幕間

インターミッション 1

 それは、クロウニー本格始動前日のことだった。

 和也は、誰にも気づかれることなく、二人の人間を呼び出していた。


「――これは、まだオフレコなんだが」


 と、和也は前置きして、明日、クロウニー本格始動を勇吾が宣言することを二人に伝えた。


「そこで、俺は副隊長に任命される」


 それはおめでとうございます、と、二人は口を揃えてお祝いを述べた。彼らはまだ、和也の真意がつかめなかったのだ。それ以外言えることはない。


「特攻隊長はハセだ。それ以下の人員の配置は、俺らに任されることになっている。――で、だ。俺は副隊長補佐に津川、お前を任命したい」

「――僕がですか?」


 津川と呼ばれた男――お世辞にも喧嘩が強そうに見えない彼――は、驚いた声を出した。そして、隣にいる者――浜口と顔を見合わせる。もし、この二人から和也の補佐を選ぶなら、二人とも浜口だろうと思っていたからだ。


 津川と浜口。彼らはクロウニーにあって、勇吾ではなく、和也について来た稀有な人材だった。和也もそれを知っていて、彼らを重用している。――例えば、梅田の動向調査うらぎりもののあぶりだしとかに。


「俺がするのは、喧嘩じゃねーから。今回みたいなことだったら、津川、お前の方が得意だろ」

「――目立つのは、苦手です」

「それは慣れてもらわなきゃ、しょうがねー」


「でも、それだったら俺だって……」

「浜口。お前には特攻隊に入ってもらいたい」

「はぁ!?なんであんたの下じゃないんだよ!」


 そういきり立つ浜口に、和也は酷薄な笑みを浮かべた。


「浜口、お前は特攻隊に入って、そこで情報を集めるんだ。今回みたいなことの芽を確実に摘むためにまんにひとつもないように


 そう言った和也の目には、見るもの全てを凍てつかせる怒りがあった。そして何より、いたくプライドを傷つけられた男の顔をしていた。




 勇吾にとって、今回のクロウニー本格始動は望んだことではない。

 和也は、様々な偶然が重なったこととはいえ、勇吾に望まぬ決断をさせてしまった罪は自分にあると考えている。

 勇吾が勇吾らしくあるために、自分がいるのに、今回は完敗だった。しかも、その一敗は、和也にとって決して負けてはいけない一敗だった。




 二度と負けないために、打てる手は打つ。それがたとえどんな卑怯なことであっても、だ。


 勇吾に気付かれたら、そしりはまぬがれないだろう。だが、それでも自分の役割というものがある。


「津川じゃ、ハセの作る特攻隊に馴染めないだろう?何より津川。お前には重要な任務を任せたい」


 身内のスパイをするよりも重要な任務?と二人は疑問に思った。これだけでもなかなかエグい役割だ。できないかと問われれば、自分達にしかできないと思うが。


「副隊長ってことは、ユーゴの右腕だろ?体と右腕が離れて平気なやつはいねぇ。つまり、俺は、常にユーゴの隣にいる。――、津川、お前が俺の身代わりになるんだ」


 例えば、敵に致命的な一撃をもらいそうになった時。迷わず和也を庇ってその身を犠牲にできるのはどっちだ?と問われて、二人は納得した。


 浜口は中途半端に強い分、ごちゃごちゃ考えてしまうだろう。それに比べて津川は、自分の腕に自信がないため、自分を犠牲にすることを選択肢の一部に入れている。選択肢それが自分の内にあるかどうかは、咄嗟の動きを左右する。


「わかりました。俺は和也さんの指示に従います」

「僕も」


「おう。そうしてくれ。――頼りにしている」


 最後の一言は、和也の本音だった。を受け取った二人は、誇らしげな笑みを浮かべた。


 交友範囲が広く、誰とでも仲良くおしゃべりするわりに、勇吾以外、誰も信じていない和也。そんな彼が、口先だけでも頼ってくれているという事実は、二人にとってどんな褒美にも勝るものだった。


 その後、三人は、明日の梅田の追い詰め方について打ち合わせをし、解散したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る