第14話 ノーサイドを打ち上げろ

 地ビールで乾杯。音頭は年長者の菱垣ひしがき先生が取る。話は尽きない。私の隣に座った爾比蔵にいくらさんは、黙って料理を食べている。名物のサワラとタコだ。皆は、食事のうんちくや、自身の研究などについて話していた。みんな違う分野で、好奇心旺盛な生き物なのだ、話は尽きない。

 

爾比蔵にいくら先生には、賛成しなければならなかった理由があるのですかな?」


 歌影うたかげ先生は自身が反対したことを気にしているようだ。爾比蔵にいくら先生は少しお酒も入って怒りもおさまっているように見える。


「よくある話です。私の父は私が子供の頃、難病で亡くなりました。当時は適切な治療法が見つからなかった病気です。今では画期的な治療法が開発されて、死亡率は劇的に減っています。私は、私と同じような人が増えて欲しくないのです」


「それは申し訳ないことをしましたな。あなたからすれば、私達が子供のわがままを言っているように思えたことでしょう」


「私こそすみません。頭に血が上っていました。あの状況で、自分が信じているものを裏切るようなことを言ったら、私も一生後悔したと思います。もっと冷静になるべきでした」


「気にされることはありませんよ」


 今見ると、爾比蔵にいくらさんはこんなにも華奢で、とても声を荒げて言い合いをするような人には見えなかった。やはり異常な空間だったのだ、あそこは。


 それはそうだ、あそこで冷静を保てるほうが異常なのだ。私は最初で学会発表をしたときと同じく、自分が話したことをあまり覚えていなかった。純ちゃんはすべて政府に報告すると言っていた。恥ずかしいからやめてほしい。


「いやぁしかし、大冒険でしたな、昔の冒険映画を思い出しました」

「大きな岩が転がってくるやつ?」

「あー私がうっかり罠のスイッチ押す係やります」


 皆の疲れもあって、打ち上げは早々に、と言っても0時過ぎにお開きになり、皆、自室へ戻っていった。私も部屋に入るとすぐに睡魔が襲ってきたので、身を委ねる。


 あくる朝、純ちゃんから今後について報告があった。当面の間はパリキィ氏と政府の間で交渉が行われ、その後結果を我々にも報告してくれるとのことだった。また、1ヶ月後ぐらいに集合するとのこと。今日はこれにて、解散となった。男性陣は、岡山観光を楽しんだ後帰宅するそうだ、元気な人たちだ。

 

 純ちゃんから連絡をもらって2週間。私は私の仕事を全うできたのだろうか。その結果が出るのは2年後だ。

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