「ファイトオーバー!」こぼれ話:サブタイトル編
拙作「ファイトオーバー!」の各話のサブタイトルはすべてバスケ用語です。
以前は近況ノートで書いてたんですが、近況ノートだと新しい記事を書くにつれて過去の記事として追いやられて行ってしまうので、再掲を兼ねてこちらに。
■#1「オーバータイム」
延長戦の意です。
作中的には、亮介が青春時代にやり残した気持ちを再び燃焼させる機会が訪れた事に引っかけています。
バスケには延長戦に限度がありません。野球なら18イニングで決着しなければ引き分け、サッカーなら延長戦で決着しなければPK戦になりますが、バスケでは決着がつくまで延々と再延長戦になります。
やりきりましょう。決着まで。
■#2「バック・トゥ・バック」
バスケと言うよりNBA用語。2日間連日の試合の事だったり、2連覇の事だったり、まあ「2連続」的な意味です。
作中的には茉莉花と瞳の背中合わせのような関係を指しています。友達ならちゃんと向き合おうぜ、的な。
■#3「ダイヤモンド・アンド・ワン」
ゾーンディフェンスの形のひとつです。
4人が菱形(ダイヤモンド状)に隊形を組んでゴール手前を守り、残る1人が相手チームのエースをマンツーマンで守るという、特殊なディフェンスシステムです。
作中的には「活き活きとした姿がダイヤモンドのように眩しい4人と、蚊帳の外からそれを見ていた慈」の意です。
作者的にお気に入りのサブタイトル。
■#4「ビッグ・ファンダメンタル」
史上最高の
ダンカンは派手なプレイやトリッキーな技をほとんど使わず、地味ながら確実性の高いプレイを極限まで極めた選手でした。史上もっとも退屈なMVPなどとも揶揄されたものです。
彼を見てもわかるように、「基本が大事」。
■#5「ギブ&ゴー」
パス&ランとも言います。
「なぜ「パスを回せ」なのか」の項で説明したようにパスによってディフェンス側のポジショニングを変えさせると共に、パス先へ視線を誘導しつつも自分が移動する事によって、ディフェンスの隙を作りそこを突く基本的な一連のプレイを言います。
作中的には、ギブ&テイク的な意味合いでのギブのイメージで、協力しながら進んでいく的なニュアンスを漂わせたかったような気がします。
■#6「ポイントガード」
説明不要。司令塔ポジションの
現実のバスケだと瞳ちゃんみたいにはなかなかいきませんが、メインキャラの中に身体能力が低い子も混ざっていた方が面白い話が書けるとは構想段階から思っていました。
なんか最近のNBAとか見てると純粋な司令塔タイプの
■#7「アンサー」
アレン・アイバーソンのシグネチャシューズ、リーボック・アンサーが元ネタです。
作中的には
■#8「オフィシャルゲーム」
公式戦の意です。
このへんから徐々にバスケ用語縛りが苦しくなってきている事が窺えます。
■#9「ティップオフ」
試合開始の意です。サッカーで言うキックオフです。
明芳中女子バスケ部にとっては初めての試合。ここから始まる長い戦いの第一歩、的な。
■#10「ロールプレイヤー」
オールラウンダーとかエースとかの対義語です。特定の役割を期待された選手、それ以外の余計な事をしない方が貢献できたりする選手という意味合いにもなります。
たとえ限定的な役割だとしても、チームの中で役割を与えられるだけの信頼を勝ち取るのは簡単な事ではありません。そして誰もがそれを求めてる。
■#11「セカンドガード」
ポジション名のひとつ、
バスケを題材にした日本のフィクションにおいては、
鈴奈はあえてその逆張りで考案したキャラでした。だからこそ、この呼び名です。
実際のところ鈴奈みたいな選手が実際にいたら非常にチームへの貢献度は高いと思います。ペリメーターディフェンスが上手くて、速攻戦で誰よりも走れて、ドライブでディフェンスを崩せて、アンセルフィッシュにパスを捌けて、ルーズボールを懸命に追いかけて、ムードメーカー役にもなる。
マジで欲しい。
■#12「アウト・オブ・バウンズ」
コートの外にボールが出る事をこう言います。最後にボールに触った選手とは逆側のチームのスローインから試合を再開するアレです。
作中的にはコートの外での師弟の触れ合いを描いてみた事に引っかけています。
それにしても鈴奈の愛が重い。
■#13「アイソレーション」
マンツーマンディフェンスに対するオフェンス戦術のひとつです。
ボールを保持したエースを敢えて孤立させ、他の4人がエースから遠ざかっておく事でヘルプディフェンスが入りにくい状況を作り、エースの個人技で得点を狙うというものです。
作中的には、現状に不満と歯痒さを感じて孤立していく慈を指しています。今思えば溜めの期間が本当に長かった。
■#14「プレシーズン」
プロバスケ用語です。野球で言うオープン戦にあたる、レギュラーシーズン開始前の試運転的な試合の期間をこう呼びます。
作中的には新人戦の時期が訪れる前の、チーム成熟度を上げる時期。リアルな部活スポーツでも、この時期に頭角を表せるかどうかが、部活で良い思い出を作れるかどうかに大きく影響してくる部分があります。
