131:魔法剣

「魔力を持つ生き物は基本、自らの体に適した属性を持っているんだ。その属性は生まれつきのものだったり、誰かに譲ってもらったりするもんなんだけど、大体が一個体につき一つの属性だな。火、水、風、土、氷、雷、毒、光、闇、他にも花とか泡とか、まぁいろいろあるな。魔導師は自らの持つ属性を上手く使って、魔法を行使するわけだな」


ギンロの体のサイズに合う物はどれだろうと、ギンロとラドルが一緒に魔法剣を見繕っている間、俺とグレコとカービィは店内の待合スペース的なこじんまりしたテーブルで暇を持て余していた。


「ふ~ん……。じゃあ回復魔法は? それも属性があるの??」


「回復魔法は属性に関係なく、使おうと思えば誰でも使えるな。ただ、やっぱり向き不向きがあるし、いくら練習しても切り傷の一つすら治せないやつもいるぞ。逆に、属性魔法が苦手だから回復魔法を極めて白魔導師になった、なんて奴もいるな」


「へ~そうなんだ。じゃあさっきの属性っていうのは、主に攻撃魔法の事なんだね?」


「そうそう。攻撃魔法を得意とする奴は大概みんな黒魔導師になる。けど、持っている属性は大体みんなどれか一つのみだな。誰かから力を譲ってもらったり、あるいは奪ったりすると、自分の使える属性は増えるけどな」


「なるほど……。でもさっき、カービィは全属性の魔法が使えるとか、言ってなかった?」


「うん、おいらは全属性の魔法が使えるな!」


偉そうな顔をして、胸を張るカービィ。


「それはどうしてなの? まさか……、誰かから奪ったの??」


「ん~、奪ったって言うのは語弊があるな。属性魔法を持つ魔物を狩って、徐々にその魔力を自分の中に蓄積していったのだ!」


……ん~、ちんぷんかんぷんだ。

魔物を狩って、魔力を蓄積?

ゲームでいう経験値とか、そういう話だろうか??


「何を隠そうおいらは、もとは無属性だった!」


「……え、無属性?」


「あぁ。生まれつき魔力は充分にあったし、回復魔法と、物を大小させたり浮かせたりとかする副魔法はすぐ使えたんだけど……。なんせ呪われの身なもんでね。自分の中の属性に気付く前に体の時間が止められてしまったから、未だに生まれつき何の属性を持っていたのかさっぱりわからんのだよ」


ほほう。

でも、その割には今はいろいろ使えているようだけど……


「魔力があるのは自分でもわかってたからな、フーガに移住したわけだけども……。属性魔法を確かめたくても、自然と内側から出るものだ~なんて言われるばっかで、学校の先生も有名な占い師も誰も、おいらの中にあるはずの属性魔法が何なのかわからなかった」


なるほど、それで無属性だと……

で、結局、そんな無属性だったにも関わらず、なぜに全属性になったのかね?


「けど今は全属性なんでしょ? 魔物を狩って属性魔法を蓄積していったって……、どういうことなのよ」


話がややこしく、カービィの説明だとこうぐる~っと遠回りしているかのような感覚なので、グレコは少しばかり口調がイラついている。


「属性魔法を持つ魔物を倒すとな、その心臓の内部に魔力の塊が作られるんだ。それを取り出して、聖水で清めてから、粉にして飲むなり、そのままガリガリ食べるなりして、自分の体の中に取り込むんだよ」


うわぁ~、グロテスク~。

それに、思ってたよりずっと物質的な取り込み方なのね。

もっとこう、手で魔力をグワッ! と吸い取るとか、そういうイメージだったわ。


「じゃあ……。カービィあなた、魔物の心臓を食べてきたわけ?」


かなり引き気味に尋ねるグレコ。


……けどグレコ、君だって似たようなものじゃないかい?

いや、グレコの方がカービィより何倍もグロテスクだよ、血を吸うんだからさ。

その辺り、わかって発言しているのかな??


「あぁそうだよ。だって悔しいだろ? せっかく魔力がたんまりあるのに、ちょ~っと呪われてるってだけで無属性だなんて言われるんだぞ?? もう、学校に通っている間、暇さえあれば近くの森や山に魔物狩りに出掛けて、魔心石ましんせきを食いまくってたぜ!!!」


おそらく、その魔心石というのが、死した魔物の心臓にできる魔力の塊なのだろう。

カービィは、ガツガツと食べる仕草をしてみせる。


……うん、粉にして飲んではいなかったのね、そのままガリガリ食べる派だったのね、カービィ君。


「そんなので属性魔法って使えるようになるのね~。あ、じゃあさ、私もその魔力の塊を食べたら、属性魔法を使えるようになるのかしら!?」


うわ~おっ!!?

さっきまで引いてた人が何言ってんのよグレコさん!!??


「グレコさんはたぶん、もう属性魔法を使えるんじゃねぇか?」


「えっ!? 本当っ!??」


「あぁ。武器は弓だっけ?」


「うん、あと短剣も使えるけど、弓の方が得意!」


「じゃあ、後で属性魔法の使い方教えるよ! 手取り足取り!!」


「やったぁ! ありがとうカービィ♪」


……グレコは気付いていないようだ。

手取り足取りと言った時の、カービィの不気味でいやらしい笑顔に。


それにしても、みんないいなぁ~。

魔力があって、魔法が使えて……

属性魔法かぁ~、俺も欲しかったなぁ~。


「お~いっ! 出来たぞぉっ!!」


店の奥からラドルの声がして、椅子から立ち上がって、そちらへ向かう俺たち。


「うわっ! カッチョいい!!」


「おぉ! いいじゃねぇか、様になってる!!」


「これが魔法剣? すっごく綺麗ね♪」


ギンロが両手に握っているのは、体の大きさにピッタリの、やや細身な二本の長剣。

その銀色の刀身には、いろんな色の光が散りばめられている。


「一応、火、水、氷、風、雷、光、闇の、七属性の魔心石が埋め込まれた物だが、おそらくこれで事足りるだろう?」


「あぁ、おいらもそれくらいしか使わねぇしな」


「じゃあこれでいいか? ギンロ、一振りしてみろ??」


ラドルに促されて、その場で二本の剣を素振りするギンロ。

ヒュンッ! と音を立てて振り下ろされた剣は、七色の閃光をキラキラと放った。


「うはぁ~、かっけぇ~……」


「うん、いい感じだなっ!」


「ギンロ、すっごく似合ってるわよ、その剣♪」


俺たちに褒められて、ギンロの顔がむふふとなる。


「じゃあ決まりだな。お代なんだが、定価が900000センスなんだ。そこから10%割引きで、810000センスでどうだ?」


きゅっ!? 九十万っ!??

割引しても八十万越えっ!???


「あぁいいぞ、ありがとうなっ!」


お礼を言うカービィ。


おい、もっと値切ってくれ!

テッチャならもっと値切るぞっ!!


なんて、俺の心の声が届くはずもなく……


「じゃあ……、モッモ! お代は頼んだっ!!」


当たり前のように、俺の肩をポンっと叩くカービィ。


くっそぉ~……

自分で使う事も出来ない上に、八十一万もするだとぉ~?

世の中不公平だっ!

俺もカッコいい武器が欲しいぞこの野郎っ!!

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