第15話「寄り道」

   第一章15話「寄り道」




「なんだかドッと疲れたわ……」

「上出来上出来! お疲れリッちゃん。ゆっくり休んでていいよ」


【風りの加護】を使って畑に水を与え終え、リアエルはぐったりとした様子でその場にしゃがみ込んで重い吐息を漏らす。


 想像以上に広大な畑が広がっていて、全てに水を与えるのに随分と時間がかかってしまった。


 しかしその甲斐もあって村人は楽ができたと大いに喜んでくれたし、それだけでも頑張った甲斐があるというものだろう。

 主に頑張ったのはリアエルだが。


 そんな功労者に落ちていた木の板で風を送ってやる。恐らく、少し前にリアエルが巻き起こした突風で剥がされたどこかの小屋の部品と思われる。


「やっぱ加護って使ってると疲れるもんなん?」

「肉体的な疲労は無いわ。気疲れってやつね」


 コウの持つ加護は意識しなくても常に発動し続ける常時発動型パッシブのようなのでいまいちピンとこないが、加護の使用には高い集中力が求められるらしい。

 ただぶっ放すだけなら簡単でも、今回のように操作や加減を要求されるとそう上手くはいかなくなってくる。


「これはいい練習になるわね。今度から取り入れよう」


 呼吸を整えながら呟くリアエル。


 今まではどんな方法で【風繰りの加護】の特訓をしていたのか知らないが、コウのお陰で新たなメニューが加わったようだ。


 二人が軽く休憩していると、手を振りながら近寄ってくる人影が。

 マライカの妻、ラーカナだ。家の一室を貸してくれて、絶品料理まで振舞ってくれた出来た奥さんである。


 ラーカナが快活な笑顔で二人の肩をバシバシと叩いてお礼を痛みに乗せて伝えてくる。


「二人ともお疲れさん。お陰さまで大助かりさね。みんな感謝してるよ!」

「ラーカナさん痛いッス?!」

「あ、あはは……」


 コウは悲鳴を上げ、リアエルは苦笑い。


 母は強しと言っても、物理的な意味ではなかったような気もするのだが……異世界では母は物理的にも強いらしい。


 ラーカナからの打撃を受け切り、微量ながらダメージを負いつつもずっと気になっていたことを質問する。


「ラーカナさん。そういえばマライカさんはいずこに?」


 朝からずっと畑仕事を手伝っているがマライカの姿は未だに見ていない。今日はコウの体感時間でいつも通りの六時頃に起床したが、その時点ですでに姿はなかった。


「あの人は巡回であちこち様子を見て回ってるさね」

「あそっか、ゴブリンの……」


 畑仕事は忙しいものの村の雰囲気は平和そのものなのですっかり忘れていた。

 この村の畑はゴブリンに何度も荒らされていて、そのため警備を強化している。その警備隊の指揮を村長から任されているのが、マライカだった。


「ゴブリンなんていなければ人手も増えて少しは楽になるんだけどねぇ」


 頬に手を当て、悩ましげに唸るラーカナ。


「それは——」


 そうかもしれないが、そうじゃない。同意するわけにはいかない。

 言いたいことは飲み込んで、コウは我慢に徹する。


 ゴブリン側にだって事情がある。畑を荒らしたくて荒らしているわけではないのだ。

 それをわかってもらうためには、まず信頼関係を築き、信用を得なければならない。

 一宿一飯の恩を返すのはそういった意味も含まれている。

 そして村人全員の総意を得て『ゴブリンと仲良くなっちゃおう大作戦』を決行するためにも、やれることはやらなくては。


(ま、本番はこっからだけどな!)


