NBA選手に学ぶ

イートワン・ムーアに学ぶ

 イートワン・ムーアという名前を聞いてパッと顔が思い浮かぶ人は、恐らく日本全国でも10人ぐらいしかいないんじゃないでしょうか。

 苗字の発音がまた微妙で、ムーアとモーアの中間みたいな発音をします。カタカナ表記もイートワン・ムーアだったりイートワン・モーアだったりイートワン・モアだったりします。

 イート・ワンモア?

 おかわり?

 なんかそんなイメージになってしまいそうな変な名前です。


 イートワン・ムーアは現役のNBA選手です(2018年12月現在)。

 2011年にドラフト55位という、その年の下から6番目の順位で指名されました。この順位からも、スター選手になれるとは最初から思われていなかった事がわかってしまいます。

 実際、ムーアはスター性のある選手ではありません。身長は193cmとNBA選手の平均より一回り小柄で、ポジションとしてはSGシューティングガードを主に務めますが、小柄なわりには特段スピードに優れているわけではなく、ディフェンスを翻弄するようなドリブルテクニックの持ち主でもありません。強いて言えばGガードにしては高めの確率で多彩なシュートを決められる事が強みですが、3Pシュートの精度は純粋なシュータータイプには及ばないという、何とも使いどころのハッキリしない選手でした。

 成績を見ても、2016年までのムーアは平凡な選手でした。一試合平均でおよそ7得点2アシスト2リバウンド。一試合にチーム合計で100点以上を取るNBAの世界においては、この数字は「悪くはないけど特段良くもない、平凡な控えSGシューティングガード」としか言いようのないものです。


 しかし2016~17シーズン、ニューオーリンズ・ペリカンズに移籍した途端に、ムーアは平均得点を10得点近くにまで伸ばしました。

 翌2017~18シーズンでは平均12.5得点を記録するようになりスタメンに定着、チームの主力選手の一人に成り上がりました。

 この記事を書いている2018年12月現在、2018~19シーズンのムーアは、平均15得点以上を記録しており、順調に活躍度を上げていっています。

 ムーアに何があったのでしょうか。

 突然、何か新たな能力に覚醒してしまったのでしょうか。

 ――勿論、そんなわけはありません。

 では何があったのか。それを知るには、まずニューオーリンズ・ペリカンズというチームの特性を知る必要があります。


 ニューオーリンズ・ペリカンズは、アンソニー・デイビスという絶対的エースを中心としたチームです。

 デイビスは現在のNBA選手の中でもっとも完成されたPFパワーフォワードです。スラムダンクの河田兄ではありませんが、学生時代に急激に身長が伸びたことでバスケットの全ポジションを経験してきており、Gガードの敏捷性とボールハンドリング技術、Fフォワードの得点力、Cセンターのフィジカルと献身性を併せ持つ213cmのスーパーオールラウンドビッグマンです。

 ボールを持っていない際の立ち回りがやや雑だと批判される事もありますが、ひとたびボールを手にすれば、ドリブルドライブ、ポストプレイ、3Pシュート、豪快なダンクと、ありとあらゆる手段でゴールを奪ってくる選手であり、これほど脅威となる選手は他にいません。

 つまり、デイビスはボールを持つ、もしくはボールを貰いに行く動きをするだけでディフェンスの注意を強烈に引き付けるのです。

 これがムーアの特徴と最高に相性が良かったのが、ムーアの躍進に大きく関わっています。


 "E'twaun Moore highlights"などといったワードで検索して出てきた動画を見てみてください。

 それらの動画に出てくるムーアの得点シーンの半数近くには、ある共通した特徴があります。


 


 強調するあまりジョジョの奇妙な冒険風になってしまいました。しかしこの特徴に気づいてムーアの立ち回りを見たとき、筆者がズギュゥゥゥゥンって感じの衝撃を受けたのは事実です。

 ムーアは味方がディフェンスの注意を引き付けている時、ディフェンス全員の視界から外れるように移動し、得点チャンスにありつきます。

 ある時はドリブルドライブを仕掛けた味方と逆サイドのコーナーでパスを待って3Pシュートを撃ち、またある時はゴール下でシュートを撃とうとした味方にディフェンスが密集した瞬間に、ディフェンスの背後から合間を縫うようにゴール下へ飛び込み、パスを貰ってフローターシュートを決めます。

 そう、パスを貰ってすぐシュートです。

 こういう時、ムーアはほとんどドリブルしません。してもせいぜい、ゴールへの距離を詰めるか、咄嗟に反応してきたディフェンスをかわすためのワンドリブルぐらい。

 何せディフェンスに気づかれていない移動からシュートへ持ち込もうとするわけですから、ディフェンスを抜くスピードもドリブルも必要ありません。

 この点が何より素晴らしい。


 筆者がムーアの特徴に感銘を受けたのは、筆者自身が、バスケットボールプレイヤーとしては大柄でもなくスピードもなくドリブルも不得意なタイプだからです。

 相手の視界から外れて攻撃を仕掛けるという発想は、数年前までプレイしていた対人対戦型TPSゲームを思い出しました。

 筆者はあの頃、いくつもの戦場でキル数ランキング上位に入っていたプレイヤーでした。

 ならば、やってできないわけがない。

 ゲームと違って、現実の自分の肉体スペックの低さというハンデを背負ってはいるけれど。


 この記事を書いている日、筆者はチームの正PFパワーフォワードに対して、視界から消えるムーブで1ゴールを奪う事に成功しました。

 ムーアの真似というだけでなく、安くない金を払ってコーチしてもらっている某氏から教わった動き方とも符合し、自分の中でようやくまとまり始めたからでもありますが。


 イートワン・ムーア。

 筆者のようなプレイヤーだからこそ、参考にできる選手です。

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