132:黒い荊の矢

「こう、指先に魔力を集めるイメージで……、そうそうそう、上手だ! そのまま、ゆーっくりと後ろに引いて行く……、あ、ちょっとイメージが乱れたかな? 魔力で線を描く感じだぞ?? そこに矢を作るって、強く念じながら~、そうそうっ!! いい感じっ!!!」


カービィに言われるままに、弓を構えて、魔法で矢を作り出すグレコ。

その手にあるのは、薄っすらと黄緑色の光を宿した、沢山の棘が生えた、黒い荊の矢だ。


「こ、これを放てばいいの?」


「おうっ! 的目掛けて!! どうぞっ!!!」


「ん~……、えいっ!」


ヒュッ……、ズバッ!


「おぉ……、真ん中に当たったぞ」


「ヒュ~! さすがグレコさん!! お上手っ!!!」


「……いいなぁ~、カッコいいなぁ~」


ギンロの驚いた顔、カービィのよいしょに、俺の羨ましがる声。


「ふぅ~……。へへへ~♪」


グレコは、額に汗を浮かべながらも、嬉しそうに笑った。


ここは、モントリア公国国営軍のジャネスコ駐屯所内にある射的場。

武器屋で武器を購入したギンロとグレコのために、町の中で唯一武器の訓練が出来るこの駐屯所へと、俺たちはやって来ていた。


町の北に位置するこの駐屯所は、北側の鉄門の両端に建てられている巨大な鉄塔の周りに、ぐるっと半円形を描くように存在している。

町の警備や周辺の治安維持のために国営軍が駐在している場所で、各種訓練場の他にも、クエストを求める冒険者のためのギルド出張所の役割も兼ねている。

訓練場は、お金さえ払えば誰でも利用が可能で、射的場の他に、武術や剣術、馬術を訓練する場所などが設けられている。


ギンロは魔法剣の試し切りの為、グレコはカービィに勧められて、魔力によって矢を生成する練習をする為に……、俺は、そんな二人を見守る為に、ここにいます。


矢の生成に成功したグレコは、その後何度も、魔力で荊の矢を作っては撃ち、作っては撃ちを繰り返した。

ほんと、さすがグレコだ。

飲み込みが早いし、弓の腕もピカイチで、放った矢は全て的のど真ん中に命中している。

ただ、魔力で生成したものだからだろうけど、的に当たった荊の矢は、数秒後にはパッ! と、黄緑色の光が分散したかのように姿を消していた。


「これ、結構疲れるわね~……。#魔法弓__まほうきゅう__#、だっけ?」


グレコは、手に持っている弓をしげしげと眺める。

その弓は、先ほどの武器屋で、ギンロの魔法剣に便乗するかたちで購入した、グレコの新しい武器。

魔法弓と呼ばれるその弓は、光沢を持つ真っ白な金属で出来た、とても美しい弓だ。

持ち手の部分には、グレコの持つ魔力を最大限活かせるという、ブラッドガーネットという真っ赤な宝石と、黒くて微小な魔心石が散りばめられている。

……お値段は、360000センスでした。


「まぁ、慣れればどうってことないと思うぞ? 魔法弓は魔道武具の中では珍しい武器だ。おいらも使ってる奴を知らないしな。だけど、威力も射的距離も、魔力の大きさで自由自在だから、使いこなせればかなり便利な武器だと思うぞ。それに、本来なら矢に魔力を溜めて放つもんなんだけど、グレコさんの場合は属性が特殊だったからな。物質に魔力を流すのと、魔力で物質と同等の物を作り出すのとでは、魔力の消費はまるで違う。慣れるまでは疲労を感じる事も多いだろう。もしあまりに負担なら、普通の矢を使ってもいいと思うぞ?」


「う~ん……。でも、矢があると思うと、なかなか魔力を使わなさそうだから、頑張ってこのままでやってみるよ!」


そう言って、グレコはもう一度、黒い荊の矢を的へと放った。


グレコの持つ魔力の属性は、荊だった。

手の平に魔力を集める感じで~、という、なんともアバウトなカービィの説明に、首を傾げつつも試したところ、グレコの手の平の上には、黄緑色の光を宿した黒い荊の玉が現れた。

カービィも初めて見る属性らしく、目をまん丸にして驚いていた。

どうやら、とってもとっても珍しいようだ。


けどまぁ、俺としては納得というか……

グレコの作る黒い荊の矢は、グレコの故郷であるエルフの村の周りを囲っていた、あのセシリアの木を彷彿とさせる。

グレコは一応、あのエルフの村の次期巫女様だから、あの村を守るように生い茂るセシリアの木のような存在になりたいんだろうな……、なんて、俺は思っていた。


……しかしまぁ、冒険者って結構沢山いるんだな~。

周りを見渡して、俺はほぉ~っと息を吐く。


この駐屯所には、軍服を着た国営軍の兵士以外にも、沢山の私服の冒険者が、自らの腕を上げようと集まって来ているのだ。

ある者は訓練場でそれぞれの技を磨く為、またある者はクエストで経験値を得る為に。

周りには闘志を剥き出しにした猛者どもがわらわらといる。


なんていうか、みんな堂々としているな~。

体がでかいっていうのもあるけれど、こう、俺は強いぜ! 誰にも負けないぜ!! って言いそうな奴ばっか。

もちろん、俺やカービィのようなちびっ子はほぼいない。

いたとしても、鎧やら兜やらを身につけていて、なんだかすっごく戦えそうな雰囲気を醸し出しているのだ。


いいなぁ~、俺もあんな風に鎧とか着たいな~。


そんな事を考えながら、辺りを観察していると、見覚えのあるシルエットが目に入った。


訓練場の隣にある、様々なクエストが張り出されている掲示板の一つの前で、立ち止まっている二人組。

真っ黒な癖毛のエルフと、少し背の低い白いラビー族。

間違いないな、あれはユティナとサカピョンだ。


関わるとややこしそうだと思い、目を逸らそうとした瞬間に、振り返ったユティナと目が合う俺。


「あ、モッモだ……」


怪訝そうな顔をして、俺の名を呼んだユティナ。

サカピョンは、にっこりと笑顔を向けてくれた。


……ユティナ、俺の名前、知っていたんだね、知らなかったよ。

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