第7話「双方の事情」
第一章7話「双方の事情」
夜の森は不気味なほどに暗く、暗闇に足を踏み外し、どこまでもどこまでも、深淵へ落ちて行ってしまいそうなほどの闇に包まれている。
そこに闇を遠ざける明かりがひとつ。
ゆらゆらと燃え盛る炎、焚き火であった。
パチパチと薪が爆ぜる音をBGMに、五人の人影が焚き火を囲む。
二人は人間、三人はゴブリンという、異種族の組み合わせ。
普通であれば絶対にありえない顔ぶれを実現させたのは、一人の少年であった。
「さて、まずはリッちゃんにいろいろと聞きたい」
黒い髪に黒い瞳、無邪気で活発そうな人間の少年——アマノ・コウが神妙な様子で隣に座る少女に声をかける。
彼こそが、この顔ぶれを揃え、話をしたいと持ちかけた張本人だ。
「いいわよ。私もキミに聞きたいことがあるから」
切り出したコウに、少女は頷いた。
プラチナブロンドの長髪に他を寄せ付けないほどの白く透き通った肌。整った目鼻立ちとその姿はまさに『天使』と言って差し支えない。
しかしそのように評価すると、なぜか癇に障ってしまうので要注意だ。
「じゃ、まずは俺からな。もう一度、リッちゃんが受けてるっていう依頼について、教えてもらえるか?」
彼女がこの〝名前のない森〟にやってきた理由。それはとある依頼を受けたからということは聞いてしまった。
そしてその内容とは『一匹残らずゴブリンをやっつける』ものであるということも。
可愛らしく『やっつける』と言うが、その真意は『殺す』ことにある。
「……それを本人がいる前で話せって言うの?」
「言いづらいってのは察するけど、ゴブリンは俺らの言葉はわからないんだろ? なら大丈夫じゃないか?」
「まぁ、そうなんだけど……」
彼の正論に、尻すぼみになってしまうリアエル。
言葉が通じないとはいえ、まるで陰口のようになってしまうのが気になるのだろう。根が正直なのはここまで一緒に行動してきてよくわかったが、内容が内容なので言葉が通じないのはむしろ好都合と受け取ってくれたほうが助かるわけで。
「それに俺は、君の助けになりたいんだ。力になりたいんだ。でもそのためにはまず、君の置かれた状況を把握しないといけない。だろ?」
気がつけば異世界で、何が起こったのかも謎で、右も左もわからない少年が自分のことよりも優先したのは少女の手助け。
何が彼をここまで突き動かすのか。
そんなもの、決まってる。
——好きになってしまったからだ。
周りが見えなくなってしまうくらいに、どうしようもなく。
「だから、できるだけ詳しく正確に教えてくれ。もしかしたらこんな俺でも力になれるかもしれない。いや、こんな俺だからこそ、力になれるかもしれないんだ!」
リアエルはしばし、渋るように色々と考えていたが、やがて口を開く。
「本当に、キミってば変な人ね」
「よく言われる」
諦めたように「はあ」小さく息を吐いた彼女は、ゆっくりと思い出すように依頼を受けたときのことを語り出す。
「この森を出て少し進んだところに、農村があるの。そこの村長さんからの依頼で、『ゴブリンが畑を荒らすからなんとかしてくれ』って話だったわ」
この広大すぎるくらい広大な森の外に出てまでそんなことをするなんて、ゴブリンはいったい何を考えているのか。敵である人間がたくさんいるのだから危険であると、それくらいはわかるはずだが。
とはいえゲーム的には、どこでもエンカウントするような分布の広さがゴブリンの特徴でもある気がする。
そのあたりはまた後でゴブリンに聞いてみるとして。
「『荒らす』ってのは、ただ荒らすだけ?」
「いいえ、結構な量を持ってかれるって」
「なるほどな……」
まぁそうだろうな、と納得のつぶやきをこぼす。ある程度予想はしていたが、この様子だととある予感は当たっていそうだ。
「次は私」
「どうぞ」
手のひらを差し出すコウ。
聞きたいことと言えば他にもまだまだたくさんあるが、後回しにしてしまっても問題はない。
これといって取り決めたわけではないが、交互に質問タイムとしよう。
「どうして空から降ってきたの?」
