130:お財布くん

翌日……


「じゃあとりあえず、商船がパーラ・ドット大陸へ向かって出発するのは八日後である。よって我々は本日から、この港町ジャネスコを、隅の隅まで観光だぁ~いっ!!」


「イェーイ!!!」


「わ~い♪ 私。お洋服屋さんに行きたいわ~♪」


「我は新しい剣が欲しい。あと、昨日の蒸しパンも、また欲しい」


カービィのおかげで、ギンロの甲殻類アレルギーによる蕁麻疹は翌朝には引いていた。

そして、カービィの言葉通りに俺たちは、この日から気ままな観光客として、商船が大海原へと出発するその日まで、悠々自適に過ごす事にしたのだ。


「商船の乗船申請には身分証明書が必要だし、乗船申請は出航の三日前からだからまだしなくていい。なので、今日おいらたちがすべき事は、船旅に向けての買い出しであるっ!」


「おぉ~!!!」


という事で、俺たちは町へと繰り出した。


グレコが、洋服が欲しい、洋服屋に行きたい、と何度も何度も言うので、とりあえず俺たちは、町で一番大規模な服飾店へと足を運んだ。

大規模ではあるけれど、だからこそ客層は様々で、いろんな種類の衣服がそこでは売られていた。


「ねぇねぇ、これなんてどうかなぁ? ……ちょっと、胸元が強調されすぎるかしら?」


「いんや~、それくらいが丁度いいとおいらは思いま~す!!」


鼻の下のびのびカービィが、試着室から出てきたグレコにグーサインを出している。


グレコが選ぶ服はどれも、見るからに露出度が高くて、体のラインがくっきりはっきりわかって、更には胸の谷間が丸見えなデザインをしている。

まさか、そんな趣味をお持ちとは……、と思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

彼女はただ、大陸のほとんどが砂漠だと言われているパーラ・ドット大陸を目指すのならば、涼しい格好の方がいいだろう、という思いだったらしい。


ふぅ、良かった……。

もしかしたら、他人に見られる事が好きなのかと……。

昨日の、異性である俺と一緒にお風呂に入る、という大胆な行動があった後だったので、変な勘違いをするところだったぜ!


だけども、さすがに、カービィのとんでもなくだらしがない顔に気付いたグレコは、それらの購入を控えたのだった。


俺にも着られそうな服がいくつかあったので、試着をしてみたのだが……

尻尾を出すためのズボンの穴が小さかったり、お腹周りが苦しかったり、首元や袖口が窮屈だったりと、ジャストサイズな物が見つからず、また既製品のために仕立て直しは不可能らしいので、購入は断念した。


やっぱりあれだな、ピグモル専用の服じゃないと、俺のふわっふわなこの体にはついていけないんだな!

などと、負け惜しみしつつ、普段着である青いボタンのピグモル服に着替える俺。

エルフの村でもらったお洒落着と、オーベリー村で買ったあの子供用武道着は、大事に大事に鞄の中にしまってあるので、そろそろ違う服が欲しかったんだけどなぁ……


さぁっ! 気持ちを切り替えて!!


続いて俺たちは、ギンロの新しい剣を買うために、武器屋へと向かった。

オーベリー村や、イーサン村では特に用事がなかったために、武器屋はスルーしてきたのだが……

遠目にもわかるほど、ここジャネスコの武器屋は、とっても武器屋らしい店構えだ。

二階建ての建物の屋根や壁からは、無数の剣や斧、槍や銃などのモチーフが飛び出しており、巨大な剣を象った看板が、店の入り口の真上にかかっている。

ショーウィンドウとも取れる、入り口の両側にあるガラス窓の向こう側には、様々な武器が陳列されていた。


「いらっしゃい、いらっしゃい♪ おや!? カービィじゃあねぇかぁっ!??」


入店早々、武器屋の店主であろう、屈強な身体を持つ、ギンロによく似た感じの狼のような、茶色い犬型獣人が声を掛けてきた。


「やぁやぁラドル♪ 調子はどうだね?」


……なんだぁ? その口調はぁ??


まるで、金持ち貴族のようなデカイ態度で、ラドルと呼ばれた獣人に片手を上げて挨拶する、小ちゃなカービィ。


「どうもこうもねぇさ! お前さんがフーガの魔道具屋と話をつけてくれたおかげで、やっとこさ魔法剣を仕入れる事が出来たんだ!! そっから売り上げはうなぎ登り!!! 感謝してるぞ、カービィ!!!!!」


そう言って、自分の半分以下の大きさしかないカービィの頭を、ぐしゃぐしゃと撫でるラドル。

その力があまりに強いため、左右へと体が激しく揺れるカービィ。


「そ、そりゃ良かったぁ~! そいでだな、今日はその魔法剣を、こいつに売って欲しいんだよ!!」


カービィは、俺を指差した。


「んん? 別に売るのは構わねぇが、そんなおチビに魔法剣が握れるかぁ?? そこまで小さいサイズの魔法剣はまだ仕入れてねぇんだ」


思いっきり俺を見下ろしながら、困った顔をするラドル。


……うるせぇ、おチビで悪かったな。


「いやいや、装備するのはこっちのギンロだ。おチビはお金を出すだけだ!」


……おいカービィ、お前までもが俺をおチビと呼ぶのか?

たいして体の大きさ変わらないだろうがぁっ!?


「あぁ、そういう事なら心配ねぇなっ! しっかしまぁ……、またえらく強そうなハスキー族だなぁ~」


ギンロのことを、頭の先から尻尾の先までしげしげと眺めつつ、ラドルはそう言った。

俺にしてみりゃ、ラドルもギンロも、似たり寄ったりの恐ろしい怪物だけどね。


「ギンロと申す、よろしく頼む」


新しい剣を買えるのが嬉しいのか、シャキーン! とした様子で挨拶をし、深々と頭を下げるギンロ。

昨日の赤痣が嘘のように、その様子は元気そうだ。


「お、おうよっ! じゃあまずあれだな、属性から聞こうか。火か? 水か?? それとも雷とかか???」


ラドルに尋ねられるも、なんのこっちゃわからないギンロは沈黙する。


「あーっと、そいつが魔法を使うわけじゃねぇんだ。おいらが魔法を使って、ギンロが剣を振るう。つまりあれだな、連携技ってやつだな!」


……いいなぁ~、連携技。

なんかカッコいいなぁ~。

俺も、誰かと連携技したいなぁ~。


「なるほど! じゃあ、でも……。カービィは確か、全属性の魔法を使えるはずじゃなかったか?」


「うん、そうだぞ」


「となると、魔法剣も全属性のものを??」


「うん、そうなるな」


「……結構、値段が張るぞ? 一応値引きは考えるが」


「お、ありがとう! まぁ心配するな、大丈夫だ!! 金ならこいつがたんまりと持っている!!!」


ずいっと、前に出される俺。


……くぅ~!!

俺はただのお財布くんかよこの野郎っ!!!

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