83:一緒に旅に出ようっ!!

 翌日の昼前、テッチャの小屋にて……


「みんなにこれを渡しておこうと思って」


いつの間にか鞄の中に入っていた、五つの耳飾りを取り出す俺。

 これらは、邪神に堕ちたカマーリスの最後の一撃を喰らい、気を失っていた俺の意識の中で、神様が俺に渡してきた新たなアイテムである。

 五つある耳飾りには、それぞれ違った色の丸い宝玉がぶら下がっているのだが、そのどれもに特徴的な、ぐるぐるとした不思議な模様が浮かんでいる。


「何これ? 綺麗ね♪」


 耳飾りの輝く宝玉に、グレコが目を輝かせる。


 ……ていうかグレコ、髪の毛の色がだいぶ抜けているね。

 もはや俺の体と同じくらいの黄土色だよ。

 そろそろ渇いてきたんじゃなぁ~い? 

 早く清血ポーション飲んでね??

 お願いだから、俺を吸ったりしないでね???


「ほぉ~!? こりゃまた珍しいのぉ!?? コール・ストーンか!!?? 噂には聞いておったが……、現物を見るのは初めてじゃ~」


 おったまげポーズで驚くテッチャ。


「コール・ストーン?」


 何それ、俺は知らないよ?


「うむ。別名、伝導石(でんどうせき)とも呼ばれるんじゃが……。ほれ、表面に渦巻き模様があるのが見えるじゃろ? これがコールストーンの特徴じゃ。大昔は、この石に魔術をかけ、なにやら伝達の道具として使っていたと聞く」


 ふ~ん……

 まぁ、神様が言っていた事となんとなく一致するな。

 神様はこれのこと、携帯電話みたいなもの、とか言っていたしね。


「……して、これはいったい何なのだ?」


 ギンロが首を傾げる。


「うん。実は、カマーリスの攻撃を受けて、意識を失っていた時に神様から貰ったものなんだけど……。【絆の耳飾り】って言ってね、これを身につけていると、離れた場所にいても、みんなと会話する事が出来るらしいんだ」


「何それ!? 凄く便利じゃない!??」


 眉間に皺を寄せて、喜ぶグレコ。

 嬉しい感情と、困惑した表情が、一気に表に出ているのですね、はい。


「なるほど、やはりこれはコール・ストーンじゃな。しっかしまぁ~、大層複雑な魔法がかかっておるのぉ。さすがは時の神の授ける物じゃて、格が違うのぉ~」


 一人納得し、唸るテッチャ。

 たぶんテッチャは、この中で一番、この耳飾りの価値を理解しているのだろう。

 腕組みをし、何度も一人で頷いている。


「気を失っている間に神と対話していたとは……。思いもよらなかったぞ、モッモよ」


 別のところで驚くギンロ。

 まぁね、うん……、普通そんな事、思いもよるはずないよね。

 俺だって、今朝鞄の中からこれを見つけるまで、もしかしたらあれは夢だったのかもって思って……、すっかり忘れていたからね、はははは~。


「えっと……、それでね、みんなにはこれを着けていて欲しいんだ。いつどこにいても、連絡が取れるようにね」


 俺の提案に対し、みんなは……


「分かったわ! じゃあ、私はこの赤いやつ♪」


 グレコは真っ先に手を伸ばし、赤い宝玉の付いた絆の耳飾りを、その尖った耳に着けた。

 目の色とマッチして、とてもよく似合っている。


「わしはこの黄金色じゃ! 金運が巡ってきそうじゃしのぉ!! ぐふふふふっ!!!」


 テッチャは、いやらしそうに笑いながら、不純な理由でそれを選び、黄色の宝玉のものを丸い耳に着けた。


「モッモは白にしたら? ほら、可愛いよ♪」


 じゃ、じゃあ白にしよっかなぁ~♪


 グレコに勧められるままに、白い宝玉のものを自分の耳に着ける俺。

 ちょっぴり耳に違和感があるけれども、慣れれば大丈夫だろう。


 さて、問題はギンロだ……


「ギンロも、受け取ってくれる?」


 俺の問い掛けに、ギンロは胸の前で腕組みをし、何やら難しい顔をしている。

 俺は一人、内心ドキドキしながら、ギンロの返答を待った。


 実は……

 昨晩、ガディスと話した後、俺はギンロを旅に誘ってみたのだ。

 光王レイアのいる、精霊国バハントムを目指す旅に。

 ギンロのような、強い仲間がいてくれれば俺は安心だし、ギンロだって、旅を続けていく中でもっと強くなれると思ったから。

 けれど……、その場で返事は貰えてなくて……


 お願いギンロ!

 この絆の耳飾りを、受け取ってぇえっ!!


