7:村が、滅びる?
「お前はぁっ! 神様っ!?」
思わず立ち上がり、少年に向かって指差す俺。
『ん~、神様に向かってお前はないんじゃない?』
頭上でクスリと笑う少年。
何やら高級そうな白いローブに身を包み、髪は少年らしからぬ白髪で、片目には機械仕掛けの眼帯のようなものをしているが……
間違いない、こいつは俺が産まれる前に出会った、自らを神様だと名乗っていた少年だ!
頭の片隅に残っていた、生まれる前の(?)記憶を辿り、その存在を思い出す俺。
なんとなくだけど、覚えている。
たぶん、この少年だった……、はず。
それにしても……、デカすぎないかっ!?
少年の体は、その背の高さは、軽く俺の3倍はある。
産まれてこのかたピグモル以外の知的生物と……、ましてや人の形をした生物とは遭遇した事がなかったので、いまいち確証を持てなかったのだが、やはりピグモルは小さいのだ。
俺が思いっきり背伸びしても、少年の太ももにタッチするのがやっとだろう。
『どうだい? ピグモルでの生活には慣れたかい??』
「なっ!? 慣れたも何もっ! もう十五年も経ってるんだぞ!! 慣れるもクソもあるかっ!!!」
『あぁ、そうなんだ。それはちょっと待たせすぎたね。ごめんね』
ふふっと笑う自称神の少年。
その笑顔、その仕草が、とえも美しく見えて、俺はグッと言葉を飲み込んだ。
思うに、彼のような少年を、俗に美少年と呼ぶのだろう。
整った端正な顔立ち、サラサラの髪、ツルツルの肌、そしてよく通る涼やかな声。
その存在の全てが、透明感半端ないのだ。
しかも、瞳がキラキラ輝く黄金色ときたからもう……
くっそぉ~、なんだか無性に苛立ってきたぞぉ~。
美少年だからって、何でも許されると思うなよっ!
沸々と、心の中でお鍋を沸騰させる俺。
すると少年は、スッと真面目な顔になって、こう言った。
『さて……。時は満ちた。君には旅に出てもらおうと思う』
「なんっ!?」
たっ、旅っ!?
旅だとっ!??
こいつ、いきなり何を言い出すんだっ!?!?
予想だにしていなかったその言葉に、俺の脳内はプチパニック状態だ。
『ほら、この間話しただろう神々の様子を見て来てほしいって。まぁ……、この間って言っても、もう十五年も前だったね。覚えてる?』
そう問い掛けられるも、俺の記憶は酷く曖昧だ。
だけど、覚えてないと言うと、なんだか馬鹿にされそうなので……
「おっ! 覚えてるよっ!! 覚えてるけどっ!!!」
盛大に嘘をついてしまったぜ俺ってばよっ!
嘘はいけないって、母ちゃんに言われてたのにぃっ!!
ごめんよ、母ちゃんっ!!!
『なら話は早い。こちらの準備もようやく整ったんだ。今から説明するからさ。いいかい? まず、君がやるべき事は』
ちょちょっ!?
展開が早いっ!!?
ちょまっ……、ちょまっ!?!?
「ちょ……、ちょっと! 待ていっ!!」
どこぞのお笑い芸人風に話を制止した俺に対し、少年は目を点にして話を中断する。
相手が怯んだ事を確認した俺は、フーッと大きく息を吐いて呼吸を整え、キッ! と少年の顔を睨んだ。
「僕は! テトーンの樹の村のモッモだ!! 僕は旅になんて出ないっ!!! 一生村の中にいて、平和に暮らすんだっ!!!!」
泣かないように、必死に涙を抑えながら、俺は叫んだ。
母ちゃん、父ちゃん、コッコ、トット、そして可愛い双子の妹たち。
オナラの臭い隣のおっちゃんに、果物作りが上手なおばちゃん。
いつもどっかズレてるんだけど、憎めないキャラの長老。
その他にも沢山の、三百八匹のテトーンの樹の村のピグモルの仲間たち。
俺は、彼らと一緒に、楽しく暮らしていきたいだけなんだ!
それを邪魔するなら、神だって何だって許さな……
『村が滅んでもいいのかい?』
少年の言葉に、俺の思考がピタリと止まる。
心に浮かんだ村のみんなの笑顔が、モノクロの写真に変わって、ガラガラと音を立てて崩れた。
「え? 村が、滅びる?? ……なんで???」
俺の問い掛けに、少年は悲しそうな顔をした。
『いいかい? 今から言うことをよく聞くんだ。君が旅に出ないことには、あの村は近く、滅びることになる』
えっ? えっ?? 俺の……、何が???
自称神だという少年の話はこうだ。
この世界には、全知全能の神がいて、その他にも複数の神々が存在する。
しかし今、その全知全能の神の行方が知れず、その他複数の神々が好き勝手に動き出したとか。
もちろん、今まで通り、神として正しく存在している者もいるが、中には道を誤って悪行を働いたり、邪神と化そうとしている者、或いは既に邪神となってしまった者もいるらしい。
このままだと、世界の均衡が乱れて、弱者から滅びる運命にあるのだ。
「弱者って……、まっ!? まさかっ!??」
『そう。君たちピグモルは、この世界で最弱の種族。世界の均衡が乱れ、一番最初に滅びるのは、おそらく君達となる』
まっ、まじかぁ……
余りにも信じ難く、しかし、あり得そうな話に、俺の前歯がカタカタと音を立てる。
『けれど、今ならまだ間に合う。神々の動向を探り、悪行を行おうとする者、悪行を犯している者を止める。そうすれば、世界の均衡は保たれる。解るかい? それができるのは、異界からその記憶と知識を持ってこの世界に生まれ変わった、君だけなんだよ。君だけが、故郷の村を救える。テトーンの樹の村に住むピグモルたちの運命は、君の手の中にあるんだ』
まっ……、まっ、まじかぁ……
身体中の毛が逆立つのを感じながら、俺はゴクンと息を飲んだ。
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