「そこ?! 気になるとこそこなの?!」
てっきり「どうしてゴブリンの言葉がわかるの?」と聞かれるものとばかり思っていたコウは、必要以上の勢いで突っ込んでしまった。
「だって、見たところキミは普通の人間だし、死にたがってるようにも見えない。だったらなんであんなことしたのかなって」
顎に指を添えて、首を傾げて考えるリアエルのその仕草がいちいちコウの心臓を揺さぶる。
可愛いは正義とよく言うが、可愛いは罪とも聞いたことがある。
大抵は自意識過剰な女キャラが口にする言葉だが、なるほど確かに、罪と例えるのも今ならわからなくもない。
可愛いは罪と自分で言うと嘘っぽくなってそれ自体が罪になる気がするが、他人にそう思わせるとまるで説得力が違う。
しかしいまは彼女の魅力に取り込まれている場合ではない。
「それは俺が知りたいくらいなんだよ。買い物してたら足元ふらついて、多分……だけど気を失って、気がついたらお空の上から真っ逆さまだったから」
新宿の街で買い物を済ませ、ホクホク気分で散策していたら、いつの間にかこの有様。異世界モノは唐突に始まるのが常だが、もっと主人公に気を使ったほうがいいとコウは思う。
せめて安全な街中とか、そうじゃなくても地面に転移してくれればいいのに、わざわざモンスターがはびこる広大な森の中、いや空に放り出すなんて。
女神様は職務怠慢なんじゃないか。
「変な話ね。空間移動系の加護かしら?」
魔法のように風を操る加護があるのだから、そういう加護があってもおかしくはないが、現実世界から飛ばされてきたのでそれは考えにくい。
誰がどう見ても説明不足だ。天上の偉い人に説明を求めたい。
「ええい、不遇な対応に腹が減るわ!」
「さっき焼き魚食べたじゃない」
「……ま、そうなんだけど」
腹が立つでしょ、と突っ込んで欲しかったコウだが、少しわかりにくかったかと反省。
「とにかくそんな感じで、あれは俺の意思とは全くもって無関係だ。だからリッちゃんがいてくれて本当に助かった。マジ感謝してる!」
「ど、どういたしまして」
文字通りの命の恩人に深々と頭を下げ、リアエルは照れ臭そうに頬をかく。
「それから俺の恋人になってくれると超嬉しい!」
「それはムリ」
「ガードがお堅い!」
さすがに昨日の今日——というより、さっきの今で少女の気持ちが変わるわけもなく、出会って早々に告ったときと同じ文句で断られてしまった。
コウは本気だが、どうも彼の軽い調子が原因で本気と受け取られていない節がある。一度ついてしまった他人のイメージが覆ることは、なかなかない。
ここはとにかく、諦めずに攻勢を維持するとして、咳払いを間に咬ませて空気を変える。
「んじゃ俺の番。リッちゃんはこの依頼、どう思ってる?」
「……どうって?」
コウのアバウトな質問に、リアエルは眉根をひそめた。
「間違ってたらゴメンだけど、俺から見てリッちゃんはこの依頼に前向きじゃない。違う?」
「………………。どうしてそう思うの?」
「その沈黙が答えかな」
〝『一匹残らずやっつける』ってのはその……殺すってことか?〟
〝…………そういうことになるわね〟
ゴブリンを殺すのか。そう問い質したときもそうだった。踏みとどまるようなわずかな沈黙があって、それから返事が返ってくる。
リアエルは迷っているのだ。ゴブリンを殺すことに、躊躇していると言い換えてもいい。
「……お見通しってわけ?」
「リッちゃんがわかりやすいだけだよ。よく言われない?」
「……言われるけど、キミに言われるとなんか腹が立つわね」
「腹が減るじゃなくて?」
「だからさっき焼き魚食べたじゃ——って、そういうこと……キミってばしょうもないこと言うのね」
「よく言われる」
先ほどのシャレにようやく気がついて、呆れたように息をこぼすリアエルに、コウは悪びれもせずニッカリ笑顔で答えた。
いちいち茶化して空気が弛緩するが、真面目な話の途中だ。
「じゃあ聞くけど、キミならこの問題を、無駄な血を流さずに解決できるって言うの?」
少年の言葉が、ただの大言壮語じゃないことを、確かめなければいけない。
