133:ふ、ふさ、不参加、で……

「こんな所で何してるのよ?」


どことなく偉そうな態度で近付いてくるユティナ。

その後ろを、お決まりのピョンピョンという足音と共に歩いてくるサカピョン。


……何してるのよ、と言われても、俺は何もしてないです、座って息をしているだけなんです、はい。


「え……、あ! グレコ!?」


随分と近付いてから、ようやくグレコの存在に気付くユティナ。

案外、周りが見えてないんだなこいつ……


しかしながら、弓の練習で忙しいグレコは、ユティナの存在には気付かない。

カービィも、グレコの様子を見るのに必死で(グレコのお尻を見ているようにも見えるが……)、背後の俺たちには御構い無しだ。

ユティナに気付いたのは、魔法剣の試し切りを終えて、俺の隣に座っていたギンロだけだった。


「お主……、いつぞやの口汚いエルフか?」


おぉ? どうしたギンロ??

まぁ確かに、ユティナはちょっとお口が悪いけれど……、と言うか、ちょっと偉そうなだけだと思うけど……

そんな、喧嘩腰に喋りかけなくても良くないかい???


案の定、ギンロの言葉にカチンときたらしいユティナは、ギンロの頭から足先までを、鋭い瞳でジロジロと眺める。


「あなた、グレコのパーティーメンバーの一人よね? 別に、あなたに用はないわ、近寄らないで」


おぉ!? こちらもなんだか好戦的な物言いですなっ!??

頼むから、こんな所で喧嘩はやめてちょうだいよ!???


「あ……、え? ユティナ??」


ようやくこちらに気付いたグレコとカービィ。

何やら火花を散らしているギンロとユティナを目にして、双方困惑した顔をしている。


「あらグレコ、こんな所で会うなんて奇遇ねぇっ!?」


……ユティナの語尾がいつも以上にきつく聞こえるのは、おそらくギンロのせいだろうな。


「え、う、うん。えっと……、どうしたの?」


やや疲れ気味のグレコは、頼むから厄介事が起こりませんように、って顔でこちらに近付いてきた。

カービィも、テクテクと後に続く。


「あんたのパーティーの犬が、私の事を口汚いとか罵ったもんだから、ちょっと睨んでただけよ!」


うへぇ~、かなりお怒りですな……

そりゃそうか、口汚いなんて言われたら、誰だって苛立ちますよね、うんうん。

何がそんなに気に入らないのか知らないけど、今回はギンロが悪い。

でも、犬と言われたギンロも、なかなかに怒っているようですな……

ギンロ、とりあえず、その剥き出した牙をしまおうか?

怖くて、関係ないはずの俺の足が、既に震え始めているんだよ。


「え? えっと……、それはごめんなさいね」


「ん? なんでグレコが謝るんだ??」


謝るグレコに、疑問を呈すカービィ。

そうだ、カービィもユティナには悪い印象があるんだったな……、なぜかはわからないけど。


「ま、まぁまぁ、特に用事もないならね、ほら、お互い忙しいみたいだから、ユティナももう行ったら?」


出来るだけ、出来るだ~け、ユティナの琴線に触れないようにと言葉を選んだつもりの俺だったが……


「用事がないって誰が言ったのよっ!??」


あうぅっ!? こ、怖いっ!!!

お願いだから、俺を食わないでぇっ!!???


「ほぉ? ならば我らに何の用があるというのだ小娘よ」


おおおおお……、此の期に及んで挑発をするのかギンロぉおぉっ!??


「ふんっ。明日の午後二時から、北のフィールドで一斉討伐が行われるの。討伐対象はプラト・ジャコール。あんたたちも、ここまで来ているんだから聞いた事くらいはあるでしょ? 本来ならトケット地方東の高原にしか生息しないはずなのに、数が増えてこの辺りまでやって来ているらしいのよ。このジャネスコからは各地方に物資が送られているから、夜も馬車の出立が頻繁にあってね、夜行性のジャコールの餌食になる者が最近増えているの。だから、一斉討伐クエストが出されたってわけ」


ほ~、あの恐ろしいプラト・ジャコールを狩るというわけだね?

