178:告白してるぅっ!!?
「あ、やっと終わったのね。お疲れ様」
警備隊隊舎の建物の外、駐屯所内のギルド出張所の手前にある待合スペースのテーブルに、グレコはいた。
「ごめん、だいぶ待ったよね?」
「ううん、ついさっきまで魔法弓の練習していたから、そんなに待ってないわ」
空になったコーヒーカップを手に、グレコはそう言った。
……今は優しく笑っているけれど、昨晩のグレコはまるで鬼の様だった。
ユークを倒し、警備隊に身柄を渡して、宿屋である隠れ家オディロンに帰った後、突如として始まったお説教タイム。
お尻ペンペンこそ免れたが、グレコの怒りはかなりのものだった。
一人で外出した事、書き置きを残さなかった事、勝手にテトーンの樹の村へ帰った事、日が暮れるまで連絡をよこさなかった事、などなど……
昨日の俺の行動は、グレコが怒る要素たっぷりのものだった。
その結果俺は、完全に、単独での外出を禁止されてしまったのである。
今朝も、事情聴取の為にこの国営軍の駐屯所に行くと言うと、私も行くからと言ってグレコはついて来た。
おそらく、今後二度と、グレコは俺から目を離すことはないだろう。
もう、一生、俺はグレコに監視されながら生きて行くしかないのである。
……アーメン。
コーヒーカップを売店の窓口に返して、駐屯所を後にする俺とグレコ。
事情聴取の話は後でするとして、先にユティナとサカピョンのノロケ話を話して聞かせた。
ついでに、ユティナの野望……、というか、巫女様になりたい云々の話もチラッとしておいた。
「う~ん、まぁそんな事だろうとは思ってはいたけどね。けどほら、その話はさ、モッモとの旅が終わってから考えるよ。先は長いだろうからね。私が次の巫女だとか何だとかは、また後で考える事にするよ」
うん、それがいいね。
今からやっと船で旅立てるわけだしね、他の事を考えている暇なんてないよ。
「けどその、サカピョンの話は……、かなり凄いね。従姉妹の私でも、ユティナには伴侶は出来ないだろうな~なんて思っちゃっていたからさ」
気持ちはよくわかるよ。
さっきの短時間で、何度ユティナに目で殺されそうになったかわかんないしね。
……もう一度言うけど、サカピョンの好みって相当変わってるわ。
「あ、ノロケ話と言えば……。今朝、モッモが顔を洗っている時にリルミユさんが部屋に来てね、ギンロに手紙を渡したのよ」
「手紙? リルミユさんが??」
「うん。あ、差出人はフェイアさんなんだけどね」
「おぉ、フェイアが? ……なぜ??」
「なぜかはわからないけど、今日の正午に港の西の端で待っているって書かれていたみたい」
ほう? 呼び出しとな??
フェイアは、あの時、興奮状態に陥り魔獣フェンリルの姿になったギンロを目の前で見ている。
腰を抜かしてしまう程に驚いて、きっと相当怖かったはずだ。
戻ってきた警備隊員に保護されて、それから話す機会が無かったのでどうなったのか心配していたのだが……
「もうすぐ正午だし、港へ行ってみる?」
ニヤリと笑うグレコ。
まさかそんな、グレコが想像しているようなハッピーな呼び出しではないだろう。
あんなに恐ろしいギンロを見た後で、愛の告白なんて有り得ないさ。
もしそうなら……、俺はフェイアの好みも疑っちゃうね。
……と、思ったのだが。
「ギンロさん……。わ、私と、契りを結んで下さいっ!!!」
どぅえぇえぇぇ~!!??
おったまげぇえぇぇ~!!!??