どうせ無理だ。この問題がそんな簡単に片付くわけがないと、誰だってわかる。
コウが少しでもひよったりしたら、跳ね除けようとリアエルは思っていたのに、
「できる」
「なっ」
コウは即答し、息を飲むリアエル。
もちろん、確証はない。100%可能であると言い切れる保証もない。
それでも彼は、言い切るのだ。
——「できる」と。
彼女の期待に応えるために。自分の信念を曲げないために。
「当然簡単じゃない。俺一人じゃまず無理だ。ゴブリンを殺すほうがよっぽど簡単だろうさ。それでも君が、平和的な解決を望むなら、俺は全力でそれに応えたい」
コウは少女の目の前に手を差し出す。
焚き火の明かりに照らされた綺麗な手は、戦いを知らず、血に染まらず、まっさらな手をしていた。
「私は……」
悲痛な面持ちでその手を見つめるリアエル。
何も掴めず、何も救えず、ただ伸ばすだけだった自分の手とは違う。
血と泥で汚れることしか知らない自分の手とは違う。
それしかなくて、それが当たり前だと思い込むことで自分の心を守ってきた。
やりたくないことから目を逸らして、目を瞑って、何も考えないで、言われるがままに行動してきた。
差し出された手を取ったら、汚い手が、綺麗な手を汚してしまう。
それでも——
「私は……それを望んでもいいの……? 私のわがままなんだよ……?」
「良いに決まってんだろ。リッちゃんのわがままなら、ドンとこいさ」
胸板を叩き、任せろと言い張るコウ。
「リッちゃんみたいに戦う力は残念ながらないけど、それが全てじゃないってことを、証明してやるよ」
異世界にやってきて、剣を持ち損ねた少年が手にしたペンは、血を流すことなく問題を解決へと導けるのか。
ペンは剣よりも強いってところを——見せてやる。
少年と少女は、固く手を結んだ。
ちなみに、当然気になると思っていたゴブリンの言葉がわかる件は「そういう加護なんでしょ? 加護ってそういうものよ」といった感じであっけなく納得された。
どこまでも加護というものは都合よくできているらしかった。
***
(さて、ああは言ったものの、問題はこっちなんだよな……)
リアエルとの話し合いは一段落して、夜の警戒をしてもらうこともあり、彼女にはひとまず休憩してもらうことになった。
その間にコウは、今度はゴブリン側の話を聞かなくてはいけない。
どうして畑を荒らすのか。その理由を。
(ゴブリンからしたら人間は敵な訳だし、侵攻するって意味では当たり前なんだろうけど)
それにしてはリスクが高いように思える。
リアエルから聞いた話では『畑を荒らす』だけであって、村人を襲ったりはしていないらしい。もちろん自衛するために反撃したりはするが、それはあくまで自衛のため。
人を襲うことが目的ではない、ということになる。
とにかく話を聞いてみよう。
[よう、待たせて悪かったな]
リアエルの隣から父親ゴブリンの側へと場所を変え、軽く手を上げながら挨拶をする。
特に意識することもなく、自然と彼が発する言語はゴブリンのものになっていた。
自分では普通に日本語を喋っているつもりなのだが、会話をする相手に合わせて勝手にそれぞれの言葉に翻訳されるようだ。
[まずは俺らのぶんまで魚を獲ってくれてあんがとな。助かった]
[フン。言っただろう、調子が良くて獲り過ぎただけだと]
律儀にも頭を下げて感謝の念を伝えると、ゴブリンはお得意のツンデレ。
コウの投石による追い込み漁があったからスムーズに捕獲できたのだし、そもそも「調子が良い」とは言ってなかったような気がしたが、野暮なツッコミはすまい。
[そこのニンゲンとの作戦会議は済んだようだな]
[作戦会議って……そんな大層なもんじゃないよ。手伝わせてくれってお願いしてただけだ]
承諾してくれて、ちょっとは信用に足る人物であると、あるいは利用できる男でもいい、そう思ってくれたのなら、関係を前進させるための一歩を確かに踏み出せたのだから、嬉しい限りだ。
その嬉しさを燃料に、この件には全力でぶつからねばなるまい。
[で、俺がしたい話ってのはお前らのことだ]
[我らのことだと?]
