115:世界を平和へと導く小さき者の片腕

「ガッハッハッハッハッ!! そいでおめぇ、あのカービィとかいう奴は、まだおめぇの部屋で寝とるんか!?」


「ん~……、さすがにもう起きてるんじゃない? 絶賛二日酔い中だと思うけど」


「じゃろうの! おめぇが先に帰った後も、あいつめ、浴びるように酒を飲んでおったぞぉ!?」


 豪快に笑うテッチャと、寝不足で目の下に隈を作った顔でどんよりとしている俺。


 俺とテッチャは今、ドワーフの洞窟内、鍛冶職人協会ワコーディーン大陸南支部に来ている。

 タイミング悪く、支部長のボンザが西の港まで出かけているらしく、支部長室で帰りを待っているのだ。


「はぁ~……、ほんと、先が思いやられるよ……」


「やっぱり一緒に旅に出るってか?」


「あぁ~、うん、そうみたい……」


「ガッハッハッハッハッ!!! 宴の最中もずぅ~っとその話をしておったからのぉ~」


「え、そうなの?」


「おおよ。同じ話を何度も何度ものぉ、五月蠅いのなんのってもう……」


「あぁ~、なんか想像できる~」


「ガハハハッ! しかしまぁ、あいつの魔力は相当のもんじゃぞ? もう、体中からバンバン溢れ出とったのぉ。白魔導師と言うとったが、ありゃ~もったいないぐらいじゃよ。あれだけの魔力があるんなら、攻撃魔法も並大抵の威力じゃなかろうて。黒魔導師ギルドに所属すりゃあ、ガッポガッポ稼げるじゃろうに!」


 ……テッチャは何事も、その価値をお金でしか測れないらしい。


「けどほら、もうちょっとね……。凄い力を持っている事は認めるけど、こう、なんていうの……、落ち着いて欲しいよね」


「おち? ……ぐ、ガハハハハハハハッ!!!! モッモにそう言われるとは、あいつも相当じゃのぉっ!!?」


 ……え、何それ。

 俺は落ち着いてるでしょ?

 何がおかしいのさ??

 ……え、俺は、落ち着いているよね、違うの???


「しかしまぁ、心強いじゃぁねぇか。グレコも、カービィのおかげで命拾いをしたんじゃろ? ちぃと騒がしいくらい、目を瞑ってやらにゃぁ」


「ん~、そうなのかも知れないけどぉ……」


「それに、あいつはわしと違って、自分のこれまでの暮らしの全てを、おめぇのために使ってきたようなもんじゃろ? 生まれ故郷を離れて一人、異国で魔法を磨いたのも全部、モッモ、おめぇさんのためじゃぁねぇか。まぁ確かに、ちぃと……、いや、かな~り変わった奴じゃがの、おめぇさんの旅には必要不可欠な仲間じゃて」


 ……うん、まぁ、そうだよね。

 テッチャの言いたい事はさ、よくわかるんだけど。


 でもさ、こっちが眠い中、長々と思い出話を聞かせた挙句、ゲロを吐いてそのまま寝てしまった奴を、すぐさま許せるほど俺は大人じゃないのだよ。

 はぁ~……

 帰っても、俺の部屋……、カービィのゲロの匂いが残ってんだろうなぁ……

はぁ~、憂欝だ。






 昨晩、ゲロを吐く前に、カービィが話していた事は、ざっとまとめると以下の通りだ。


 カービィは、生まれた時すでに、その運命を定められていた、らしい。

 カービィの母ちゃんが予知魔法が得意だったらしく……


「カービィはいずれ、この世界を平和へと導く小さき者の片腕となる」


 この言葉が、カービィのこれまでの人生……、もとい、マーゲイ生を左右してきたと言っても過言ではない。

 カービィは、いずれ出会う、世界を平和へと導く小さき者のために、これまでずっと魔法の腕を磨いてきたのだ。

 

