2.バカンス 5-1

「山だ〜!」

 テンション高く真琴が叫ぶと、それにつられたように和也も、

「川だ〜!」

 と叫んだ。

 二人の目の前には、大自然の山、その間を縫うように川が流れていた。


 事前に、川で泳げると聞いていた一同は、佐伯の別荘に着くや否や、水着に着替え、川へと繰り出していたのだった。


 麗はフリルがあしらわれた上品な水着を着ていた。

 女子にしては高い身長、そして、出るところがきっちり出ているそのスタイルは、水着を着ると視覚的な破壊力が倍増していた。


 真琴はセパレートタイプのビタミンカラーの元気な水着だった。

 水着を買う時、フリルのついた可愛らしい感じのやつとだいぶ迷ったが、真琴にはそれを着る勇気がなかった。で、結局これに落ち着いたのである。

 だが、真琴はあまり浮かれすぎなくてよかったと思った。

 真琴の水着姿を見て、勇吾は開口一番、「アザは消えたな」とホッとしたような声を出したからだ。それで、真琴はずっと勇吾に心配をかけていたのか、と申し訳なくなった。

「うん。もう、あのグロい色はほとんど消えたよ」

 そういう真琴の体は、ほとんどが綺麗な肌の色をしていた。よく見れば、アザが治りかけて、黄色く変色しているところがあったが、それもよく見なければ、気がつかないだろう。

 もう、体が痛むこともない。


「マコトちゃん、全然焼けてなくね?」

「だって、夏休み中、ずっとバイトだもん〜。焼ける暇ないって」

 そう言って、露わになったお腹と、いつも露出している自分の手の色を比べる。そのどちらも白く、夏を満喫しているとは言い難かった。


「てゆーか、ユーゴとカズヤのそれ、何?」

 と、優が二人の裸の上半身を指差して、もっともな質問を投げかけた。

 その指の先には、こんがり焼けた肌に白く切り抜かれたクロウニーカラスのマーク。

 真琴のバイト先に来た時は、まだ焼いている途中だったそれは、もう完成したのか、シールが剥がされ、綺麗な形が浮かび上がっていた。


「あ、これ?かっこいいっしょ」

 そう言って、和也が勇吾とポーズをとる。


 真琴には散々な評価だったそれは、

「かっこいい。お揃いなの?」

 優の琴線に触れたようだった。キラキラした瞳で、和也の日焼け跡を見る。

「そ。いーだろ」

「ホントだ。日焼けだ。え〜、すご〜い」

 そう言って、優が和也の胸をペタペタ触る。

「うひひ。スグルちゃん、くすぐったいって」

「いいじゃん。もっと見せてよ」

「どうせ触られるなら、可愛い女の子がいいんだけど」

「え?僕の顔じゃ不満なの?ゼイタク〜」


 じゃれあう二人を、佐伯は羨ましそうな目で見つめていた。

「まったく、そんな子供騙しな……!」

「羨ましいなら、あなたもしたらいいじゃない。水瀬君に触ってもらえるかもしれないわよ」

 麗の言葉に、ぐらっと気持ちが揺らいだが、自分のキャラじゃないことにすぐに気がついて、佐伯は踏みとどまった。

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