まどろっこしいのは抜きにして、早々に本題に入る。
首をかしげる息子二人を見やって、父親ゴブリンは父性本能からか息子二人を背に庇うように手を広げた。
話を聞いてくれる気になってくれたのはありがたいが、まだまだ警戒されているらしい。
両手を小さく上げて[なにもしないってば]と無害アピール。本当は奪った武器も返したかったのだが、リアエルの頑固さには勝てなかった。
それはいずれタイミングが合えば返すとして。
[近くにある人間の村の畑を荒らしてるってのは本当か?]
[なぜそのようなことを話さねばならん。ニンゲンである貴様なら知っていようが]
緑色の細い腕を組み、明後日の方向を見て吐き捨てる父親ゴブリン。
話をする態度としては最悪のものだが、こうなることは薄々想像がついていたので気が荒立つことはない。
遠回しに[そうだ]と言っているような返答なので、リアエルの言っていることは間違いなく事実である確認も取れた。
そもそも彼女の言葉は欠片も疑ってはいないので、正確にはリアエルに依頼した村長とやらが虚偽の依頼をしたわけではないと確証を得る。
[どうして畑を荒らす? 人間が多い場所に近づくのは危険だろ?]
[そのようなことを教える義理はない]
父親ゴブリンはプイッと反対方向に首を振って、鼻を鳴らす。
こんの頑固オヤジめ——とコウはむしろやる気になる。
そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。
[教える気がないなら当ててやる]
コウの視線は父親ゴブリンから背後に庇われている兄弟ゴブリンへ注がれる。上背に差があるので、背後にいても視線を合わせることはできる。
[えっと……確かアーニンとオットーだったか]
[うん]
[そうだ]
[なぜキサマが知っている?!]
[アンタがそう呼んでたからだよ!]
コウが父親ゴブリンを押さえつけているとき、説得してくれた兄弟ゴブリンのことを感極まったようにそう呼んでいた。
全く自覚がなかったらしい。
[俺の名前はコウ。アマノ・コウって言う。よろしくな]
[コウか]
[覚えとく]
[覚えんでいい!]
[アンタはちょっと黙ってようか?!]
過保護な父親ゴブリンがいちいち口を挟んでくるから円滑に話が進まない。ここは強引にでも押し通す。
[二人に聞く。人間の畑を荒らす理由は『食料不足と兵糧攻め』ってところだろう。違うか?]
[すごい!]
[当たってる!]
[お、お前たち……]
素直にポロリする兄弟ゴブリンに、父親ゴブリンは言葉もなかった。純粋で良い子に育っている証拠だが、今回ばかりはそれが裏目に出た。
[アンタの息子さん、ちょっと良い子すぎやしませんかね]
[……我もそう思う]
子供の良心を利用しているようで後ろめたいような気持ちになるコウだが、背に腹は変えられない。ここは心を鬼にして、情報収集のためにどんどん口を滑らせてもらおう。
[ゴブリンの食料事情はそんなに深刻なのか?]
焚き火を囲んで共に焼き魚を食べた。決して楽しい雰囲気とはいえない時間だったが、少なくとも兄弟ゴブリンは楽しそうにしていた。
そのときこっそり確かめたが、ゴブリンも人間と同じ雑食であるようだった。どこかから拾ってきた謎の木の実を齧っていたのだ。
体の構造が人間に酷似しているなら、この森は食料に溢れていると言っていい。
川魚然り。木の実然り。山菜やキノコだって豊富に揃っているはずだ。それらを集めれば食べ物には困らないくらいの量は集まりそうなものなのに。
コウの質問に答えたのは、ゴブリン(兄)のアーニン。
[今はまだいいけど、将来はどうなるかわからないって父ちゃんが言ってた]
[そうなのか? なんでだ?]
