2.ニュー・グランド 1

 そこから一週間は、に過ぎていった。

 

 真琴は、教室外でクロウニーとつるまないように逃げてはいたものの、放課後の勉強会などでは、普通に交流していた。

 交流が深まるにつれ、クロウニーは序列がまだきちんと決まっていないことに気がついた。


 勇吾が筆頭ひっとうなのは揺るがないとして、その次を、幼馴染として勇吾と共有する時間の長さを誇る和也と、その腕っ節の強さから喧嘩の片腕として一目置かれている長谷川が争っているようだった。そして、両名以下の構成員は、和也か長谷川のどちらかサイドについている者が多いようだ。


 真琴は他人事ながら、NO.2候補が複数いるのに、きちんと組織を作らなくて大丈夫かと心配してしまう。だが、勇吾は、何か考えがあるのか、特に気にしていないようだった。


 そして、長谷川派の代表とも言えるのが、真琴の隣の席の築島つきしまだった。


「築島くん。悪いんだけど、数学の教科書見せて」


 真琴は、数学の授業が始まる直前、席に戻ってきた築島に声をかけた。


「あぁん?忘れたのかよ。チッ、めんどくせーな」


 築島はそう言いながらも、机から教科書を出すと、ばさっと真琴の方に投げてよこした。


「貸してやる。俺は寝るから」


 そう端的たんてきに言うと、早くも寝る態勢に入る。それを慌てて押しとどめる真琴。


「待って、待って。今日の授業も期末の範囲だから!」

「あ゛ぁ?」


 そう凄まれたが、ここ最近の勉強会で凄まれ慣れ始めた真琴は、起きたのをいいことに、さっさと机をくっつけてしまった。


「ずっと長谷川くん達に教えてもらい続けるのも、嫌でしょ?教科書借りるお礼に、わからないところ、教えるから」


 その言葉に、確かに勉強会で長谷川に負担をかけているという自覚のある築島は、反論できなかった。無言ではあるが、真琴の言い分を認めたのか、体を起こして、授業を聞く態勢に入る。


「……おまえ、教科書はどうしたよ」

「……忘れた」

「ふーん、珍し。雨でも降るんじゃね?」

「梅雨だからね。……ちなみに午後の降水確率は90%です。傘、持ってる?」


 その言葉に、チッと舌打ちをして、築島が黙る。口では勝てないと悟ったのだろう。


 その後、築島は意外なことに、数学の授業を真面目に聞いたのだった。しかも、授業後、聞けばちょっとはわかるもんだな、という意外な言葉を残し、真琴はそれが少し嬉しかった。

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