3.フェスティバル 4

 ハヤトの号令とともに、真琴とコウキは駆け出した。

 真琴は真っ直ぐ中央にある一番高い障害物へ。コウキは、障害物の多い校舎側へと回り込む。そして、その二人にやや遅れて、サイトーとクロが真っ直ぐ進む。


 真琴は、駆けた勢いのまま、中央の障害物の側面のわずかな凸凹を足がかりに、その上へと駆け上がった。

 そこへ登ると、戦場フィールド全体が見渡せる。

 敵チームは、まだスタート地点からわずかに進んだところにいた。

 その呑気さに、真琴の顔に自然に笑みが浮かぶ。


長距離水鉄砲スナイパー二丁拳銃トゥーハンドが中央。リュック型水鉄砲タートル左に、バケツダッシャー右!三人で中央、その後散開!」

「「了解!」」

 真琴は敵の位置を叫ぶと、姿勢を低くして、障害物から飛び降りた。そして、ピンクチームの区域エリアへと侵攻を開始する。


 ピンクに塗られた障害物の陰に隠れていると、すぐにサイトーとクロが追いついてきた。二人も、近くの障害物へと身を隠す。


 真琴は二人と目線で会話すると、障害物から飛び出した。

 その進行方向には、二人の男が。

「喰らえ!」

 と言いながら、両手に持った水鉄砲を発射する。


 敵の出現に驚いた男たちの意識が真琴に集中する。慌てて武器を構えるが、ちょこまかと動く真琴になかなか狙いがつけられないでいた。


「くそっ!」

「当たれ!」

 真琴に向かって水が発射された瞬間、

「ピンク、長距離水鉄砲スナイパーDeathデス!」

「あ?」

 ピンクチームの長距離水鉄砲スナイパーのライフが撃ち抜かれていた。

 横合いから、クロが長距離水鉄砲スナイパーで狙いを済まして、一撃で仕留めたのだった。


「死んだ人は速やかにスタート地点へ戻って、ライフを回復してください」

 と、ハヤトから指示が飛ぶ。


 それを見たピンクチームの友人が、

「だっせー……ぶわっ!」

 隙を見せた瞬間、バケツダッシャーの強烈な一撃を真正面からかぶって、死亡する。


「ピンク、二丁拳銃トゥーハンドDeathデス!」

「お前ら、何やってんだよ!」

「真面目にやれ!」

 水を滴らせながら、スタート地点へと帰る二人に、仲間から厳しい声が飛んだ。


リュック型水鉄砲タートルは任せた」

 サイトーがクロにそういうと、クロも心得たもので、素早く次の標的ターゲットへ向かって移動を開始した。


「私たちはバケツダッシャーだね」

「の前に、水の補給だ」

「ラジャ」

 ピンクのバケツダッシャーは、こちらのバケツが空だということに気がついて、強気で接近してきた。


 それを真琴が先行して、サイトーの水を補給する時間を稼ぐ。

「そんなチャチな水鉄砲で、勝てるかよ!」

「それはどうかな?」


 ピンクのバケツダッシャーが、真琴目掛けてバケツの水を撒き散らした。横向きにバケツを振ったので、帯状に水が広がる。

 真琴は、それを避けるどころか、頭から突っ込んで行った。

「なっ!?」

 そして、そのまま、フライングレシーブの要領で水の下をくぐり抜けた。

 真琴は、地面でくるりと一回転すると、バケツダッシャーに背中を向けて駆け出した。


「逃すか!」

 その行動を逃げと判断したピンクのバケツダッシャーが、真琴を追いかけようと身をひねりかけた時、

「油断大敵だぜ、先輩」

 水補給を終えて追いついてきたサイトーが、そのバケツの中身をピンクチームに向かってぶちまけた。


「ピンクバケツダッシャーDeathデス!」


 いつの間にか戻ってきた真琴が、ナイス!とサイトーと拳を合わせた。

 一気に三人のライフを奪ったことになる。これは、かなり調子がいいと言えた。


 さて、右へ一人で戦いに行ったクロのフォローへ行くかと思った時、

「うわははは!俺!登・場〜!」

 コウキの元気な声が、中庭に響いた。

 障害物の多いところを隠れるように進んでいたコウキが、敵のスタート地点の真正面まで無事についたらしい。


 コウキはピンクチームのスタート地点近くの障害物の上に仁王立ちになり、雄叫びをあげていた。

 そんな目立つことをすれば、当然いい標的ターゲットになる。