■#15「ファーストステージ」
B3リーグ用語です。レギュラーシーズン開始前に行われる、実業団チームを除いてプロチームだけで行われる(ただし場合によっては数合わせで大塚商会アルファーズが参戦)短い興行期間を言います。
作中的には単純に「1回戦」であり、「初めての公式戦」的な意味での言葉選びです。
■#16「ビッグマン」
広義には長身の選手の事、より狭義にはゴール下の攻守において力を発揮する
転じて作中では、明芳中の前に初めて立ちはだかる本格的インサイドプレイヤーである大黒真那の事、そしてその驚異的なインサイドでの戦力を指す言葉としてこのサブタイトルです。
■#17「ドアマットチーム」
弱小球団の意です。ドアの前に敷かれたマットよろしく、誰からも踏みつけられる存在という語源だそうです。
本来はそんなネガティブな言葉ですが、作中では「相手に踏みつけられるような圧倒的劣勢でも、最後まで全力で戦う」的なイメージだった気がします。
ゲンよ、麦じゃ。踏まれて強くまっすぐ育つ麦になれ。
■#18「ワークアウト」
最近は一般語としてもたまに聞くようになった気がします。トレーニングの事を指します。また語源としては、「解決策」という意味合いもあります。
反省点の多い敗戦の直後ともなれば、休んでなんかいられない。鍛え直す事、次は負けないためのアプローチを考えなくてはならない。
そうやって夢中になれる事はとても尊いと思うのですよ。
■#19「エキシビジョン」
もうほぼほぼ一般語ですね。このへんでだいぶサブタイトルに苦戦していました。特別実演の意味です。
中学・高校、人によっては大学までバスケを続けてきた人たちのチームともなれば、社会人サークルと言えどそのへんの学生チームに劣るものではありません。わりと作者がリアルバスケで経験してきた事です。
■#20「センター」
説明不要、ポジションの
ポジション論でも語りましたが、
そして愛ちゃんはワンマンセンターではなく、ハイポストで攻撃の起点となり、チームプレイの中心となる道を選んだというお話なのでした。
■#21「ヘッドコーチ」
プロバスケ用語。野球で言う監督の意です。
プロバスケの世界では監督とは言わず、コーチたちの中でのトップという位置づけになり、ヘッドコーチと言います。
作中的には、愛ちゃんたちから見た亮介と、亮介から見た岐土の対比。いずれも大恩ある師の前で、格好悪い戦いはできないという意気込みを表してもいます。
■#22「アップ・アンド・アンダー」
シュートフェイクでディフェンスの注意を上に逸らし、その隙に低い体勢でディフェンスをかわしてレイアップに持ち込む一連のムーブを指す技名です。
転じて、第一の脅威と第二の脅威。華麗に空中を舞うような技で得点を重ねる近衛さんと、平面のディフェンスで泥臭く貢献する結城さんに準えてつけたサブタイトルです。
■#23「ファウルトラブル」
特定の選手が短時間のうちにファウルを重ねてしまう事、およびその影響として、退場を恐れて思いきったプレイヤーができなくなったり、作戦が崩壊したりする事をこう言います。
めぐ、まずは落ち着こう。
■#24「ティアドロップ」
作中でも説明した通り、フローターシュートを別名でこう呼びます。
美裕の得意技の名前であるとともに、美裕のように活躍できない慈が流した涙とのダブルミーニング。
一人だけベンチは本当に辛いですいやマジで。
作者が慈にやたら感情移入してしまうのは、作者がリアルバスケで体験してきた辛さや悔しさを表現する役割を一手に担っているから、という部分が間違いなくあります。
■#25「ラン&ガン」
おおまかな意味としては、速攻主体の機動力重視なオフェンス戦術の事です。
ただ人によってかなり解釈がばらける、いわゆるバズワードでもあります。
そもそもバスケにおける速攻というものは、攻守の切り替わり時に、相手がまだディフェンスに戻りきれていないうちに攻める事を言います。必然的に、ディフェンスリバウンドをしっかり取れるか、スティールを狙ってディフェンスするかしないと、速攻のチャンスがまず生まれません。
そのへんを加味して作中では、速攻に限定せず、機動力を活かしたスピーディかつシームレスな攻撃全般を重視する戦術として描写しています。
なんだか語ってしまいましたが、要はガンガン攻めて点を取りに行くのって楽しいよねって事で。
■#26「ゲームクローザー」
試合終盤、僅差で競っている状況で勝ちを掴める選手の事をこう呼ぶ事があります。
クラッチプレイヤーという言葉の方がバスケでは一般的な気がしますが、クラッチプレイヤーは「勝敗がかかった場面で決定的なシュートを決める選手」的なニュアンスが強いので、より俯瞰的な状況判断からの勝利への道筋作り勝負的な意味合いでこのサブタイトルにしました。
瞳ちゃんと近衛さんのクロージング対決回。一瞬でも油断した側の負け、という対決でもありました。
■#27「ベンチウォーマー」
直訳で「ベンチを暖める人」です。
だから一人だけベンチはマジで辛いっつってんだろゥォア゛ーッ!!
