2.ニュー・グランド 5

 次の日の朝。真琴は学校へ行くとツナギに着替える時間ももどかしく、教室へ向かった。

 ガラリと扉を開け、その音に反応した幾人かと挨拶を交わしたが、お目当ての顔がないことがわかると、とりあえず制服これを着替えようと、トイレへと向かった。


 着替え終わると、荷物を持ってロッカーへ向かう。と、そこに黒くてでかいのユーゴと、茶色くて明るいカズヤ二人の姿を見つけ、駆け寄って行った。


「――はよ」


 はやる心を抑えて、いつも通りの調子で声をかけると、二人もいつもの調子で挨拶をしてくれた。


「……きのー、大丈夫だった?」

「お〜、俺らが負けるわけないじゃん」


 なっ、ユーゴ、という和也の明るい声に、勇吾がこくりと頷く。その自分たちが荒事をして当然、という態度に、真琴の心が痛んだ。


 言いたいことは、いろいろあった。でも、どう言っていいかわからなかったし、自分の嫌なところを見せて、それでも嫌われないという自信は、真琴にはなかった。


 だから、彼女は逃げた。


 ツナギのポケットからスマホを取り出し、二人に画面を見せる。


「見て、これ。きのーのかき氷」

「お、めっちゃうまそうじゃん」


 二人とも、興味深そうに、真琴のスマホの画面を覗き込む。するすると昨日撮った写真を切り替えながら、真琴は自慢げに聞こえるように声を出した。


「すっごく、おいしかったよ〜。なんかね、氷がとろとろで、口の中いっぱいにひろがんの」


 マジで〜?と声を上げる、和也に、真琴は意を決して、だが不自然にならないように提案する。


「……すっごく、おいしかったから、よかったら、一緒に行かない?私、もう一回食べたいし」


 言った瞬間、思った以上に恥ずかしくて、かあぁっと頭に血がのぼる。スマホから顔を上げられないし、全然自然に言えた自信がなかった。


 それでも。二人とちゃんと対等に向き合おうとするなら、向こうからのアクションを待っているだけではダメだ。こちらからも踏み出して、誠意を見せなければ。


 一瞬の沈黙が、永遠に感じられる。恥ずかしくて、逃げ出したくなった時、そんな真琴の緊張を知らない二人は、


「え〜、行く行く〜」

「いいのか?マコト」


 と至って呑気に喜んだ。


「うん、いいよ。てゆーか、一緒に行きたい」

「よかった。男どもあいつらは、恥ずかしがって一緒に行ってくれないんだ」


 勇吾が嬉しそうに笑う。その表情を見て、真琴は自分の行動は間違っていなかったと確信した。


 いつ行く?今日は勉強会するから、無理かなぁ、などと話しながら、三人で教室へ向かった。


 その三人連れに、チラチラと視線が投げられていたが、真琴はもう気にならなくなっていた。

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