 誰にも言えない作戦で手っ取り早く村人から総意を得る方法は思いついている。下手をすれば信頼も信用も総崩れの大博打になるが、ゴブリン側を待たせるわけにもいかないため、ここは多少のリスクを負ってでも電撃戦で行くしかないのだ。


 ラーカナに叩かれた肩をさすりつつ、コウは村のために行動を開始する。


「村長は家にいるん?」

「村長かい? 家にいると思うけど、なにしに行くんさね?」

「ちょっと提案をね」


 ゴブリンのことと直接関係はないが、この村のためにはなる提案。そもそも川が近くにあるのにどうしてアレがないのかと、問い詰めたかった。


「リッちゃんはどうするん? 俺村長んとこ行くけど」

「私もついて行くわ。キミを一人にしておくととんでもないことしでかしそうだし」

「照れるなぁ」

「褒めてないから!」


 定番のやりとりも済んだところで、二人は村長の家へ向かうことにする。


「用が済んだらまたあたしん家に来んさい。ご馳走用意しておくさね!」

「なんと! またラーカナさんの絶品料理を頂けるとな!? 必ず伺いますわー!」


 太陽の光も真上から照らして来ていて、おそらく今は正午。この村に時計は見当たらないので時間の概念が存在しているのかわからないが、とっとと話を済ませてお昼をご馳走になり、お腹もベストな状態で後半戦に入りたいところ。


「案内はいるかい?」

「んや、大丈夫っすー!」


 ラーカナのお心遣いは丁寧(?)に辞退して、村長の家へ向かって歩き出すコウ。


「んじゃー行きますか、村長んとこ!」

「ちょ、ちょっとキミ! 場所わかるの?」


 現在位置から村長の家まで実は結構な距離がある。普通は昨日今日やって来たよそ者が簡単にたどり着けるものではないのだが、そこはコウという少年の腕の見せ所である。


「リッちゃんが寝てる間に雑草抜きで歩き回ったし、昨日も少し歩いたし、最悪道すがら誰かに聞けばいいんだから、別に難しくないっしょ」

「む……」


 さりげなくリアエルのことをディスっているような気がしなくもないが、少し眉をピクリとさせただけに留まった。


 コウを先頭にしばらく歩くと。


「お、あったあった」


 簡単そうに言ってのけるだけあって、誰かに道を聞くこともなく、真っ直ぐに村長の家までたどり着いてしまった。


「本当に着いちゃった……」


 リアエルは以前に一度、村に訪れたことがあるので、道がわからなくなったとコウが泣きついて来るのを少し、ほんのちょびっとだけ、期待していただけに唖然としていた。


「土地勘は男のほうがあるってよく言われてるしな、家のある方向さえ掴めてればざっとこんなもんよ」


 コウの経験上、目上の人の家には何度も訪れる傾向にあるので、積極的に覚えようとしたのが功を奏した。

 マライカ夫妻の家もここから近いので、大助かりだ。


 コウは慣れた様子でためらいなくドアをノックする。彼の順応性の高さはピカイチと言って申し分ない。


「はいはいはいはい、どちら様かな?」


 言いながらドアを開けてしまうのは、セキュリティーというか防犯意識的にどうかと思い眉根を寄せるコウだったが、田舎村は鍵を閉めないお宅も多いと聞く。鍵を開ける音も聞こえなかったし、もしかしたら村の人たちはノックすらしないで上り込む可能性も、なくはない。一階は集会場となっているわけだし。