港の西の端で、自分よりも遥かに体の大きな、しかも他種族のギンロに向かって、顔を真っ赤にして頭を下げるフェイア。
予想外だったのだろう、ギンロは完全に時が止まってしまっている。
無理もない、昨晩からギンロは、フェイアに興奮状態で我を忘れた様を見られた事に心底落ち込んでいたのだから。
後からカービィに聞いた話なのだが、興奮状態と言うのは、この世界に生きる者達なら誰でもなってしまう可能性のある、何らかの危機に陥った際に我を忘れて行動してしまう事全般を言うのだそうだ。
昨晩ギンロは、仕留めたと思ったユークが動き、更には想い人であるフェイアが殺されると思った事によって、あの様な結果になったのだとか。
獣化した事も、ユークに止めを刺しにかかった事も、興奮状態に陥った無意識下での行動だったので、あの一瞬の間の出来事をギンロは何一つ覚えてなかった。
そして、我に返って振り向いた先に、怯えた目で自分を見るフェイアがいたのだ。
もはやこの恋は、告白する機会すら与えられずに終わった……、と、ギンロはかなり凹んでいた。
なのに……、なのにだ……
今、俺の目の前では、何が起こっているんだ?
「きゃあ!? やっぱり、告白してるぅっ!!?」
港に置かれている大きな木箱の陰に隠れて、コソコソと、二人の様子を伺う俺とグレコ。
グレコは何やら、とっても嬉しそうな顔でそう言った。
……なんていうか、学校の校舎裏で、告白される友達を見守りに来た同級生、的な目をしているな。
俺はと言うと、頭の中にも外にもクエスチョンマークが浮かびまくってて、首を傾げる事しか出来ないでいる。
フェイアの好みはどうなってんだ?
あの恐ろしい、魔獣になったギンロの姿を見たんじゃなかったのか??
それとも……、人魚の間ではああいう強面が人気なのかしら???
しかも、さっきなんて言った?
契りとか、言ってなかった??
契りって……、なんだ???
「フェイア、殿……? な、何を言って……??」
かなり動揺して、声が震えているギンロ。
無理もないな、ギンロはまだ弱冠十五歳の少年なのだ。
いくら強くてカッコ良くても、中身は中二病満載のお子ちゃまなのだから。
「私、実は、その……。人魚なんです!」
「なっ!? なんとっ!??」
驚くギンロ。
「えっ!? フェイアって、エルフじゃないのっ!?? 人魚って……、あの人魚っ!???」
ギンロ同様、俺の隣で驚くグレコ。
そうか、二人はフェイアの正体を知らなかったんだな、うんうん。
……って、ユークが、人魚を喰わせろっ! て言いながらフェイアに飛びかかったんだから、気付きなさいよ二人共。
「人魚は成人すると、陸で契りを結んでくれるパートナーを探します。男の人魚はなかなか産まれなくて、海でパートナーを探すのは大変なので……。私、昨晩あなたに助けて貰って……、その……。あなたのその強さ、逞しさが、頭に焼き付いて離れなくて……、それで……」
ドンドン顔を赤らめるフェイア。
あの一瞬で、そこまで好きになったのか!?
てか、陸でやらなければならない事って、彼氏を探す事だったのねっ!??
「お願いです! ギンロ様っ!! どうか私と、夫婦になって下さいっ!!!」
彼氏じゃなくて夫かぁっ!???
なんてこったぁっ!!!!!
顔を真っ赤に染めながら、必死に告白をするフェイアを前に、ギンロは文字通り固まっている。
しかし、あんなに可愛い子が、あんなに一生懸命告白しているのだ。
男なら、それに応えないわけにはいくまい。
ギンロ! 頑張れっ!!
「だ、駄目……、ですか?」
ふるふると震えながら、その瞳に涙をいっぱいに溜めるフェイア。
かっ!? 可愛いっ!!!
「だ、駄目……、なわけが、なかろう……。わ、我も、その……。ふぇ、ふぇい、フェイア、殿の事を……、お、おも、おもも……。ごほんっ! 想っている!!」
おぉおおぉぉっ!!!!
よくぞ、よくぞ言えたなギンロ!!!!!
「きゃあ!? 告白成功っ!?? 両思いよねっ!???」
木箱の裏で、キャッキャウフフとする俺とグレコ。
すると、返事を貰えたフェイアは、タタタッとギンロに駆け寄って。
チュッ!
「!??!????」
なんと、ギンロに口付けをしたではないかっ!?
なんて大胆なんだっ!??
しかし、それは俺が思っているようなキッスではなかったらしく……
「うふふ♪ ありがとうございます♪」
フェイアは、今まで一度も見た事のない、小悪魔的な……、悪く言えば何か裏があるような笑顔で、そう言った。
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