第三部 1年生2学期

プロローグ

「お前ら、弱い、弱いで〜」

 空き地で学ランを着た男が一人、周りを見回しながら呆れた声を出した。

「こんでしまいか!?お前らからかかって来たんやろ!もうちょっと気合い見せぇ!」

 そう悪態を吐きながら、手近にあった頭を踏んだ。

 だが、その頭の主はもうほとんど意識がないらしく、うぅ……と呻いたきり、動かなくなった。

 それでも、往生際悪く、何度も踏みつける。だが、やはり反応が返ってこないのを見て、つまらなさそうに足を止めた。

 男の周りには、ブレザーを着た男たちが転がっていた。

 どいつもこいつも、無事ではなかった。血を流していたり、手や足がありえない方向に曲がっていたりした。

 学ラン男も、無事ではなかった。頭から血を流していたし、身体中擦り傷だらけで、学ランの片袖は肩口から破れていた。

 だが、そんな状態でも、一人、立っているのだ。それは驚きを通り越して、畏怖すら覚える有様だった。

 ここに転がっているブレザーたちは五人。

 だが、最初の襲撃は、十人近くいた。

 それを、逃げながら一人倒し、二人倒し、数を減らして五人。

 橋の欄干から、川に突き落としてやった男は、無事やろか。それよりも、歩道橋の一番上から落とした男の方がやばいかもしれん。

 そんなことを考えながら、口に溜まった血をぶっと吐き出す。

 学ラン男は、五人とやりあったというのに、不完全燃焼だった。

 まだまだ暴れ足りなくて、拳がウズウズしている。

 そもそもコイツらは、根性が足りないのだ。一発二発いいのが入っただけで、すぐ戦意を喪失する。そんなヤツら、何人相手しても、楽しくない。

「あぁ〜〜。どっかに強いヤツ、おらんかな」

 そう言いながら、呑気に空き地を後にした。


 だが。

 いくら多勢に無勢だったからといって、これだけの大人数を病院送りにしたのは、流石にまずかった。

 学ラン男は、通っていた高校から退学クビを言い渡され、転校を余儀なくされた。

 涙ながらに学ラン男を見送る友達に、彼はカッコつけてこう呟いた。

「――東の風が、俺を呼んどるわ」

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