言無用

「サカピョンとユティナはこれからどうするの? モントール市に行く前に、どっかの村に寄るってユティナが言っていたけど」


ノロケ話はもう聞きたくないので、話題を変える俺。


「ここより西にある小さな漁村、ヴェレ村を訪れようと考えている。何やら小さないざこざが起こっているようなのでな」


「ふ~ん……。そういうのってさ、どうしてわかるの? 風の噂??」


「噂で耳にする事もあれば、時空王自らがミーに語りかけてくる事もある」


おぉ!? マジかそれ。

そんなの俺には……、ないな、うん。


「サカピョンはその、どうやって、自分が時空王の使者だってわかったの?」


「ミーがこの世に誕生したその日に、母上の夢に時空王が現れたのだ。時空王は母上に、ミーを使者として迎えたい旨を伝えたという。そして数年前には、ミーの夢にも時空王が現れた。俄かに信じ難い話かも知れないが、夢でミーにこの運命の歯車を手渡し、音楽器召喚の力を授けて下さったのだ。それからミーは、度々夢の中で時空王と会話しながら、旅を続けている」


ほ、ほぉ~!?

夢に時空王が現れるのか!??

そんなの俺には……、一度もないな、うんうん。

というか、たぶん、夢に見ても起きたら忘れてるんだよなきっと。

昨日の夢ですら、全然覚えてないし……


「ミーはヴェレ村へと向かうが、モッモ君、ユーは海へと旅立つのだろう?」


「あ、うん、そうだね。商船に乗って……。とりあえず、精霊国バハントムを目指すよ」


「ふむ、やはり同じ道は行けぬのだな」


ちょっぴりションボリした顔になって、両耳が垂れ下がるサカピョン。


「えと……、どうしてその、僕の事そんなに……?」


気に入っているの? とは聞かず、言葉を濁す俺。

特に好かれていないという可能性もあるにはあるだろうから……


「……ユーが初めてだったのだ。ミーと同じ力を持つ、使者という仲間に出会ったのは」


あ……、あ~なるほどそこかぁっ!

なんだ、別に俺の外見とか性格が気に入ってるわけではないのね?

危ねぇ~、気に入っているの? って聞かなくて良かったぁ~。

自意識過剰のいかれクソ鼠だと思われるところだったわ~。


「世界は広い。探せば時空王の使者に出会う事もあるだろう。しかし、ミーはこの国から出られない。探しに行く事など到底出来ない。時空王の使者という重責を担いながら日々生きなければならないミーにとって、同類の存在は心強く思えたのだ。それも、何も悩みなど持ってないかのような、さもお気楽な雰囲気を醸し出すユーは、ミーにとっては貴重な存在なのだ」


そんな風に考えていたなんて知らなかった、けど……

時空王の使者という重責かぁ……、そんなもの、感じた事なかったな。

なんていうかこう、楽しい旅に出よう♪ てなくらいにしか考えてなかったし。


けどさ……

何も悩みなど持ってないって、お気楽なって……

なかなかに失礼だぞ、サカピョンよ。

俺にだって悩みはあるんだぞ!

例えば……、魔力がないとか、体力が50Pしかないとか!!


「これを見てくれ」


そう言ってサカピョンは、服の胸ポケットからあの懐中時計を取り出した。

神様から貰ったという魔道具、その名も運命の歯車。

黒い針と赤い針は、カチカチカチと、一定のリズムで進んで行くのに対し、黄色い針は時計でいう十二時の位置で止まったまま、ピクリとも動かない。


「モッモ君を表す黄色い針が、昨晩から動きを止めた。それ即ち、ミーとの別れが近い事。しかし、針自体が消えてしまわないところを見ると、やはりミーとユーは、互いの運命が絡み合っているのだろう。この針がまた動き出した時に、ミー達はまた出会えるはずだ♪」


ニコッと笑ったサカピョンに対し、俺も笑顔で頷いた。


サカピョンに言われるまでは何とも思っていなかったけど、確かに、同じ時空王の使者なんて者に自然と出会える確率なんて、とってもとっても低いだろう。

そんな中で、俺とサカピョンは出会えたんだ。


進む道は違っても、俺とサカピョンはもう友達だ!

またきっと、いつかどこかで出会えるさ!!


……けどあれだな、そうなると、ユティナとも再会しなきゃいけないわけか。

そこはこう、なんだか複雑だな。





「お待たせしましたモッモさん。では、事情聴取を始めたいと思います」


「はい、よろしくお願いします」


事情聴取が終わり、部屋を出てきたユティナと一緒に帰って行ったサカピョンを見送った後、順番が回ってきた俺は事情聴取の部屋へと入った。


事情聴取部屋は、窓から光の差す普通の小部屋で、想像していたような暗くて怖~い部屋ではなかった。

まぁ、それもそうか、別に俺が悪い事したわけではないもんねっ!

部屋の真ん中に小さなテーブルと椅子があって、向かい側には警備隊長アルトが座っている。


「あの……、どうして僕が最後だったんですか?」


随分待たされたので、怒っているわけではないのだけれど、一応理由を尋ねてみる俺。


「それは、モッモさんが一番、正直者に見えたからです。いやぁ、こればっかりは私の偏見によるものでして……、他の二人は警戒心が強い方と見受けたものですから。二人の話の整合性をみるために、モッモさんを最後にさせて貰いました。長い時間お待ち頂いて申し訳ないです」


あ~、なるほど、そういう事ね。

まぁ確かに俺は、アルト隊長のような見るからに強そうな相手に嘘を付けるほど、肝が座ってないですからね。

アルト隊長の見る目は確かですね!


その後、アルト隊長による事情聴取が始まって……


俺が捕まった経緯とか、目が覚めてから船が港に着くまでに起こった出来事とか、燃えて沈んでしまった船の中で見た物とか、いろいろと事細かに質問された。

小一時間ほど話をして、最後に、事情聴取で聞かれた事、話した事は、原則他言無用という事で釘を刺された。

……まぁ、アルト隊長が「原則」と言ったという事は、仲間にくらいなら話していいよ、ということだろう、うんうん。


最後に俺は、ブーゼ伯爵ことユーク・ブーゼがどうなったのかを尋ねてみた。


「それは……、原則話せない決まりなのですが……。今から言う事は私の独り言です。なので、聞き流してください」


あ、はい、わかりました。

あれだな、アルト隊長、隊長のくせに結構緩いな。

……顔はキツイのにな。


「今回の事件の主犯であるユーク・ブーゼは、この港町ジャネスコの邸宅の所有権を含め、公国内における全ての権利を剥奪。王都であるモントール市で、貴族裁判にかけられる予定です。今現在は怪我の治療の為に、この国営軍駐屯所内の軍営病院に入院していますが、回復し次第、モントール市の刑務所に輸送されます。息子のタークとその他の手下は既に刑務所に輸送されております」


ほほう、貴族裁判とな。

なんだか、名前だけ聞くとすごく優雅な響き……

でも、ちゃんと刑務所があるなら安心だ。


「ユークは、それこそ身体中の負傷が酷く、更には悪魔法の影響もあってかなり衰弱してましたが、虹の魔導師カービィ様の応急処置にてなんとか一命を取り留めました。モッモさんも含めて、今回の事件を解決して下さった方々には、後日、何かしらの栄誉勲章が授与される予定ですので」


おぉっ!? 勲章となっ!??

そんな物が貰えるのか!!!

やったぁっ!!!!!


だだ捕まって、死にかけてただけなのに……

俺ってば、なんてラッキーなんだ♪

ひゃっほ~いっ!!!

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