176:両思い

「サカピョンもサカピョンよ。あいつ、あんたの事、唯一無二の友達だ~なんて、ヘラヘラ笑って言うんだから……。腹立たしいったらないわ!」


お? そうなのかい??

サカピョンは、何故に俺をそこまで気に入っているのだろうね???

……ユティナといい、俺といい、サカピョンの好みが全く理解出来ない。


「パートナーは私だって言うのに、あんたの事ばっかり話すのよっ!? あんたの話なんか聞きたくないのよ私はっ!!」


……それはさぁ、サカピョンに直接言うべきではないかい?

そんな、逆恨みみたいな事されても、俺、困ります。


「でも……、そもそもどうして、ユティナはサカピョンとパーティー組んでるの? そんな、不服な事があるならさ、気の合う他の誰かとパーティー組んだ方が楽なんじゃない?」


思わず口をついて出てしまった俺の言葉に、ユティナが出会って一番の、かなり険しい表情になる。


やっべ!? 怒らせたかっ!??

てかさっきからずっと怒ってるけどもっ!!??


怒号が飛んでくるのを覚悟する俺。

しかし、そんな事はなく……


「わ、私と一緒にいたいって、あ、あいつが言ったのよ」


少しばかり照れた様子で、視線をずらすユティナ。

この反応は……、ユティナもなかなかにわかりやすい奴だな。


「そもそも、私はサカピョンにお願いされて、一緒にパーティーを組んであげてるの! それなのに、自分の都合を優先するサカピョンがおかしいのよっ!! 私と組みたいなら、ちゃんと私を一番に優先すればいいのよっ!!!」


なんだろうな……

仕事と私とどっちが大事なの!? 的な、よくある何処にでもいるカップルの喧嘩を目の当たりにしている気がする。


「サカピョンとユティナって、酒場で出会ったんだよね?」


「そ、そうよ! 何よ!? 悪いっ!??」


「や、いや~、悪くはないですよ勿論」


ドキドキドキ


「私が一人で飲んでいたら、あいつが急に声掛けて来たから、腹黒い癖に紳士ぶって偽ってんじゃないわよって、言ってやったのよ! そしたら何故だか妙に喜んで、ずっと付き纏ってくるもんだから、渋々パーティー組んでやっているのよ!!」


言葉は偉そうだし、口調はキツイけど……

ねぇユティナ、顔が真っ赤だよ?

君、案外乙女だったんだね。

いつも怒っているのは、そんな自分を隠すためかい??

ギャップ萌え……、しないけどね俺は。


つまりあれだな、なんだかんだ、ユティナはサカピョンが好きなんですね……、ぷぷぷ。


「……何笑ってんのよ、気持ち悪い」


「あ、ごめんなさい、妄想笑いです」


「妄想? つくづく気持ち悪い奴ね、あんた」


何とでも言いなさい。

もはや俺は、君の事は怖くなくなったよユティナ。

確かに言葉は汚いし、目力半端ないし、態度は威圧的だけど……

中身は普通の女の子なんですね。


ガチャ……、ピョンピョンピョン


「ユティナ、次はユーの番だ♪」


事情聴取の部屋の扉が開いて、中から出てきたサカピョンがユティナにそう言った。


「わかったわ。ちゃんと待っててよね」


「イエス♪」


ユティナは席を立ち、部屋へと入って行った。


「アルト警備隊長はとても威厳のある隊長であった。もうこのジャネスコも問題なさそうだ♪」


一安心したかのような笑顔を見せるサカピョン。

俺の隣に腰掛けて、ユティナの言葉通り、ここで待つようだ。


「サカピョンはその……。このモントリア公国を守る為の使者なんだっけ?」


「少し、国を守る、という言葉とは意味が違う。ミーの使命は、秩序を守る事だ。守られるべき命を守る事、居場所を失った者たちにあるべき場所を与える事、争いを避ける事、それがミーの使命なのだ♪」


……ん~、いまいち分からんけど。

たぶん、ザックリ言うと、平和を守るという事だろう、うんうん。


「さっきユティナがさ、時空王の使者は断れなかったのかって、言ってたよ? 経験値を得る為に、早くモントール市に行きたいんだって……」


別に、ユティナの思いをサカピョンに伝える義理は俺にはないが、特に他に話題が浮かばないので、それとなく言ってみた。


「ふむ、ユティナがそのような事を……。ミーの運命にシーを巻き込んでしまった事は悪いとは思っているが、シーの運命はミーと共にあるのだ。それは抗いようの無い真実……。時空王に逆らうなどとは考えもしなかったが……。なるほど、ユティナらしいな♪」


ニコッと笑うサカピョン。

なかなかに図太いよね、君。


「そもそもが、どうしてユティナなの? 僕からしたらユティナは……、その……、ちょっと怖い……」


言葉を選んだつもりだが、かなりオブラートに包んで言ってもユティナは怖い。

はっきり言うとしたら、恐ろしくて同じ空間に存在する事自体、俺は避けたいのだ。

なのにサカピョンは、そんなユティナを自ら選んでそばに居るわけで……

蓼食う虫も好き好き、とは言うけれど、あまりに偏食過ぎやしないかい?

食べ物で例えたら、ユティナなんて、きっと珍味中の珍味だよ??


「ユティナは、ミーの事を見破ったのだ」


……と、言いますと?


「元はミーの一目惚れなのだが」


あ、そうだったの!?

あの癖っ毛のユティナに一目惚れ……

ま、まぁ、なんてったってエルフだし、黙っていたら綺麗だしね。


……てか、君たち両思いじゃん。

何そのオチ? 不愉快ではないけど、なんだかちょっと悔しいんですけど??


「酒場で出会い、声を掛けたミーに対して、ユティナはこう言ったのだ。黒い事を偽ってはいけない、と……。そこでミーはハッとした! 分かったのだ!! 目の前にいるシーこそ、探し求めていた本当のミーを晒け出せる相手であると!!!」


んん? んんん??

なんかこう、サカピョン、出会いを美化して無いか???

それに、ユティナが言った言葉とはかなり真意が違う気がするんだけど……


「それからは、パーティーを組んでもらえないかと、来る日も来る日もお願いして」


それ、前世じゃストーカーって呼ばれるやつだね。


「なんとか了承を得て、今に至るのだ。ユティナはミーの運命の相手だ。その印に、シーに出会った時すぐに、運命の歯車にユティナの赤い針が追加された。これは紛れも無い真実。ミーとユティナは、運命で結ばれた相手なのだ♪」


なんともまぁ、恥ずかしげもなくそんな事言ってくれちゃって……

聞いているこっちが恥ずかしいわっ!!!


けど、ユティナはブラッドエルフだし、サカピョンはラビー族だし。

その辺りはどうなんだろう?

運命で結ばれてるって言ったって、違う種族間だといろいろと面倒臭そうね。


「ミーは、ユティナと生涯を共にする決意をした。だから、ユティナが何を言おうとも、ミーにはシーと離れる理由などないし、今後離れる事もない。ミーが時空王の使者である事は確かにそうだが……、それは大した問題ではない。大丈夫だ、モッモくん♪」


……うん、なんて言うか、サカピョンがそう思うなら大丈夫だと思うよ。

種族の違いとか、そんなのもうとうに飛び越えてるんだね君達は。

……うん、そうだね、なら大丈夫だね。


……ノロケ話、ご馳走様です!


チーン

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