「おお、えっと……ああ……」


 訪ねて来た二人の姿を見て自分の額を突きながら呻く村長。これはよく見る、名前が思い出せないやつだ。


「コウだよ。アマノ・コウ。後ろの子はリアエル」


 見かねて口を挟むと、村長は得心がいったように手を打った。


「そうじゃったそうじゃった! すまんのう。で、何用かね? 逢引ならウチはオススメせんぞ」

「あい……っ!?」


 相変わらず一言多い村長の言葉に、リアエルが心外だと怒りに震える。対するコウは平然と構えて、


「古いなー村長、今の時代は逢引じゃなくて『デート』っつーんだぜ? ま、そうだったら良かったんだけどそうじゃなくて、少し提案があんだ。時間いいかい?」

「ふむ……少し長くなりそうじゃのう。上がりなされ」


 コウの真っ直ぐな視線を受け止めて、簡単に済む用事ではないことを悟ったのか村長の家兼集会場に招き入れてくれた。そのまま二階へ上がり、生活スペースへ。


 なんとなくリアエルがコウのことを警戒しているような気がしなくもないが、きっと気のせいだろう。


 昨日のようにテーブルに座らせてもらい、早速本題へ移りたい——がその前に、


「紙と書くものってある?」

「ふむ、少々お待ちくだされ」


 この村で最高齢のジジイを容赦なく使ってスムーズに提案するための準備をしてもらう。

 リアエルのときもそうだったように、何かを説明するときはイラストも交えたほうがわかりやすい。

 特に今回は地面ではなく紙に書いて残したほうがありがたいはずだ。


「これで良いかのう?」

「わお。インクと羊皮紙キタコレ」


 目の前に差し出されたのは、小瓶に入れられた真っ黒い液体と羽根ペン。そして紙と呼ぶには分厚くゴツゴツとしたそれは、間違いなく羊皮紙。

 映画などで見たことはあっても実物を目の当たりにしたのはこれが初めて。


 試しに羊皮紙を手に持ってみると、ゴワゴワとしていて硬く、やはり紙というよりは皮の印象が強い。現実世界で身近なものだと、和太鼓やタンバリンなどの打楽器に張ってあるものに近いか。


「あー……少し試し書きしても?」

「それは構わんが、貴重なものじゃから大切にの」

「プレッシャーやめてー?!」


 流石のコウも羊皮紙に羽根ペンで何かを書いた経験は無い。それでも、見るからに書きにくそうなのは容易に想像がつく。


 とりあえずペン先をインクに浸し、余分なインクを淵で落としてから羊皮紙の隅っこに小さく『あいうえお』続いて『永』それから『0〜9』を書いてみる。


「……思ってたより書きにくくないな。書き心地もカリカリしててなんか面白い」


 もっとペン先が引っかかってイライラするものとばかり思っていたが、想像よりも滑らかに滑ってくれる。ただの日本語でも羊皮紙にインクで書かれただけで味わい深いものに見えてくるのだから不思議な感覚だった。


「なにそれ、文字? 見たことないけど」


 リアエルが横から覗き込んできて、ふわりと漂ってくるいい香りに思わずドギマギしてしまう。村長の前なので顔に出ないように努めたが、それを見てニヤリと笑ってくる老いぼれにコウは心の中で握りこぶしを強く握った。


 あとでなんらかの形で意趣返しするとして、努めて平静に答える。


「これは日本語。俺の故郷の文字なんだけど……そうか、文字の問題もあったか……」


 加護のお陰で言葉は通じても、文字に関しては未だに未知数。少なくとも、この世界の人間に日本語は読めないことはこれでわかった。


 意図せぬ収穫もあったところで、細い羽根ペンも手に馴染んだ。

 そろそろ本題に入らなくては。


「村長、どうしてこの村には川があるのに水車が無いんだ?」


 ずっと疑問に感じていた。農具もあるなら水車だってあってもおかしくない。

 むしろ無いほうがおかしい。

 川沿いに人々が集まり、発展していったのには様々な理由がある。その一つが水車。

 川の流れを利用して半永久的に動力を得る方法なのだが——


「水車……話に聞いたことはあるのじゃが、どのようなものなのかまではわからなくてのう」


 細い目をさらに細め、虚空を見つめて呟く村長。コウは首を傾げ、理解できないと両手を挙げる。


「なんだそりゃ。話に聞いててなんでわからんわけ?」

「稀にこの村にやってくる商人から名前だけは聞いたのじゃ。しかし詳しくは教えてくれなくてのう」

「ケチだなーその商人。もしかしてぼったくられてるんじゃないの?」

「その可能性は否定できんな」


 リアエルが言うにはここは辺境の地らしいし、わざわざこんなところにまで商人がやって来てくれるだけでもありがたいだろう。その分商品の物価が高くても文句は言えまいと、足元を見られていてもおかしくない。


 おまけに村人が知らない情報を提示しておいてもったいぶると言う腹の黒さも癪に触る。


(知らないことをグチグチ言うつもりはないけど、教えないのには腹が立つな)