次はゴブリン(弟)のオットーが口を開く。
[人間が森を切り開いて、住処がなくなっているからだ。って父ちゃんが言ってた]
[ああ……]
納得の呟きをこぼすコウ。
現実世界でも異世界でも、このような問題は発生するらしい。
人間が手を広げ過ぎて他の生き物の住処を奪っている。ここではそれがゴブリンに当てはまる、と。
ゴブリンは将来的な食料不足や住処の縮小を懸念して、人間相手に先手を打って警告していたのだ。
[もしこのまま人間が森を切り開き続けたら……?]
[散々警告はしている。そのときは当然、実力行使だ!]
そう言う父親ゴブリンの瞳には怒りの炎が写り込んでいる。ただ焚き火の炎が写り込んでいるだけだと思いたいが、語気の荒さに現れていた。
——実力行使。
このまま放置していては間違いなく戦いになる。それは文字通りの殺し合いに発展するだろう。
(これじゃどっちが悪者かわかんねーな)
コウは困ったように頭を掻いて考える。
自然界において人間は害虫のような存在といえる。現実世界でも百害あって一利なしだと、特番などで見たことがある。
だからこその3R。
もったいない精神、エコロジーをもっと意識して生きていきたい。と、コウは考えている。
[アンタらゴブリンはどうしたいんだ?]
[……どういう意味だ?]
[人間を追っぱらいたいのか? やっつけたいのか? ひっそりと暮らしていたいのか? どうなんだ? って意味だ]
人間側はゴブリンをやっつけたいと考えているようだが、ゴブリン側はどうなのか。もし徹底抗戦以外の、例えば話し合いでなんとかしたいと思っているのなら——
そのときは、ゴブリン陣営に立つことになる……かもしれない。
[我は息子や仲間とともに平穏に暮らしたいと考えている。ニンゲンがその日常を壊そうとしているのなら、降りかかる火の粉は払わねばなるまい]
[決まりだな]
[……なにがだ?]
指をパチンとならしてドヤ顔を決める少年に、ゴブリンは怪訝そうな表情を浮かべた。
だんだんとゴブリンの表情が読めるようになってきた。やっぱり基本の構造は人間と同じなだけあって、大差はないのかもしれない。
楽しいときは目を細めてケラケラと笑うし、怒っているときはシワを寄せて睨みつけるように叫ぶ。
そんな日常を守れるなら、守ってやりたいじゃないか。
[俺に……いや、俺たちに任せてくれないか? 人間のこと、なんとかしてやる]
[貴様も同じニンゲンであろうが。信用できるわけがなかろう]
[そうか? アンタはそうでも、息子さんはどうかな?]
コウに言われて父親ゴブリンは背後を振り返ると、大きな瞳を爛々と輝かせている息子が二人。
[我はいいと思う! このニンゲンは約束を守ってくれた!]
[信用してもいいのではないかな、父ちゃん。ダメだったら、そのときはそのときで別の手を打とう]
弟の方はなかなかに辛辣なコメントを寄せてくれたが、基本的に二人とも前向きにコウの話を受け止めてくれている。
となれば当然——
[お前たちがそう言うなら、利用してやろうではないか]
とことん息子二人には甘ちゃんな父親ゴブリンであった。
話もついたようなので、少年はパシン! と拳を打ち付けて気合いを入れる。
[よし! それじゃあまずはアンタらの親玉に話を通したい。もう暗いから明日、親玉のところへ案内してもらえないか?]
[その必要はない]
[は?]
誇るように胸を張る父親ゴブリン。コウ以上のドヤ顔で、
[我がゴブリンの
バッチリ決まった父親ゴブリンに、息子二人からの小さな拍手と歓声が上がる。
全く予想していなかった宣言に、しばしフリーズしてしまっていた少年であったが、
[ま、話が早くて助かるか……]
ご都合主義な展開は嫌いではないが、ここは冷静に、現実的に受け止めて、それに甘んじることにしたコウであった。
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