そんな苦悩を描いた回です。
書いててわりと楽しかった覚えがあります。
■#28「ダブル・ファウル」
両チームの選手が同時にファウルする事を言います。非常に珍しいファウルで、作者もこれまでのバスケ人生で1回しかお目にかかった事がありません。
作中的には慈も美裕、どっちの言い分も一理はあるけど、どっちもどっちな感じでケンカになっちゃってるよね的な。
難しいんですよね。折り合いをつけるのって。
なおサブタイトル自体は作者的にお気に入りです。
■#29「プレイヤーオプション」
NBAにおける選手契約用語です。
選手契約は通常「●年契約で、年俸は▲ドルで」というようなものですが、付帯条件としてプレイヤーオプション、またはチームオプションというものがつく事があります。
これはシーズン終了のタイミングで、選手または球団どちらか一方の意思表示のみで契約を解除できるという付帯条件です。
プレイヤーオプションであれば「チームが優勝を狙えなさそうだから俺は出ていく」、チームオプションであれば「この選手って思ったほど使えないからもういらない」、というような事ができます。こういった金銭以外の部分での有利不利によって契約内容を調整するものです。
転じて、自分の意思で部活の進退を決めた慈を指すサブタイトルです。
慈は継続する道を選びましたが、彼女と同じ状況にあっては辞める事を選択する子もいる事でしょう。断ち切る事にも勇気は必要であり、そうする方が自分のためだと考えたのなら責められる謂れはありません。
辞める子は下克上の可能性を捨て、継続する子は新たな道を捨てるとも言えます。
選択した以上、責任は自分自身に。
捨てたものへの後悔も自分だけのものなのだ。
■#30「シックスマン」
作中ではややオーバーな表現で説明していますが、一般的にはスタメンの選手に劣らない重要性を持った控え選手の事を指します。
特にプロの世界では、個人技による爆発的な得点力を持つ選手を敢えてシックスマンに位置づける事があります。スタメンの選手たちが軒並みベンチに下がって休んでいる試合中盤あたり、コート上の戦力が落ちている状況において個人の力で得点を稼ぐ役割です。エマニュエル・ジノビリやジャマール・クロフォードなんかが有名どころです。
スタメンでなくとも活躍できるステージはあります。
がんばれ、めぐ。
■#31「フロム・ダウンタウン」
NBA用語で、3Pシュートの事を俗にこう呼ぶ事があります。
3Pシュートのルールが導入された1年目にNBAで最高の3Pシュート成功率を記録したフレッド・ブラウンのニックネーム「ダウンタウン・フレディ」が語源だと言われています。
作中的には慈の3Pシュート特訓がようやく実を結んだ事と、惨めだった状況から這い上がる的なニュアンスを出したかったような気がします。
ただダウンタウンって本来は都心部とかの意味なんですよね。和製英語ライクに下町って誤訳される事がしばしばありますけど。
まあここでは和製英語の方のニュアンスで読んでもらえたらなあとか、そんな難易度の無駄に高い事を作者は思ったり。
■#32「ジュニアオールスター」
中学の部活バスケで春に行われる都道府県対抗大会の事を指します。冬の大会(地方によっては秋の新人戦)によって各校から選抜されたメンバーでの戦いとなります。
作中ではジュニアオールスターにかこつけて第一部のライバルたちを振り返る回。
マナちゃん、タマちゃん、近衛さん、結城さん、いずれ劣らぬライバルたちと言えましょう。
なお残念ながら瀬能中の松田さんは選抜されていません。
■#33「ダンク」
説明不要。ダンクシュートです。
バスケにおいてはヒーローの象徴とも言えます。
余談ですが作者は最近ようやくミニバスゴールを指でガッチリ掴めるぐらいまでジャンプできるようになりました。ダンクまであと少し。
■「ファイトオーバー」
スクリーンプレイに対するディフェンス技術のひとつです。スクリーンを迂回したり、他の味方と守備対象を交換したりなどせず、マークすべき対象にベタ着きの状態でスクリーンをかわしてディフェンスを継続する事を言います。
スクリーンへの対処方法の中では最も難易度が高く、その代わりディフェンスを最も崩されないやり方です。
これを「逆境に立ち向かい、目標を追いかけ続ける事」に準えて本作のタイトルにしました。
これは、遥か遠い目標を追いかけ続ける物語。
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