 祈るような気持ちで、耳飾りを差し出す俺。

 すると……


「すまぬが、これを受け取るかどうか、もうしばらく考えさせてほしい」


 うっ!? やっぱりぃいぃぃ~~~…………


 なんとなく予想はしていたけれど、やっぱり断られた。

 差し出していた耳飾りを、スッと引っ込める俺。


 お父さんの事、一族の事、ギンロはいろいろと背負っているのだど、昨晩知った。

 それなのに、お気楽な俺の旅に同行させるなど、ギンロにとっては迷惑なだけなのかも知れない。

 だから、断られても仕方が無いのだ。


「うん……、分かった」


 しょんぼりしたのがばれないようにと、俺はニッコリと笑ってみせる。

 しかしながら心の中では、この後時間を置いて正式に断られるんだろうな~、なんて、暗い事を考えていた。










「モッモ、どうするの?」


 グレコに尋ねられる。


「どうするもなにも……、僕に決定権はない……」


 見るからに凹んでる俺。


「何やら複雑そうじゃしのぉ……。同じ次期国王でもこれほどの差があるとは……。わしはドワーフに生まれてラッキーじゃったの♪」


 いいよねぇ、テッチャはいつでも気楽そうでさ。


 テッチャの小屋にて、だべる俺とグレコとテッチャの三人。

 ギンロは、一人でゆっくり考えたいと、どこかへ行ってしまった。


「私も、ギンロが一緒に来てくれれば気が楽だけど……、さすがに無理言ってついて来てもらうわけにも行かないわよね。事情を聞いた今となっては尚更、ねぇ……」


 そうなんだよなぁ……

 あの、重~い感じの話を聞いちゃったからなぁ……


 昨晩はこう、なんか、歴史的な一場面に俺は遭遇しているんじゃないか!? 的なお気楽な気持ちで、ガディスとギンロの話を聞いていたのだけれども……

 いざ目の前で悩み続けるギンロを見ると、事はそんなに簡単じゃないんだなと思い知らされる。


 一族の王を父に持ちながらも、自らが混血種である、所謂パントゥーという存在だからして、その跡を継ぐ事が許されない中で、それでも尚一族の為に奔走し、一人ここまで旅をしてきたギンロ。

 比べて俺なんて、なんでもないピグモルで、親もなんでもないピグモルだし、故郷だってなんでもないピグモ……、違う違う、なんでもない村だし……

 ギンロが抱えているものが大きすぎて、今のギンロの気持ちなんて、俺はこれっぽっちも理解してあげられないや。


「しかしまぁ、ギンロが旅について来てくれるにせよ、来てくれないにせよ……。モッモ、おめぇは幸せもんじゃ」


「え? ……なんでさ??」


 お気楽テッチャの言葉に対し、怪訝な表情になる俺。


「なんでもかんでもなかろうて。今まで、この小さな村から一歩も外に出た事がなかったおめぇが、たった数日で、あんなに強くて頼りになる友に出会う事が出来たんじゃからの。たとえ道は違えども、一度心が通じ合った者とは、いずれどこかで再会出来るもんじゃて。ギンロと共に旅に出ずとも、きっとまた、世界のどこかで会えるはずじゃ〜」


 ふ〜ん……、なんか、テッチャのくせに、良い事言ってるなぁ〜。


「テッチャもたまには良い事言うわね!」


 俺の気持ちを代弁してくれるグレコ。


「たっ!? たまには余計じゃろうが?」


 恥ずかしそうに言葉を返すテッチャ。


「あははっ♪ ……で、私のペンダントは出来たのかしら? 早く欲しいの♪」


「お、おぉ……、今すぐ作るで、ちょっち待ってくれ」


「え、まだだったの? 早く作ってよぉ~」


 うん、まぁ……、そうだよね。

 たまたまあの森で出会って、助けてもらって、その後いろいろあったけど、結果仲良くなって……

 あんなに強くて頼りになるギンロが、最弱でやわやわな俺とここまで一緒にいてくれただけでも、俺にとっては奇跡みたいなもんだ。

 だから、多くを望まずに、ギンロの答えを尊重しよう。

 テッチャの言うように、一緒に旅ができないからって友達じゃないとか、仲間じゃないとか、もう今後二度と会う事は無いとか……、そんな事は無いよね。

 縁があれば、旅をしていく途中できっと、また何処で会えるよね、うん。


 グレコとテッチャの遣り取りを他所に、俺は自分の中でようやく折り合いをつける事が出来た。

 ギンロとは、互いの旅立ちを、笑顔で見送ろう、と……


 しかし、ものの数秒後。

 テッチャの家の扉が勢いよく開いて、


「モッモ! やはり我は、お主と共に旅に出るっ!!」


 何やら一大決心したらしいギンロが、テッチャの小屋に飛び込んできたかと思うと、鼻息荒くそう叫んだではないか。

 あまりに唐突なギンロの言動に、俺たち三人は目が点になる。

 でも……


「あ……、うん……。うん! 一緒に旅に出ようっ!!」


 嬉しさのあまり、俺とグレコは小躍りで喜んで、テッチャは二カッと笑った。

 ギンロも、大口開けて、獰猛な牙を見せつつ、出会って一番の笑顔で笑っていた。


 こうして、フェンリルでパントゥーの旅の剣士ギンロが、仲間に加わったのでした。


 チャララ~ン♪

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