第13話 私の答え

 私の番だ。私の、番。

 3対3。

 満場一致で賛成だと思ってた。


 みんな誠実に、信念の元に、自らの答えを表明した。


 私はどうだろうか、学生のこともある、大学のこともある。最初は簡単に答えを出そうとしていた。

 賛成すれば、学生も、大学も助けることができる。

 

 でも、学生を、大学を理由に私の答えを出して良いのだろうか。

 

 ここで、私だけ、そんな答えを出すことが、私にとって、良いことなのだろうか。

 わからなくなる。


 私も、誠実に、答えなければとも思う。

 でも、私の答えを、私は出せるだろうか。

 それでも、私には皆の誠意に答える必要がある。


 でも、考えがまとまらない。



「すみまません、考えがまとまらないので、もう少し待ってもらえますか」


 私は恥ずかしかった、皆が出せた答えが、私には出せない。


「あなたまで反対する気?」


「まぁまぁ、そう噛みつきなさるな」


 そうたしなめる海良かいら氏は反対派だ。

 これでは火に油を注ぐようなものだ。


「君の賛成は、本物なのかな?」


「どういうことですか! 私は、私は一人でも多くの命を救いたいんです。どうしてそんなひどいこと、言えるんですか!」


 こればかりは、私もひどいと思う。

 そんな言い方はないだろう。


「すこしいい方が悪かったな。そこは謝罪する。私が言いたいのは、この会議の本当の意味は何なのだろうなと言うことだ」


 本当の意味、どういうことだろうか。

 この会合の意味は、宇宙人に協力することの賛否を問う。

 それ以上の意味があるというのか。


祖谷そたにさん」


「なんでしょうかな?」


「こいつが、シンギュラリティを超えた存在なのだとしたら、この会議すら、あらかじめ予想できていたのではないのかな?」


 一体何を言い出すのだろう。

 未来予知?

 そんなことが。


「できるかもしれませんな。彼が我々が言うところの量子コンピュータかそれ以上の技術で作られているとすると、可能性はゼロでは無いでしょう」


 そんなことできるのだとしたら、私達に勝ち目はないではないか。

 勝負をしてるわけではないのだけれでも。

 全てはパリキィ氏の手の上で踊っていただけの私達。

 それだけの差がパリキィ氏と私達の間にはあるというのだろうか。


「それは私がこの話を初めることすら予想できるのですかな?」


「できる可能性もゼロではありません、人間10人分の行動ぐらいなら悪魔の力を使えるかもしれません。それにしては意見が割れていますな。どうせなら全員賛成になるようにするんじゃないのかな?」

 

「それこそ疑問なんですよ。反対の私が言うのもなんですが、普通3人も反対しますかな? 宇宙人が協力してくれと言っているんだ、しかも政府のお偉いさんから、契約のために宇宙人を探したいから協力してくれと言われてここに来ている私達が。普通に考えたら全員即答で賛成でしょう。しかしここには信念を曲げない皆が集まっている。これは偶然ですかな?」


「私が言えるのは、可能性はゼロでは無いということだけですよ。仮に彼が悪魔なのだとしたら、我々がなにをどうしようと無駄でしょう。勝ち目なんてありませんよ」


「なるほどね、要は彼が悪者でだったなら我々に勝ち目はどっちみち無いわけだから、なるようになるしかないってことかい?」


「まぁ、そういうことだ。彼が善人であることを祈るよ」


 なんてことだ、私の行動も、彼女の行動も、すべてお見通しだということなのか。

 それでは私の大学が来年なくなることも、純ちゃんが私と友人であることも、全てお見通し。

 それなら、私はどう答えるべきだろう。



 すべてがお見通しというのなら、私は、私も、信念の元、答えるべきだ。



「私は、賛成です」


 大きく深呼吸。


「正直、この問題は、私には大きすぎます。手に余ります。最初私は、安易に賛成と答えようとしていました。私の大学は、経営難で来年なくなるかもしれないそうです。この契約がうまくいったら、それも白紙になるかもしれない。そんな考えもありました。でも、皆さんの考えを聞いて。私もちゃんとした答えを出さなければと思いました、でも、まとまりませんね」


「私はここに来て、遺跡を見て、心が踊りました。縄文時代の人の生活を垣間見て、彼らの作品を見て、やはり私は考古学が好きです。考古学にはいろんな楽しみ方があります。例えば推理小説のような楽しみ方。様々な、時には不十分な証拠たちから、昔の人達の生活を予想する。予想を補うような証拠が出てくるときの感動は格別です。あるいは、知ること、知ることができること。昔の人達がどんな暮らしをしていたのか、どんなものを食べていたのか。考古学なら知ることができる。我々が想像もしなかったような発見もある」


「宇宙人さんは、350万年前にここに来たと言いました。それはつまり、宇宙人さんが350万年分の歴史を知っているかもしれないってことですよね。私は宇宙人さんに、歴史を聞いてみたいと思っています。それは他の考古学者からしたら、ずるもいいとこです。だってその時代にい生きていた人、それも超知性に語ってもらえるのですから」


「でもそれでいいと思うんです。歴史は変わりませんからね。私は知りたい。もっと知ってみたいんです。そのために私は賛成します」


 なぜか皆が拍手をしてくれた。こっ恥ずかしい。


「さて答えが出揃いましたな、4対3で賛成多数だ。それはそうと、これは多数決で良いのかな? 最初に決めてなかったんだけど、まさか満場一致になるまで話し合えってことはないよな?」


「それは不可能でしょう、ここで答えを曲げるような皆さんではありますまい」


 みんなで純ちゃんの方を見る。

 答えは出ましたよ。


「というわけです。パリキィさん。我々の結論は賛成です」


『ありがとうございます。向山むかいやまさん。詳しい内容について話しましょう』



 そこからは純ちゃんとパリキィ氏の交渉が始まった。最初はこの遺跡について。パリキィ氏には当面の間ここに居てもらうことになる。


 最終的には種子島に持っていって打ち上げなければならないのだが、保管場所がない。そもそも、彼をどうやってここから持ち出すかを考えなければならない。というかどうやって彼はここに入ったのだろうか。

 

 とりあえず、ここから高速の光回線を政府に直結して、政府と直接交渉ができるようにする。この島は政府が買い取ることになった。本格的な交渉は環境が整ってからにしたいとの政府からの要望だったが、パリキィは出来るだけ早くしてほしいとのことだったので、明日から簡易的な通信設備を設置して交渉が行わえることになった。



 我々はというと、宇宙人が見つかったことで、お役御免となったわけである。純ちゃんが交渉している間、一度船に戻り、食事をとった。


 そのあと、またパリキィ氏の部屋に戻り、幻想的な空間を楽しむことにした。楽しむと言っても、光り輝く苔に見とれているわけではなく。苔の発光プロセスに関する考察や、パリキィ氏の素材に関して、活発な議論が行われていた。再び海に潜り船へ戻った頃には、夕日が瀬戸大橋の向こうに沈もうとしていた。



 ホテルでみんなと打ち上げを兼ねて、食事を取ることになった。爾比蔵にいくらさんも渋々来てくれるそうだ。彼女はまだ皆に対して、疑心暗鬼になっている。

 彼女からしたら、皆は人の命をないがしろにする血も涙もない人間に見えているのだろうか。



 私達は、政府の最重要機密を知っているので、お酒はほどほどにということだった。ほどほどならいいのかよと海良かいら氏は言っていたものの。


 純ちゃんの「『政府は宇宙人と交渉しようとしている』なんて言ったらあなたの信用はガタ落ちですよ」という言葉に納得したようだった。確かにそうだ。

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