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「いやあ汰稀。ナイスタイミングだった。あそこで来てなかったら、俺今ここでラーメン食べれなかったな」

 坦々麺に七味を振りながら、彰男は汰稀と先程の出来事の話をした。先程ゾンビから逃れた後、丁度駅に避難用列車が到着したため、ゾンビの被害が少ないという七林ななばやしの地区に来たのだ。

 今はそこにあるラーメン屋。窓から見える日本海が綺麗だが、それなんか気にせずに汰稀は野菜つけ麺を食べている。

「でっしょー。かっこ悪いスタートを切った主人公の邪魔をしてかっこよく登場。いやぁ、自分がモチーフのキャラはやっぱりかっこよくなきゃね。我ながらよく書けたシナリオだね」

「おい、メタ入ってる。窓先生の部分出てきてる」

 ドヤ顔で語る汰稀(?)に、彰男は呆れながらツッコミを入れた。

「にしても、武器無しでゾンビに追っかけられて、よく生きてたね」

「あ、聞いてない」

「親とかは? 生き残った?」

「親は……」

 楽しそうに話す汰稀とは反対に、彰男は先程の親の姿を思い出す。……確実に、両親は死んでしまったのだ。

 彰男の表情を見て、汰稀が悟ったように言う。

「あ、ご、ごめん……」

「いや、いい。……これ、夢じゃないんだよな。ゾンビが現れたり、……親が死んだり」

「……だね」

 ふと、彰男はテレビを見る。電波が届くくらいには、まだ被害は大きく無いようだ。

『突然、ゾンビのような集団が発生した七星町ななほしちょうですが、沢山の被害が出ています。死者も多く、県は七星町を全面的に隔離する取り決めをしました』

 テレビでは現在のこの状況を報道していた。

「この、町の隔離ってガチ?」

「ガチっぽいよ。父さんと母さんが野高市のだかしに買い物行ってたんだけど……、帰って来られないって」

「汰稀の親が? カオスやん」

 彰男は口癖のように言い、汰稀は「また言った」と声に出さずに顔で語る。

「……高校が野高だから、学校行かなくて済む」

「ハハ。汰稀らしいな」

 再びラーメンを食べ始め、二人の会話は止まった。

 周囲からも、ゾンビの話が聞こえてくる。

「山の方も柵が用意されてあったってな。まるで前がら予想されであっだみでえに」

「中心は沖浜おきはまだべ? 七林さいでいがったなー」

「んだども、こやったこどってあるもんだったな」

「七林は安全って訳でねえど。同じ七星町だったがらな」

こえな」

 前から予想されていたみたいに……。

「確かに、避難列車に乗って七林こっち来たからって、安全とは……な」

 彰男が呟くと、汰稀は麺をスープにじっくり浸しながら言う。

「そもそも、電車も不思議。まるで……」

 そこまで言うと汰稀はそれまで気にもしていなかった海を眺めた。

「町はこの事態を知ってたみたい、だね」

「対応の早さ、不自然だよな」

 彰男も続けて同意するが、汰稀はそんな彰男を見て、ニヤけた口で睨んだ。

「……思ってなかったでしょ」

「は?」

 汰稀の発言に、思わずキョトンとする。

「いいんだよ、考えもしなかったらそれで。でもまあやっぱ、天才汰稀さんの考えは真似したくなっちゃうよねー」

 その馬鹿げた言葉に、彰男は暗黒に染まりし怒りの笑顔を贈る。

「お前、殺すよ?」

 彰男がそう言うと、大きな音を立てて入口の扉が開いた。

「ヒャッ」「わっ」「なんだ!?」と、周りの客は声を上げる。彰男も一瞬、ゾンビがここまで押し寄せて来たのだと思った。

 しかしそこにいたのは、どう見てもゾンビでは無く、彰男と同年代くらいの女の子二人であった。

 一人は刀を携え、品のある顔立ちながらも何故かアニメのような和服を着ている。

 もう一人はギャルのような服装だが、先程の一人の後ろに隠れ、チラチラとこちらを伺う。その様子は可愛らしいが、背中にある猟銃が台無しにしている。

 二人はゆっくりと店内に入り、空いている席に座る。皆が注目するなか、和服の方がその口を開いて言った。

「ハァ。……豚骨味噌ラーメンを二杯」

 顔立ちとは裏腹に、品など一切なかった。

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