なんて勇気があるんだユティナよ。


「それとおいらたちと、何の関係があるんだ?」


「もうっ! 鈍い奴らねっ!! あんたたちも参加しなさいって言っているのよっ!!!」


ほっ!? 何ですとっ!??


「私たちも!? 嫌よそんなの!! どうしてよっ!??」


俺と同じく、驚いたグレコが声を張り上げた。

グレコ! もっと言ってやれ!!

俺はあんな恐ろしいジャコールを狩るなんて無理だ、無理無理だぞっ!!!


「どうしてもクソもないわよ! そっちが先に因縁付けて来たんでしょ!? 何が気に入らないのか知らないけど、ほぼほぼ初対面にも関わらず、レディーの事を口汚いとか小娘とか言うなんて、失礼にも程があるわっ!! そんなに言うならねぇ、実力で勝負してやろうって言ってるのよ!!!」


ギンロに向かって叫ぶユティナ。


おい! ギンロ!! 謝れっ!!!

今すぐユティナ様に謝れっ!!!!!


「ほぉ~? 面白い。我もちょうど、貴様のその鼻持ちならない態度を改めさせてやりたいと思っていたのでな……。正々堂々、狩で勝負をつけようぞ!」


ほわっつ!?? 何言ってんだギンロてめぇこの野郎っ!!!


「おぉ、狩勝負か! 面白そうだなっ!!」


なんっ!?? 乗っかるんじゃねぇよカービィこのチビクソがっ!!!


「え、や、でもほら、ギルドに所属してないと、そういうの参加出来ないんじゃないの!?」


何とかこの場を回避しようと、特に知識のないグレコがそう言うと……


「大丈夫だ。身分証明書さえあればクエストは受注できる。それに、ユーの功績は身分証明書に記録されるから、ギルドに入る際に有利になるはずだ。ミーもユティナも、その為に討伐に参加するのだ♪」


おおおいっ! 案外空気読めないんだなサカピョンめっ!!

ニコニコしながら余計な事を言うんじゃないよっ!!!


「ならばちょうど良いではないか。ギルドとやらに入る気はさらさらないが、身分証明書は明日手に入る」


「そうだな! 商船の出航までは別段やる事もないし、新しい武器に慣れる為にも実戦を積んだ方がいい!!」


あわわわわっ! ギンロとカービィはノリノリだぁっ!?

頼む、グレコ!! こいつらを止めてくれっ!!!


「なるほど、そうよね。私もこの魔法弓が実戦でどの程度使えるのか試してみたいし……」


うおおおおいっ!??

お前までもかグレコぉおぉっ!???


「じゃあそう言うことで! プラト・ジャコールをより多く狩れた方の勝ちだからねっ!!」


「望むところだっ!」


「お~狩なんざ久しぶりだなぁ! 楽しみだぁっ!!」


「わかったわ、負けないわよっ!」


あぁああぁぁあぁっ!??

お、俺は絶対に、参加しないからなっ!

お、お前たちだけで勝手にしてくれぇっ!!


「ぼ、僕は、その……、ふ、ふさ、不参加、で……」


小さくボソボソと、そう言ったのだが……


「公平を期す為に、パーティーは二人ずつね! 組み合わせは好きにして頂戴っ!! クエストの受注は明日の午後一時から、そこにあるギルド出張所窓口で出来るから。遅れないように来なさいよっ!!!」


捨て台詞を残して、ユティナとサカピョンは去って行った。


……今、パーティーは二人ずつ、とか言った?

……え、それってつまり??


「じゃあ……、どうやって組む?」


カービィの言葉に、三人が一斉に俺を見る。

彼らの目はまるで、こいつと組むと足手まといだ、とでも言っているように見える。


……うぅぅ~、どうしてだよぅ。

どうしてこんな事になったんだよぉっ!??

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