6:ドSっ!!!

「嫌だぁっ! 助けてぇ~!! だっ、誰か助けてぇえぇぇっ!!!」


 あらん限りの声で叫ぶも虚しく、俺の体は既に大空を舞っていた。


「おちっ!? 落ちるっ!?? 落ちるぅっ!?!? 怖い怖い怖い怖いっ!!! ひぃいぃぃぃ〜〜〜!!!!」


 眼下には、既に見慣れた森はなく、白い岩肌が剥き出しのゴツゴツとした地面が広がっており、落ちれば即死は免れないだろう。

 恐怖のあまり、わけもわからず身をよじりジタバタと暴れるも、別に何かに捕まっているわけでもないので意味がない。


『うるさいわねぇ……。そんなことしてたら本当に落ちちゃうわよ?』


 クスッと笑ったリーシェの顔に、何やら悪意を感じた俺は、ジタバタするのをやめる。


 テトーンの樹の洞で、のんびり昼寝をしていた俺の前に現れたのは、風の精霊シルフ、名をリーシェ。

 迎えに来たと言った彼女は、いきなり俺の周りに竜巻のような風を巻き起こし、鞄もろとも大空に巻き上げたのだ。


 もう、なんていうか、ビックリしすぎてしばらく声が出なかったし、気がついたら空の上で、ちょっぴりちびるし……


『あら、大人しいとそれはそれであんまり可愛くないわねぇ? そぉ~れっ!』


 リーシェは、その透明でピンクがかった体の、手の指と思われる部分をクルクルっと回す。


「んっ? なんっ!? うぎゃあぁぁっ!??」


 俺の体は空の上で、上下左右に大回転!

 目がぁっ! 目が回るぅっ!!


 空が飛べれば楽なのにとは言ったけれども、これは違うぅうううぅぅっ!!!


『キャハハハッ! 可愛い可愛いっ!!』


 どうやらこの風の精霊、ドSっ!!!








「くはぁっ! つっはぁ!! はぁはぁはぁ……」


 し、し、死ぬかと思ったぁ…… 

 まじで、ほんとまじで、死にゅかと……


 ようやく地面に降ろされた俺。

 両手を地面につき、土下座ポーズのままで深呼吸。

 すーはー、すーはー。


 空を飛ぶってもっとこう、快適で楽しいと思ってたのに、これじゃああんまりだろ……


 途中、何度も胃の中のものが外に出ようと暴れていたが、キャハキャハ笑うリーシェを見て、これ以上笑う口実を与えまいとなんとか我慢した。

 そのせいかなんなのか、口の中が妙にゲロ臭い。


『じゃっ! あたしの仕事はここまでだから!! また会おうね、モッモちゃん? バッイバーイ!!!』


身動き1つとれない俺にヒラヒラと手を振って、風の精霊シルフのリーシェは、ヒューンとどこかへ飛んで行ってしまった。


 くっそぉ……、なんなんだよあいつ……

 もう二度と会うもんかっ!








 ようやく動けるようになった俺は、近くに置き捨てられていた鞄を発見し、中を漁る。

 小さな皮袋を出し、中の水をゴクゴクと飲む。


「ぷはぁっ! ふ~っ。えっらい目に遭ったなぁ……」


 まだ少し目眩がするが、いつまでもうずくまってるわけには行かないので、鞄を背もたれにして座り直し、周りに目をやる。


 辺りは一面、ゴツゴツとした白い岩で囲まれており、地面に草はほとんど生えていないし、樹は全く見当たらない。

 耳に聞こえてくる風の音は聞き慣れず、どこか尖った音色を奏でている。

 獣の臭いが全くしないので、ここには敵となる獰猛な生き物はいなさそうだ。


 さて、どうしたもんかねぇ……


 鞄の中から別の皮袋を取り出して、中に入っている食べ物を口へと運ぶ。


 パリパリッ! ムシャムシャムシャ……


 俺の大好物、ポテトチップス!

 前世の人間譲りの知恵を頼りに、村の畑で採れる芋を使って作った、村のみんなが大好きなおやつだ!!

 村には塩がないので、ガラシンという唐辛子に似た野菜を乾燥させて粉末にし、アクセントとして芋にまぶしてある!!!


 おそらく、俺が大好きなのを知っていて、母ちゃんが沢山作って入れてくれたんだろう。


「母ちゃん……、ぐすん」


 ポテトチップスを食べながら、目を潤ませていると、妙な風を背中に感じ取った。

 なんかこうスーッと、何かが上から降りて来たような風だ。


 恐る恐る振り返ると、そこには……


『やぁ、久しぶりだね』


「あっ! おっ!? ああああぁっ!!!」


 見たことのある格好の、見たことのある少年が、笑顔で俺を見下ろしていた!

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