 だが、それも作戦のうちだった。

 二人は、進路を変えて、予定地点でコウキを待つことにした。

 聞こえているかどうかわからないが、サイトーが「3番地点!」と現在地をコウキに教える。

 それに、わはは〜と笑い声が返って来た。通じた、と言うことにしておこう。


 ピンクチームの長距離水鉄砲スナイパー二丁拳銃トゥーハンドが、ライフの回復を終えて、コウキの元へと向かった。

 二人がコウキを狙うが、ちょこまかと動くコウキには当たりそうもなかった。


「待て、このやろ!」

「わ〜はっはっは!」

 コウキが笑いながら、戦場フィールドを駆け回る。何も考えていないように見えているが、コウキはうまく真琴とサイトーの方に二人を誘導していた。


「ピンク、リュック型水鉄砲タートルDeathデス!グリーン、長距離水鉄砲スナイパーDeathデス!」

 その時、一人で動いていたクロの戦死が告げられた。


「相討ちか」

「まぁ、こっちがリードしているから、構わないだろ」

「ホントは、こっちに加勢して欲しかったんだけど……」

「片っぽはお前と同じ、二丁拳銃トゥーハンドだ。弱気になるな」

 サイトーがそう言ったところで、コウキが笑いながら、真琴達が隠れている障害物を飛び越えて行った。


 それを合図に、真琴とサイトーが左右に分かれて障害物の間から飛び出した。

「覚悟!――って、いねぇ!」

「わぁ!こっち二人じゃん!」

 運悪く、二人とも真琴の方から障害物を回り込もうとしていた。


「くっ!」

 慌てて、真琴が両手の水鉄砲から水を発射する。それは、突っ込んでくるピンクの二丁拳銃トゥーハンドライフを奪ったが、コウキを追っていた彼は、急に止まれなかった。


「危ない!」

「止まってくださいよ!」

 ピンクの二丁拳銃トゥーハンドと真琴の悲鳴が重なる。


 ピンクの二丁拳銃トゥーハンドは、流石に体育会系だけあって、正面衝突は避けたものの、真琴を巻き込んでごろっと転倒してしまう。


「痛ったぁ……」

「……悪い。怪我はないか?」

「大丈夫そうです。先輩は……」

「でかした!そのまま押さえておけ!」

 お互いに安否確認をしていると、後ろからきた長距離水鉄砲スナイパーが、真琴のライフを奪った。

「あぁ!?やられた!」


「ピンク、二丁拳銃トゥーハンドDeathデス!グリーン、二丁拳銃トゥーハンドDeathデス!」

 真琴の悲鳴にかぶさるように、ハヤトの死亡宣告が響く。


「……お前、流石に、それはどうよ」

「なっ!勝負中に隙を見せる方が悪い!」

 流石に卑怯だと思ったのか、ピンクの二丁拳銃トゥーハンドが、真琴のライフを奪った者に非難の目を向けたが……、

「俺もそう思いま〜す」

 後ろから回り込んだサイトーが、真琴を殺した者の頭の上からバケツの水をかけて、ライフを奪った。

「ぶわっ!冷てぇ!」


「ピンク、長距離水鉄砲スナイパーDeathデス!」


「てめぇ!卑怯者!」

 ピンクの長距離水鉄砲スナイパーの非難の声を無視して、サイトーが倒れた真琴に手を貸した。


「立てるか」

「ごめん。2デス目だ」

「大丈夫だろ。6キルしている。お前が死ぬのは想定内だ」

「……だな」

 サイトーは、何も真琴を侮ってそう言ったのではなかった。


 実は、真琴が持っている二丁拳銃トゥーハンドは、射程距離も短く、水の容量も少ない、弱武器なのだ。

 さっきのようにかなり接近しないと、相手のライフが奪えない。

 だが、接近して撃ち合いになれば、どうしても競り負けてしまう。

 そんな二丁拳銃トゥーハンドは、目立って囮になることが仕事だと言えた。

 そのため、ある程度死ぬことが想定されている。


「さっさと、ライフと、水、チャージしてこい」

「了解。それまで死ぬなよ」

「あいあい」

 そのなんとも気の抜けた返事を背に、真琴はスタート地点へ向かって駆け出した。


 戦いは、始まったばかりだ。足を止めていたら負ける。

 真琴は、バレーの試合とはまた違った緊張感に、胸を高鳴らせていた。

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