22:スピードアーップ!!

「いぃいぃぃぃ~! やあぁぁぁぁ~!! 降ろしてぇぇぇぇ~!!! めっ、目が回るぅうぅうぅ~~~!!!!」


 グルグルと回転しながら、叫ぶグレコ。


「だからぁぁぁあっ! 言ったじゃないかあぁ~!! リーシェは駄目だあぁっ!? ってぇ~!!!」


 同じく、グルグルと回転しながら、叫ぶ俺。


『キャハハハハハッ♪ そぉれっ! スピードアーップ!!』


 楽しそうに笑いながら、クルクルッと指を回すドS精霊。

 そしてその言葉通りに、宙を舞う俺とグレコの体は、グルグルグル~! っと、更に回転速度を速めていき……


「キャアァアァァァーーーーーー!!!!!」


「ぎぃやあああぁぁぁぁあぁ!!!!!」








 数分前。


「ねぇ、なんかこう、パッと村まで戻る方法ないの? 導きの腕輪は使えないの??」


 うん、一昨日の俺と全く同じ事を考えてるねグレコさん。


「村には、まだ石碑がないんだよ」


「あ、そっか、じゃあ駄目か……。じゃあ精霊は? 移動を手伝ってくれる精霊とか、いないの??」


 グレコの言葉に、俺の頭に浮かんだのは、思い出したくもない空の旅。


「いるにはいるんだけど……」


「え!? じゃあ呼びましょうよ! 早く村に帰って旅の計画を立てたいし、モッモの村も見てみたいし!!」


「え~……、でもぉ……」


「どうして渋るの? 何の精霊なのよ??」


「う~ん……。風の精霊シルフの、リーシェって言うのと会った事があるんだけど……」


「シルフ!? いいじゃないっ! 素敵っ!! ……けど何?」


「その子がちょっと、何て言うか……」


 視線を下に向けて、モゴモゴする俺。

 すると背後から、スーッと風が吹いてきて、嗅ぎ覚えのあるフローラルな香りがフワッと漂ってきた。

 そして……


『あたしのこと呼んだかしら? キャハッ♪』


「ひっ!? でぇっ!?? 出たあぁぁっ!?!?」


 俯く俺の目の前に……、本当に目の真ん前に、風の精霊シルフのリーシェの、ピンクがかった透明の顔がにゅっと現れて、俺は悲鳴を上げた。


『キャハハハハッ♪ びびりすぎでしょ~? キャハハッ♪』


 お腹を(たぶんお腹だと思われる位置、体がほとんど透明でよくわからない)抱えて笑うリーシェ。


「まぁっ!? 凄いっ! あなたが風の精霊シルフね!?? 本当に凄いわね、名前を呼ぶだけで来てくれるなんてっ!!」


 隣のグレコは、何やら大層感動しているが……

 気を付けろ! そいつは危険な精霊だっ!!


『あっら~? 可愛いお嬢さんじゃないの! モッモちゃんも隅におけないわねぇ~、キャハ♪』


「かっ、可愛いだなんてそんな……」


 リーシェの言葉に、頬を赤らめるグレコ。


 駄目だっ! 丸め込まれるなっ!!

 やられるぞっ!!?


『それで……、ピグモルの村まで帰りたいのよね? 速く、帰りたいのよね??』


 「速く」という言葉を強調して、ニヤニヤと笑うリーシェ。


 やばいっ! これは絶対に悪巧みしているっ!!

 早々に断らないとっ!!!


「いやっ! いいよっ!! 歩いて行くからっ!!!」


「えっ!? どうしてよ!?? せっかく来てくれたんだから、連れて行ってもらいましょうよ!!!」


 だあぁぁぁぁあぁっ!?!?

 頼むグレコ! 今だけは黙っててくれ!!


『ほぉ~ら! カワイ子ちゃんが空の旅をご所望よぉ? それともなぁに?? モッモちゃんは、レディーの小さなお願いすら聞けないような、体だけじゃなくて心の器まで小さい、ダメダメ紳士なのかしらぁ???』


 くうぅぅうぅぅっ!

 小さい小さい言うんじゃないよっ!!

 こんのぉおぉぉ……、悪徳精霊めっ!!!


「空を飛べるのっ!? 嘘っ、信じられないっ!!? 私、空を飛ぶなんて初めて! モッモ、行きましょうよっ!!」


「だっ!? 駄目っ! 駄目なんだっ!! リーシェは駄目なんだっ!!!」


 ノリノリのグレコをなんとか宥めようと、バババッ! と両手をばたつかせる俺。

 俺の言葉に首を傾げるグレコ。

 すると、リーシェは……


『うぅ……、酷いわモッモちゃん……。そりゃ~あたしは、シルフの中じゃまだまだ下位の存在だけど……。でも、なんとかあなたの役に立ちたくてここまで来たのに……、なのにそんな言い方……、ううぅぅ……、あんまりよぉおぉっ! あぁあぁぁっ!!』


 なっ!? 泣くっ!!?

 泣くのぉおっ!!?


 けど……、その大泣きの仕方はわざとらし過ぎるぞっ!

 俺は騙されないぞぉっ!!


「モッモ、酷いわ。せっかく来てくれた、こんなに可愛い精霊を泣かすなんて……。召喚したんだから、ちゃんと力を行使させてあげないと失礼よ?」


 まんまと騙されるんじゃないよグレコ!!!


 しかし、グレコの赤い瞳が、冷たく俺の心に突き刺さる。

 その余りの冷たさに心がポキリと折れて、俺は諦めの溜め息をついた。


 言ったからな? 俺は、ちゃんと、言ったからな??

 なのにグレコが、リーシェに頼むって決めたんだからな???

 後で文句言ったって、俺は知らないんだからな????








 そして今。


「こんなぁ~、のぉおぉぉ~! きっ、聞いてっ!! ないぃぃ~~~~!!!」


 グレコと俺は、激しくリーシェに弄ばれて、空でグルグル、グルグルグル、グルグルグルグルと、回っていた。

 どこまでも広がる森の緑と、空の青が、上下左右に次々と移動して、もはや脳がついていかない。


 ものの数分で、俺の故郷の村があるテトールの樹の群生した森まで着いたが……

 その数分間はまるで、永遠のような地獄だった。


 見覚えのある小川の近くに、俺とグレコは不時着する。

 目が回りすぎて、吐き気と頭痛が酷く、地面に倒れたまま身動きが取れない。


『キャハハッ♪ あ~楽しかったぁ! じゃあまた呼んでね、モッモちゃん♪』


 そう言ってリーシェは、ぶっ倒れたままの俺とグレコをその場に残し、ヒューンとどこかへ飛んで行ってしまった。

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