175:自分第一な考え方

翌日、昼。


港町ジャネスコ北側地区、国営軍駐屯所内、二階建ての警備隊隊舎の一階、備品保管庫にて。


「これで全部ですかな?」


「あ、はい、これで全部……、ですね!」


警備隊長であるドーベルマンのような犬型獣人、その名もアルト隊長の質問に、笑顔で答える俺。

保管庫には、あの密猟船に乗せられていた魔物や獣の幼体たちが、未だ檻の中に入ったままの状態で並べられている。


サカピョンに言われて、船が港に着くまでの間に、俺は全ての動物達を檻ごと鞄の中にしまい込んだ。

ユークの暴走を予期したサカピョンの判断には脱帽だ。

おかげで、船は沈んでしまったものの、捕まっていた沢山の命は無事に救われた。


アルト隊長の話だと、今後この動物達は、生まれ故郷であるタジニの森に返されるという。

檻の中でスヤスヤと眠る、何なのかわからないけど可愛らしい幼体を見て、俺は自然と微笑んだ。


「わかりました。ご協力ありがとうございます! では、後ほど個別の事情聴取でお呼びしますので、順番が回って来るまで、二階の通路の椅子でお待ちください」


「は~い」


保管庫を出て、階段を上がって二階に向かい、通路に設置された椅子に腰掛ける俺。

隊舎内では、アルト隊長と同じ紺色の制服に身を包んだ警備隊員達が沢山働いている。

昨日の事件のせいもあってか、みんなかなり忙しそうだ。


そんな彼等の様子をぼんやりと眺めていると、通路の向こう側から、サカピョンとユティナが歩いて来た。


「あら、モッモじゃない。 あんたも事情聴取に呼ばれたの?」


「う、うん、まぁ……、一応……」


ユティナは、いたって普通の口調なのだが、一度殺されかけた身としては警戒して当然だろう。

出来るだけ目を見ないようにしながら、俺はモゴモゴと言葉を返した。


「ミーとユティナもこれから事情聴取なのだ。ここで待つように言われた♪」


そう言って、俺の隣の椅子に腰掛けるサカピョンとユティナ。


あ~マジかぁ~。

頼む、俺の聴取が一番でありますようにっ!


すると、保管庫とは別の部屋の扉が開いて、中からアルト隊長が現れた。


「お忙しいところ、ご足労頂きましてありがとうございます! では……、サカティス様から聴取を取らせて頂きますので、こちらの部屋へどうぞ」


ピョンピョンという足音を鳴らして、アルト隊長と一緒に去っていくサカピョン。

残された俺とユティナ。


うわぁ~マジかぁ~。

一番避けたかったシュチュエーションだぁ~。


ドギマギしつつ、隣に座るユティナを横目でチラリと見る。

すると、何故か俺の事を凝視しているユティナと目が合ってしまった!


ひぃっ!? 石化されちゃうっ!??


「ねぇ、どうしてあんたみたいな奴が時空王の使者なわけ?」


うへぇっ!? また答えにくい質問するなぁっ!??


「ど、どうし、てって言われても……。わ、わかりません」


ダラダラと、妙な汗が流れてくる俺。


「……そのさ、時空王の使者っていうのは、断れなかったの?」


こ、断る? 何を?? 誰に???


「断る、と、いうのはいったい……? どういう事、ですかね?」


ビクビクビク


「どういう事って、あんた馬鹿なの? その小ちゃな頭の中は空っぽなわけ??」


きぃーっ!!!

何その言い方っ!??

ちょっと怖いからって偉そうにぃっ!???


「あんたもサカピョンも、なんでそんなすんなりと時空王の使者なんて面倒な役割を引き受けるのかしら? 私だったら絶対に断るわ! やりたい事が出来なくなるじゃないっ!?」


……うん、君なら神様相手でもキッパリ断れそうだね。

だけどさ、ほら、普通神様に逆らう事の方がよっぽど面倒な事になりそうって思わない?