 両親が亡くなってしばらくは、デルグとその家族と暮らし、オーベリー村を旅立つ際には、その決意として、生家を燃やしてしまったらしい。

 なんて思い切った事をするんだろうと思ったが……


「帰る場所がない方が、カッコイイだろうっ!?」


 と、なんともカービィらしい事を言っていた。


 西の大陸、アンローク大陸に単身渡航し、魔法王国フーガへ移住。

 その国にある、世界一と謳われる魔法学校、ビーシェント国立魔法学校に入学……、は、すぐにできなかったらしい。

 ある程度の実績と、魔術訓練を受けた事のある者でしか入学試験すら受けさせてくれないとかで、大抵の者はその入学試験のために二年は修行に費やすとかなんとか……

 どこかのギルドに所属して討伐依頼をこなすとか、どこかの魔導士に弟子入りして訓練を受けるとか、本来ならそういう事をしなくてはいけなかったらしい。

 けれど、そういう面倒臭い事が嫌いなカービィは、魔法学校内に不法侵入し、学長室まで大疾走。

 驚く学長を目の前に、その当時、自ら編み出したとっておきの魔法を行使して、入学を許可された。

 その……、とっておきの魔法の内容は何なんだ? と尋ねてみたが、面白すぎて自分では語れない、などと言って教えてくれなかった。


 その後はまぁ、トントン拍子でというか、生来のずば抜けた魔法センスのおかげで、飛び級に飛び級を重ねて、前代未聞の最短期間でまさかの首席卒業。

 引く手あまたな中、周りの誰もが驚く白魔導士としてギルドに所属し、回復魔法と魔法薬学のエキスパートを目指して日々鍛錬を重ねてきたそうだ。

 しかし、待てど暮らせど、世界を平和へと導く小さき者とは出会えず……

 よく当たると噂の占い師を数々渡り歩くも、貰える言葉は「南に行け」のみだった。

 試しにアンローク大陸の南端まで出かけた事もあったらしいが、収穫はなし。

 もっと南の大陸なのかもと思い立ち、とりあえずパーラ・ドット大陸にでも行ってみようと、ギルドを辞めて、船が出ているこのワコーディーン大陸の港町ジャネスコに向かうも、しばらく船は出ないとの事。

 そこで、ついでだと思い立ち、久しぶりに故郷に戻って来た……

 その時に、俺たちと出会ったのだった。


「正直、最初は全然そんな風に思ってなかったんだ。珍しいエルフと、おっかなそうな獣人と、ちみっちゃい従魔がマッサに絡まれてるな~、デルグも関わっているのか~、じゃあちょっと、顔出しておくかな~、くらいの感覚だった」


 ……ちみっちゃいって、自分だって体の大きさ俺と同じくらいなのに、何言ってんだこいつは。

 と、突っ込みたくなった。


「けど、なんかこう、妙だな~って思ってさ。従魔のわりには自我があるし、飼い主だろうと思っていたグレコさんと対等に話しているし、何より世界中どこを探しても見つからないような、超絶ハイパワーな魔道具を身に着けている。まさかとは思ったんだけど……。森で、この生態測定魔道鏡でおまいさんを覗いた時に、あ~こいつだったのかぁ~って、思ったんだぁ~」


 そう言って、カービィは嬉しそうに笑って……、で、ゲロを吐いたんだ。


 なんだかもう、俺もいろいろ聞き過ぎて、よくわからない気持ちのまんまで吐かれたから、どこをどうすればいいのかわからず……

 今朝も、出発する前にカービィを起こそうかなと思ったのだが、ベッドと壁の隙間に器用に挟まって気持ちよさそうに寝ていたもんだから、そのまま放っておいた。


 まぁ、めちゃくちゃな奴だし、これから先も白い目で見なきゃいけない場面が多々ありそうだけど……

 それでも、仲間としてはとっても頼れて、何より、一緒にいるととっても楽しいだろう。

 そう思ったので、俺はそぉっと、眠るカービィの尖った三角の耳に、一つだけ余っていた青の絆の耳飾りをつけたのだった。


チャラララ~ン♪

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