 訊くは一瞬の恥、知らぬは一生の恥と言う。一瞬の恥を忍んで知らないことを聞いたのに、それでは村長が恥をかいただけではないか。


 姿の見えない商人のシルエットを右ストレートでぶん殴って、


「オッケー。水車については俺が教えてやる」

「おお! お主は水車を知っておると?」

「知ってるよ。作ったりしたことはないから、理屈だけだけど。だからそのあとはそっちでなんとかしてくれな」


 胸を叩き、一肌脱ぐ宣言。


 詳しい作り方まではさすがに知らないので、そこは村人の創意工夫に委ねるしかない。コウも水車の作製に携われれば色々と意見できるかもしれないが、それが許されるほどの時間は残念ながらない。


 水車の原理などを羊皮紙に書き込みながら、思考は次のステップへ。


「じゃあ次な。畑で作ってるトマトのことなんだけど——」

「あれはトマトじゃなくて『マトマ』よ」


 次の問題を指摘しようとしたとき、リアエルから訂正が差し込まれる。


「マトマ? ああぁ〜そういう感じ……」


 どう見てもトマトだったのだが、微妙に名前をずらしてくるあたりは異世界モノっぽい。そうなると、見た目は見たことあるものでも名前が微妙に違っているものは他にもありそうだ。食材なんかは定番なので特に多いだろう。


 全く別物のような名前だと慣れるのに時間がかかりそうでも、このくらいの変化ならば対応は容易い。


「そのマトマなんだけど、いくつか病気でダメにしてるところがあったな」

「なんと、そのようなことまで。確かに、原因不明の病気でいくつか処分せねばならぬものもあった」


 雑草抜きで村のあちこちを歩いたときに目にした光景だ。葉が枯れていたり、実が崩れ落ちていたり、さまざまだ。

 この村の収益のほとんどは農業で得たものだけに、これは痛手となってくる。


「植物の病気ってのは大まかに虫が原因なのと、土とかの環境が原因で根っこから広がってくもんがあんだ。それを抑えつつ、長期収穫できるようにした画期的なアイデアがある——その名も樽トマト! ……じゃなくて、この場合は樽マトマか」


 流石に一瞬で順応はできなくて言い直して、どうにも締まらないというか、決まらないというか。


「一からになっちゃうけど、参考にしてみてくれ」


 有名なテレビ番組で紹介されていて「なるほど」と納得できる部分が多かったから記憶には鮮明に残っている。


 それが樽トマト。


 樽と呼ばれる容器に土ではなくヤシ殻を詰めて栽培する方法。近くにヤシの実はないが、繊維質の何かで代用すればなんとかなる。

 樽とは名ばかりで、その正体はプラスチックで出来た容器だったが、これは本物の樽などでなんとかなるはず。


 もしマトマが病気になっても、その樽ごと撤去すれば、周りへの被害は最小限に抑えられる、という寸法だ。


 イラストを描いて水車と樽マトマについてどうにかこうにかまとめ、おまけで、


「あと強力な無農薬農薬のレシピも書いとくな」


 矛盾しているように聞こえて矛盾していない農薬のレシピを書こうとして手が止まる。

 イラストはともかく、レシピは日本語で書いても誰も読めないから意味がないのだった。


「ごめんリッちゃん、今から言うものを代わりに書いてくんね?」

「別にいいけど……」


 リアエルに羽根ペンを手渡し、選手交代。紹介されていたレシピを脳裏に思い描き、上から順に読み上げる。


「よもぎ、ひとつかみ」

「よもぎ? 『もよぎ』なら知ってるけど……」

「そうだった! あーもーめんどくさっ!」


 どれもこれも微妙に名前が違っているのなら、これから読み上げる材料のことごとくが違うことになる。これではちゃんと正しい材料が伝わっているのか判断できないではないか。


