21:そうです、私はピグモルなのです

「この世界には【全知全能の神】がいて、時の神クロノシア・レアはその全知全能の神の右腕、つまり……、この世界で二番目に偉大な存在なの。時の神が持つ力は万物に及ぶと言われているけれど、主たる力は時を操る力らしいわ。そして、あの【時なしの山】にある聖地は、時の神が降臨なさる場所なの。だから、あなたが出会った神様も、時の神で間違いない。ここで重要なのが、神という存在は、自らの力で世界に変異をもたらす事が出来ない、という事ね。そんな事したら、世界が一瞬で滅んでしまうなんて事もあるかも知れないから。だから、自分の力を分け与えた使者を、目的の為に遣わすの。今回その使者に、あなたが選ばれたって事なのよ、モッモ」


 ……ふ~む。

 なんとなく、話が繋がったぞ。


 つまり、俺をこの世界に転生させて、ピグモルに生まれ変わらせて、今から世界中を旅して神々の様子を探ってこいって言ったあの神様が、時の神クロノシア・レアなわけね?

 で、その時の神が俺を、自分の目的のために世界旅行に向かわせる事は、即ち俺が時の神の使者になったという事……、だということね??

 なるほどね~、うんうん、……うん???


「どうして僕が選ばれたんだろう?」


「知らないわよそんなの」


 あ……、うん、そうだよね。

 けどさグレコ、もうちょっと優しい返事をしてくれない?


「とにかく、私の目的は、神の力を宿しし者の助けになる事。それが巫女様のお告げなの。あなたがこの先どうするのかまだ知らないけれど、私はどこまでもあなたについて行く事になる……、だから……」


「だ……、だから?」


 黒髪のグレコの赤い瞳が鋭く光る。

 何を言われるのだろうかと、俺の小っちゃなマイハートが、ドキドキと音を立てる。


「だから、これからもよろしくね、モッモ♪」


 そう言って、グレコは右手を差し出して、にっこりと笑った。

 

「う……、うんっ! こちらこそ、よろしくっ!!」


 グレコの白い手を、俺の小さなフワフワの手が握った。


 良かった~。

 グレコ、根が良い子でほんと良かったわ~。








『うお、帰る。肉、美味しかった。また食べたいうぉ♪』


 ひとしきり肉を食ったバルンは、ニコニコしながらそう言って、ブワァッ! と燃え上がって姿を消した。


「しっかしまぁ、神の使者は召喚の儀もなしに精霊を呼べるのね。それってなんか……、ずるいわね」


 そっ!? そんなこと言われたってぇ~。


「ねぇ、他には? 他には何かない?? 何か隠してないわよね???」


 グレコは、まるで俺を丸裸にしてやろうと言わんばかりに、ジロジロと観察し始める。


 これからしばらく一緒に旅をすることになるのだ、隠し事は確かに良くないな。

 仕方ない、神様にもらった魔法アイテムの事も素直に話しておこう。


 俺は、身に着けている隠れ身のローブ、導きの腕輪、望みの羅針盤、時空の指輪を一つずつ紹介し、最後に導きの石碑の説明と、世界地図を出して見せた。


「うわぁ……。なんていうかもう、想像以上っていうか……。神様って、本当に凄いのね」


「うん……、僕も、なんていうか……、とても驚いたよ」


 二人して、軽く溜め息をつく。


「けど、それだけの魔法アイテムがあれば私の助けなんかいらな……、あ~、いるわね!」


 うん、いります。


「だってモッモ、世界最弱種族のピグモルだもんね!!」


 そうです、私はピグモルなのです。

 世界最弱と名高く(?)、世間では絶滅した事になっているし、実際に自分の村以外の世界のどこかで、同種の仲間が存在しているのかすらも怪しい、本当に非力で可愛いだけの種族なのですから。


 グレコの言葉には少し……、いやかなり、ピグモルに対する軽蔑というか、軽視が含まれていたが、まぁそう思われても仕方がないので、俺は大きく頷いた。


 万が一、神様に貰った魔法アイテムがあったとしても、俺にできるのは物陰にコソコソと隠れて、隙を見て逃げることだけだ。

 そんなことばかりしていたら、旅は一進一退ではないかと少し不安だったのだ。

 それでもまぁ、気長にやっていけばいいかな~、なんて思っていたのだが……


 あの巨体のタイニーボアーを、ものの一瞬で、それも三本の矢をほぼ同時に放って仕留めるほどの弓の腕を持つグレコが、これから先一緒に旅をしてくれるというのなら、それはもう心強い以外の何ものでもない。

 だから、少しくらいディスられたって構わない。

 顔は可愛いし、根は優しいんだから、言うことなしっ!


「じゃあともかく、モッモの村に帰ろっか! 旅に出るのはそれからね。どこに向かうか、モッモの村でゆっくり考えましょ♪」


「うんっ♪」


 俺とグレコは、再び森の中を歩き始めた。








 この時はまだ知らなかった。

 テトーンの樹の村が、あんな事になっていただなんて……

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