ダイナマイトとあきら(3)
綾川知也
Roundtable Rival With Chaos Club
高校三年生。
彼は普通の高校生。
詰め襟もちゃんと閉じている、模範的とも言える。
普通の高校生なら何かに夢中になったり、熱中したりする。
政宗の場合、小説を書くことに夢中になっていた。
「ヨムカク」
そのサイトに自分の小説を投稿する。
投稿をし始め既に六ヶ月。
頭の天辺まで「ヨムカク」にハマっている状態。
ヨムカク依存症という病名が付けられるレベルだ。
ウッドフロアーに引かれた黒い絨毯に黒テーブル。
その上に置かれたノートパソコン。
政宗はキーボードを叩き、文書を書き進める。
テーブルの上に置かれた時計を見ると、既に夜の十二時を回っている。
指先が冷たくなるので、時々手で揉みながら、文章を入力し続ける。
そんな時、ポツリと政宗は独り言を漏らした。
「舞台はウェスタン風がいいかもな。寂れた町の中で、銀行強盗が押し入るんだ。それを女の子達が守る。ひょっとしたら、PVが稼げるかもしれないな」
夜中に執筆なんかしていると、独り言が多くなる。
時は午前一時。
政宗は独り言を喋る。
「女の子達はどうしよう。赤ドレス。黒ドレス。白ドレス。特徴を与えた方がいいよな。武器はどうするかな。魔法とかだとありきたりだし。あっ、楽器を武器にしてみるか」
変なスイッチが入った。
すでに政宗の独り言は、高音域へと達している。
ピアノの最高音と同じぐらい。
つまり、鼓膜を通り越して脳に刺激があるほどだ。
この政宗の状態を、定義するなら”あきら(1)”。
既に別の人格に変わっている。
彼は口を開いて、歯を剝いていた。
ちょっと怖い。
午前二時になる。
政宗は独り言を叫ぶ。
「やっぱり、途中でクライマックスを入れないとな。悪党共を一度はやっつけて平和に戻るんだけど、悪党共はパワーアップして帰ってくるんだ。で、最終決戦。これだ!」
変なスイッチがまた入った。
独り言は既に可聴域を超えて超音波となっていた。
窓外でコウモリが墜落しているが、深夜に執筆する作家が気にするわけもない。
舌を伸ばし、目は見開かれている。
もう既に人間離れした表情。
テーブルの隅にはエナジードリンクの空き缶が三本。
こうなると危険。
経験者が語るには、飲んだ時には元気が出た気がするが、翌日は死にかけるらしい。
政宗は完全な別人格へと変貌を遂げていた。
名付けるなら”あきら(2)”。
午前三時になる。
最終スイッチが入った。
システム・オール・レッド。暴走します。
政宗は独り言を絶叫する。
「赤ドレスは腕白ガールの
テーブルの隅にはエナジードリンクの空き缶が五本。
しかも、トールサイズ。
これは手遅れ状態。
”あきら(3)”。
政宗の最終形態。
もはや政宗の原型は留めていない。
彼の背中からコウモリの羽根が生え、尻尾がニョロリと生えている。
政宗の独り言が作り出す波動で、光子が発生していた。
観測装置があるならタキオンが検出されるだろう。
こうなると時空を歪ませ、現実の因果を狂わせ架空が現実のものとなる。
そして、政宗は投稿ボタンをクリックする。
ヨムカクの運営もたまったものではない。
それでなくとも、つい最近ダウンロード機能を追加した。
予期せぬダウンロードが増え、ネットに想定外の負荷がかかっている。
この前だって、サーバーがダウンし、緊急呼び出しがかけれたばかりだというのに。
それだけだったらまだしも、変な作家連中が大騒ぎをやらかしたりだとか、通報されるような小説を投稿したりする奴が居たりして、ヨムカク運営は何かと大変だ。
そんな状態なのに、光速超えでボタンをクリック。
システムは当然のように異常をきたす。
完全に想定外。
もはや対策など打てるわけもなく、再発防止策など考えることすら不可能。
深夜を越えた政宗が投稿した文章は
これは誤字。
誤字はこういった、早く投稿したいという気持ちが生み出す。
一種のダイナマイトが送りつけられたヨムカク上で次元現象が発生した。
政宗が言っていた三人の女子高校生。
三人は政宗が創作したウェスタン風の世界で生活をしている。
砂っぽい町で吹く風は砂を含んでいる。
どういう訳だか三人は酒場に放り出された。
気が付けば、カウボーイハットを被った連中がテーブルでポーカーをしていて、ダミ声が飛び交っている。
「じゃ、カウンターの方をやるから、星子と香織はウェイトレスな」
そう言って、知子はグラスを磨き始める。
星子は唯々諾々と従ったが、香織は不満が無い訳でもない。
「集中しなさいよ、知子。油断すると危ないわよ」
<Ending Music>
(2018/11/22 安全確認済)
https://www.youtube.com/watch?v=jvipPYFebWc
</Ending Music>
ダイナマイトとあきら(3) 綾川知也 @eed
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