116:値段交渉だな!!
「おぉおぉぉっ! 久しぶりじゃのぉテッチャ!!」
「おぉ、ボンザ殿! 心配をかけたなぁ!!」
西の港から帰ってきた支部長ボンザは、部屋へ入ってくるなり、テッチャに抱き着いた。
テッチャも、それに難なく応じているので、どうやらドワーフの間では普通の挨拶のようだ。
……髭のおっさんと、禿のおっさんが互いに抱き合う光景は、そんなに見たいものではないな。
「モッモも、久しぶりじゃのう! ……ちぃと小さくなったか?」
いいえ、小さくなってませんよ?
俺はもともと小さいんです、はい。
「いやぁ~、本当にモッモには世話になっての。今生きていられるのもモッモのおかげじゃ!」
「それはまた大袈裟じゃのぉ。で、本当に山を越えたのか?」
「もちろん! なんじゃ、嘘じゃと思っとったのか?」
「いやいや、嘘じゃとは思うとらんが、俄かに信じ難くてのぉ……。悪気はないんじゃ、許してくれ」
うん、まぁ、仕方ないよね。
クロノス山の向こう側、幻獣の森って、俺が思っている以上に未開の地らしいしね。
あのカービィが、幻獣の森って聞いた途端に目を見開いて驚いたくらいだからね。
「そいで、今日は何用じゃ? 国に戻るのか??」
「いやいや、戻ったりしとる暇はないのぉ。実はの、このモッモの住んどる村の近くで、い~いもんを見つけたんじゃ~。見たいか?」
「そりゃ……、いいもんなら見たいのぉ」
互いに目をギラギラとさせるテッチャとボンザ。
どうやら、守銭奴はドワーフの特性らしいな。
「これなんじゃがの……」
そう言って、テッチャは鞄の中から、小指の爪ほどの大きさの、美しく磨き上げられたウルトラマリン・サファイアを取り出した。
……んん? 小ちゃいのから見せるの??
もっと大きなのがあったじゃない???
「おめぇ、そりゃまさかっ!?」
「そうじゃよボンザ殿。宇宙の瞳と名高い、ウルトラマリン・サファイアじゃよっ!」
「とうとう見つけたのかぁっ!? どれ、わしによぉ~く見せてくれっ!!」
小指の爪はどの小さな青い宝石をテッチャから受け取って、分厚いレンズの入った大きな虫眼鏡のようなもので、宝石をいろんな角度から観察するボンザ。
「ふ~む。この輝き、この純度、この深い青色。紛れも無いの、これは最上級のウルトラマリン・サファイアじゃ」
「ふふふふふ。これで市場がひっくり返るぞ?」
「じゃなぁ~、ぐっふふふふふ」
……二人とも、笑い方がいやらしすぎるよ?
「して、場所はどこじゃ? ここから数名派遣して、作業を手伝わせようぞ??」
あ、やっぱりそうなるよね?
それは困るよ、テトーンの樹の村にはみんながいるし、今となっては絶滅寸前のダッチュ族とバーバー族もいるんだから。
上手いことかわすからってテッチャは言っていたけど……、どうするんだろう?? チラリ。
「作業の手伝いはいらん、わしが一人で全部できるからの」
「いや、しかしじゃなぁ……。人手が多い方が楽じゃろう?」
「そりゃそうなんじゃが……。実はのぉ、あの幻獣の森には、それはそれは恐ろしい、黒の化け物がおるんじゃ」
「黒の、化け物じゃと?」
黒の化け物……
もしかして、ガディスの事かな?
「うむ。わしも最初、森に足を踏み入れてすぐ、その化け物に見つかっての。恐ろしい牙と鋭い爪で襲いかかってきおった。執拗にわしを追いかけ、殺そうとしたそやつは、なんとわしを生き埋めにしおったんじゃ! ……幸いにも、奴が目を離しているすきに、近くを通りかかったこのモッモに救われての。命からがら、モッモの村まで逃げおおせたんじゃよ」
「なんと!? やはり幻獣の森とは、さも恐ろしい土地じゃったのかっ!??」
……ちょっとフィクション入っているけど、半分事実な所が痛いよね。
テッチャ、本当に生き埋めにされてたからなぁ。
「村の周りにはテトーンの樹があっての、化け物もそこまでは追って来んかった。しかし、なかなかに狭い場所での。わし一人が住まわせて貰うだけでも精一杯じゃ。少し外へはみ出せば、どこから化け物が襲ってくるかわからんでの」
「なるほど、大勢は無理というわけじゃな?」
「うむ。それに、ここまで来るにはモッモの魔法が必要での。度々来れるわけでもなし、他の者があの村へ移住してまで採掘を行うのは、ちとコストがかかりすぎる」
……ドワーフって、コストとかいう片仮名文字を使うんだね。
確かに、仕事用語ではあるだろうけど。
なんか、意外~。
「ふ~む、しかしのぉ……」
「まぁまぁ、そういう話はこれの値段を決めてからにせんか?」
「ん? まぁそれもそうじゃの。どうじゃろな~、これだけの純度と粒の大きさならば~」
しげしげと、手に持ったウルトラマリン・サファイアを見つめるボンザ。
テッチャは、固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「ウルトラマリン・サファイアが市場から消えてしばらく経つ。その希少価値と、この美しさを考えれば……。そうじゃの、一つ50000センスでどうじゃ?」
五万っ!? この小さい石が、五万円っすか!??
「ふむ、やはりその程度かのぉ……。もう一声いけるじゃろ?」
さすが守銭奴テッチャ! 値段交渉だな!!
「ふふふ、バレたか」
なにっ!? 安く見積もってたのかボンザ!??
「国に持ち帰り、装飾品にすりゃあ200000センスは下らんじゃろな。よって、その30%、70000センスでどうじゃ?」
おおおおっ!? 一気に二万も上がったぞっ!??
そんなに凄い物だったのね、ウルトラマリン・サファイア!!!
「よかろう。その大きさで70000センスならば、これならどうじゃ?」
そう言ってテッチャは、今度は親指の爪ほどの大きさの青い宝石を取り出した。
「そう来ると思ったぞ。そうじゃな~、うむ……、純度も申し分ないの。これなら120000センス出せるぞ」
ひょえぇぇっ!? じゅっ、十二万っ!??
なんちゅう価格だ……
「ふむ、良いじゃろう。ここに、先の小さいのが二十五個と、今の大きさのが十六個あるでの、先に渡しておこう。でじゃ、話はここからなんじゃがの……」
「なんじゃ? まさか、まだ大きいのがあるのかっ!??」
ニヤニヤといやらしく笑うテッチャと、目を見開くボンザ。
「これじゃよ~」
「ぬんっ!? なんっ!?? なんじゃこりゃあぁっ!???」
ボンザは、ドワーフ特有の、おったまげた! 時の驚き方をする。
テッチャが取り出したのは、俺の目玉ほどはあるだろう、手の平サイズの大きな青い宝石だ。
先日、それを見つけたテッチャが小躍りしていたと、ポポから聞いていたものだろう。
「このサイズのやつがの、結構まだあるんじゃよ。そこでじゃボンザ殿、裏ルートを使わんか? わしと、おめぇさんとでの。悪い話じゃなかろう? これだけの物なら、いくらで買い手がつくか……。想像してみぃ? ぐふふふふ」
出会って一番の悪人顔で、テッチャはそう言った。
目の前のボンザは、金に目が眩んだような、なんとも言えない引きつり笑いをしていた。
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