2.バカンス 1
言った。
確かに言った。
確かに言ったけれども、ここまでとは思わなかった、と言うのが、麗の正直な感想だった。
旅行当日。
真琴は、首尾よく、と言わないまでも、なんとか話をつけて勇吾と和也の二人を呼ぶことに成功してくれた。
本当はもっと大人数が良かったのだけれど、都合がつかなかったらしい。
だが、二人だけでもきてくれると聞いた時は、本当にありがたいと思ったものだった。
これで意趣返しができる。そう思って、朝からウキウキしていた。
もちろん、佐伯には、誰が行くとは言っていない。勝手に中学時代の「御学友」だと思っているのだろう。三人の姿を見た時の顔が、楽しみだ。
◇
そして、今、真琴を含むその三人が、駅前で麗たちの到着を待っているのだが……。
あれは完全に
でなければ、チンピラが無知な少女を言葉巧みに騙しているようにしか見えない。
それくらい、和也と勇吾はどこからどう見てもガラが悪かった。
いかにも夏を満喫しています、と主張する太陽に焼けた肌。己の筋肉を誇るような、ぴったりしたTシャツにジーンズ。
和也はTシャツの上に、柄物の開襟シャツを
身につけているものはシンプルなのに、どうしてこうガラが悪くなれるのだろうか。これも一種の才能とすら思えた。
一方、真琴は、高原の避暑地ということを考えたのだろう。ノースリーブの白いブラウスにふわっと広がるブルーのスカートとバカンスにふさわしい格好をしていた。
麗だって、そうする。
「高原の避暑地」へ「友達」と「バカンス」に行くのだ。
それなりにふさわしい格好というものがあるだろう?
だが、勇吾と和也は全くTPOというものを考える気がないらしい。
いや、考えた上でのこのチョイスなのだろうか。
二人と一人は全くテイストが違っているせいで、違和感が半端ない。
誰が見ても、そう思うのだろう。その証拠に、チラチラと真琴に心配そうな視線が投げかけられていた。
……あの二人は、あれでデフォなのかしら。それとも、自分が言ったから、わざとあんな格好をして来てくれたのかしら。
と麗は、どうでもいいことを悩んでいた。
悩んでいる間は、近寄らなくて済むからである。
しかし、いつまでもあの三人を放置しておくわけには行くまい。
周りの人間が、真琴を見ながらスマホを出し始めたところで、麗は、諦め半分で、三人に近づいて行った。
自分が行ったところで、かわいそうな犠牲者が一人増えただけ、にしか見えなかっただろうが。
◇
真琴が、こちらに気がついて、手を上げて挨拶してくれる。
「ウララちゃん!今日は招待ありがとう」
「私じゃないわよ?」
「でも、直接誘われたのは、ウララちゃんからだから」
そう言って、ニコニコ笑う真琴は、本当にこの旅行を楽しみにしているようだった。その様子に、ほっこりする。
正直、高校内ではよく喋るほうで、友達かと問われたら友達と答えるのだが、クラスも違う、家柄も違う真琴を誘うのに、少し遠慮するところがあった。しかし、こうやって全面的に楽しそうにしてくれるのをみて、彼女を誘ったのは間違いでなかったと思った。
男たち二人も、非常に機嫌がいいようだ。
行くのはどんな所だの、何があるだの話していたら、目ざとく和也が佐伯たちを見つけて声を上げた。
「タカちゃ〜ん、スグルちゃ〜ん、こっち!」
その呼び名なのか、和也の服装なのか、それとも麗と一緒にいたことなのか、その全てなのかわからないが、佐伯が
だが、それも一瞬で、表情を
「……タカちゃん、というのは、俺か?」
「そだよ?あれ?名前、タカフミじゃなかったっけ?」
「あってる。あってるが……」
佐伯は、何から突っ込んだらいいのか迷った挙句、突っ込むのを放棄したらしい。
だが、ちょっと……と言って、麗の腕を掴んで、皆から距離を取ると、小声で麗に訊ねた。
「おい、『御学友』って、ヤツらか」
「あら、貴文さん。言葉が汚いですわよ」
しれっとした麗のセリフに、キレそうになる佐伯。
もう、その顔を見れただけで、麗の
「私のお友達のマコトと、そのお友達のお二人。何か問題でも?」
待っている時点で、問題しかなかった「お二人」を前に、いけしゃあしゃあと言ってのける麗だった。
「……この事は
せめて一矢
「あら。水瀬君のこと、ご家族の方はご存じ?」
そう麗に問われて、佐伯は言葉が返せなかった。
その様子を見て、麗は微笑むと、「さぁ、皆揃ったから、そろそろ行きましょう?」と高らかに宣言した。
楽しい楽しい旅行の始まりである。
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