「せっかく良いパートナーに出会えたのに、その時空王の使者とやらの使命に付き合ってちゃ、なかなか思うように経験値を稼げないのよ。私は早くモントール市に行きたいのに、サカピョンはまだ近くの村に寄る用事があるとか言うし……。たくっ! やってらんないわっ!!」


……なんだろう、悉く自分第一な考え方なのですね?

サカピョンにはサカピョンの予定があるんだから、パートナーなら普通、快くそれに付き合ってあげないといけないでしょ?


「そんなに言うなら、一人で行けばいいのに……」


ボソボソと声に出してしまう俺。


「あぁっ!? 何か言ったぁっ!??」


「ひっ!? いえっ!! 何でもないですっ!!!」


こ、こえぇ~っ!!

あっぶねぇ……、危うく死ぬところだったぜ……


「グレコもグレコよ! 巫女になる修行も大してしないままに、あんたみたいな奴の護衛をする為に旅に出るなんて……。全く何考えてんだか……」


……でもほら、グレコの場合はさ、自分の意思と言うよりかはその、現巫女様であるお母さんの要望で旅に出ているわけだからさ、ね?


「ま、グレコが巫女の修行をしなくったって、私は全然困らないけどね。むしろ大助かりよ! これで、私が力を付けて村へ帰れば、巫女様もきっと私を次期巫女に選んでくれるはずだもの!!」


あ~、なるほどそういう事かぁ……


「ユティナは、巫女様になりたいの?」


「あん? 悪い??」


「い、いえ、悪いなんてそんな、滅相もございません……」


うぅぅ~、なんでこう言葉が全部喧嘩腰なのぉ~?

怖くてちびりそうだよぉおぉぉ~。


「……本当はね、わかってるのよ。どんなに頑張っても、グレコが次の巫女になるんだろうなって事は」


声のトーンが、少し変わるユティナ。


「けどさ、諦める気にはなれないんだよね。元々は、私の母様が巫女になるはずだったのに、ちょっと病弱だからって理由で、妹のサネコ様が巫女になったって話だし……。だったら、グレコも私も、巫女になる資格は同等にあるはず。強い方が巫女になる、それでいいと思わない?」


「……それは、そう思います」


逆らったら喰われそうだから、無難に答えよう。

でも、そういう歴史があるのなら、確かに、グレコが絶対に次の巫女様じゃなきゃならない理由はないよね。


「まぁ確かに、グレコの方が性格も優しいし、私はこんなだからさ……。適任なのかも知れないけど……」


あ、自分の性格の事、問題有りだってちゃんと分かってるんだ……?


「けど、私は負けないから! グレコが足元にも及ばないくらいの実力をつけて、議会のジジババ共をギャフンと言わせてやるんだからっ!!」


……うん、その口調から直した方がいいと思うよ。

ほら、ジジババってそういうの気にすると思うしさ、言葉遣いとか所作とか。


「仮に、ユティナが巫女様になれるとして……。どうしてなりたいの?」


「そんなの決まってるじゃない!? ブラッドエルフの頂点だからよっ!!」


あ、なるほど、偉そうにしたいからなんですね。


「私が巫女になったら、もっと外界に派遣する隊員の人員を増やして、もっともっと外界の物を村の生活に取り入れるわ! だって、その方が絶対に良いもの!! あんな閉鎖的な村じゃ、そのうち滅んじゃうわよ」


ふ~ん。

お口は悪いけど、結構ちゃんと考えてるんだね。

偉いじゃないか!


「で! その時空王の使者とやらは、いつになったらやめられるのっ!? あんた、時空王と直に会ったことあるんでしょ?? その辺、何か聞いてないのっ!??」


「え、あ、う……、聞いて、ません……」


「はぁ~……。全く役に立たない……。あんた、戦えない上に役立たずって……。生きてて楽しい?」


うぅうぅぅ~、前言撤回!!

ユティナなんて、偉くないっ!!!

ユティナなんてぇえぇぇっ!!!!!

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