 どうすべきかわずかに悩み、


「……じゃ、じゃあ、とりあえず『もよぎ』ひとつかみで」


 間違っていたら訂正すればいいと開き直る。


 最初はなんてことない些細な違いだと思ったのだが、これが何度も続くとなると流石に違和感を隠し切れずに腹の底がムズムズしてくる。


 リアエルは見覚えのない文字を、羊皮紙に慣れた様子で書き込んでいく。


「次は?」

「しょうが三個」

「しょうが……? しょうが……もしかして『ガッショウ』のことかしら?」

「もうそれでいいよ! 食べられる球根で、体がポカポカしてくるやつならなんでも!」

「それならガッショウで合ってそうね。キミの記憶ってどうなってるの?」

「こっちが聞きたい……うぅ」


 シクシクと泣くコウのことは放っておいて、言われた通り書き込むリアエル。


 こんな調子で、とうがらし、コーヒー殻、にんにく、にら、とリアエルに訂正を喰らいながらレシピは出来上がっていく。

 そんな中で、なぜかお酢、焼酎、茶殻の名前はそのままだった。牛乳はあえてミルクと伝えてみると、そのまますんなり通った。


 わからない。規則性があるのか無いのか。


(物の名前に慣れるのが一番苦労しそうだよ……)


 かつてコウは異世界で過ごす妄想をしたことがある。そのときは凶暴なモンスターと通じない言葉が何よりの壁と思っていたものだが、ここにきて新たな強敵が現れた。


 嬉しくない発見だった。


 レシピに続いて作り方も簡単に伝えて書いてもらい『強烈な臭いに注意』と注意事項も加えてもらって、これにて完成。


 一枚の羊皮紙に水車と樽トマトの原理、そして無農薬農薬のレシピと、裏面まで使って一貫性のない一枚に仕上がったが、きっとこの村の役に立つはずだ。


「ま、こんなもんかな。あとはそれをどうするか。そこは村長の判断に任せるとするよ」

「ふむふむ……なるほど、樽マトマとな。これならば確かに以前よりも管理が楽になる。それに水車。このようなものじゃったとは……」


 立派なヒゲを撫でつけながら、コウとリアエルが協力して書いた羊皮紙を見つめ、関心と納得の吐息をこぼす。


「俺の用事はこれで済んだわけだけど、村長からはなんかある?」

「お主、小僧と言ったかな?」

「コウな! それでも間違っちゃいないけども!」

「お主さえ良ければ、この村で暮らさんか? ワシが村長の名において良きに計らうと約束しよう」


 コウのことを気に入ったのか、そうでなくても即戦力になってくれると踏んでの勧誘だろう。

 村長のその言葉は、思っていたよりも嬉しく、コウの心に響いた。異世界に来てしまったときの何よりの心配は衣食住。そこの保障をしてくれるというのだから、頼もしいし、ありがたい。

 でも、その手を取るわけにはいかなかった。


 ゆるゆると、首を振る。


「お誘いあんがとさん。素直に嬉しいよ。でも俺はリッちゃんの役に立つって決めたし、最終的には故郷に帰りたいんだ。だからここに留まるわけにはいかんのよ」


 リアエルに命を助けてもらった恩をまだ返し切れていないし、家族が待つ我が家へ帰る方法も探さなくてはならない。

 村長は決意にみなぎる目を見て、ため息をついた。


「そうか……それは残念じゃのう。まぁ無理強いはせんよ。己が女のために身を削るのも、男の本望じゃて」

「さっすが村長、わかってんじゃーん! やっぱ長生きしてると言葉の重みが違うね!」

「お主みたいに軽はずみな発言は控えるようにしているでの」


 村長の余計な一言オーバーボイス

 こうかは ばつぐんだ!


「言ってくれるね……そっちこそたまにはどうでもいいことでも吐き出して心身ともに軽くしたほうがいいよ。足腰弱いんだからさ」


 コウの事実の追求トゥルーチェイス

 きゅうしょに あたった!


「若造が」

「クソジジイ」


 両者の間にバチバチと飛び散る火花。どちらも一歩も引かない睨み合いに、リアエルは額を抑えて盛大にため息をこぼした。


「どうしてこの流れで険悪なムードになるのよ……」


 男同士にしかわからないじゃれ合いは、付き合い切れなくなったリアエルが止めに入るまで、しばらく続いたのだった。






 このことがきっかけで、カトンナ村がマトマの名産地になるのは、まだまだ先のお話——。

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