第6話「ゴブリンと火を囲む」

   第一章6話「ゴブリンと火を囲む」




 親子ゴブリンの案内に従って、進んできた森を焚き火のポイントまでいったん戻るコウとリアエル。


 彼女から聞いていた『ゴブリンはすばしっこい』という情報は確かなもので、身軽に倒木を飛び越えたりくぐったり、ターザンもびっくりの曲芸だ。


 テレビや動画でパルクールの存在は知っているが、目の前でひょいひょい移動されると結構ビビることが新たにわかった。

 こんな身体能力を持った人間がもし地球にいたら、メディア陣はさぞかし面白いネタだと、寄ってたかって取り上げていたことだろう。

 これだけの身軽さがあれば、リアエルの投げナイフの掃射『葉っぱカッター』も当たらず、いつの間にか樹上へ移動していてもなんら不思議はない。


 そしてそんなゴブリンの移動速度について行けず、遅れを取るのはもはや必然と言えた。


[遅いぞニンゲン早くしろ!]

[わかってる!]


 足を止めたゴブリンは急かすように小さく飛び跳ねながら、距離の離れた人間二人に向かって呼びかける。


 敵同士であるはずの人間とゴブリンが一緒に行動できるのは、少年がどういうわけかゴブリンの言葉を理解し、介することができるからであった。


「なんて?」

「遅いから早くしろってさ」

「言ってくれるわね」


 ゴブリンの言葉がわからない少女、リアエルはわかりやすい挑発の言葉に腹を立て、速度を速める。いちおう記しておくが、わからないのが普通なので、わかってしまうコウだけが異常な存在であると言える。


「ゼェ……ハァ……」


 コウも遅れないように必死についていこうとするが、ゴブリンはおろかリアエルにすらどんどん置いていかれてしまう始末。

 ここでも足を引っ張ってしまう少年であった。


「もう、男の子なのにだらしないわね」


 流石に見ていられなくなったのか、足を止めてくれたリアエルは呆れたように腰に手を当てた。


 待ってくれるのは非常にありがたいが、言葉による精神的追い討ちはやめていただきたい。


「んなこと……言われても……」


 いくら『どちらかと言えばアウトドア派』と言えど、やはり現代っ子は現代っ子。異世界に暮らす人間とスペックを比較してはならなかった。ただただ理不尽な現実を突きつけられるだけだ。


 肩で呼吸をして乱れる鼓動は、彼の足並みさえも乱れさせる。


[ニンゲンよ、我を押さえつけた気概はどこへいったのだ]

[アンタまでそういうこと言う……]


 ついてこないニンゲン二人に親子ゴブリンまでもが足を止めてくれたが、やはり降ってくるのは非難の言葉。体感的に重力は地球と変わらないので、単純に原住民の身体能力がおかしい件。


 どうなってんのよこの世界はよー、と愚痴ろうとしても、疲れ切った体がなかなかそれを許してはくれなかった。


「今のは私でもちょっとわかったわよ。『もっと頑張れ〜』って言われたんでしょ?」


 ドヤ顔で言い当ててくるリッちゃんかわゆす。

 とはいえ——


「あー、うん。まぁだいたいそんな感じ……」


 もっといかつい喋り方をしていると伝えたほうがいいか少し悩んでしまったが、得意げに鼻を鳴らすリアエルに伝えるのは無粋かと思い、適当に濁しておいた。


 間違ってはいないし、これはこれで凄いことでもある。

 リアエルはゴブリンの気持ちを言い当てたわけだから、これは人間とゴブリンが歩み寄れることを証明する切っ掛けになるかもしれない。

 そんな可能性を感じ、コウは密かに胸を躍らせた。


 それから一行は移動を続け——


「つ、ついたぁ〜……」


 ゴブリンが焚き火をしていた地点に到達。尻餅をつくようにコウは地面にへたり込んだ。


 相変わらずキャンプをするにはうってつけの場所だな、と思う。


 ちょうどよく開けているし、見える位置に綺麗な小川も流れている。耳を澄ませばせせらぎが。目を凝らせば極彩色の野鳥が。鼻を鳴らせば芳醇な土の香りが。

 いろんな要素が、五感を楽しませてくれる。

 林間キャンプの素晴らしい点と言えよう。


 本当は手短に終わらせるために、移動しながらでも話をするつもりでいたのだが、コウがこの調子ではそれも叶わず、結局焚き火のポイントに到着するまでまともに会話することはままならなかった。


「お疲れさま。でも気を抜いちゃダメよ。なにしてくるかまだわからないんだから」


 リアエルは気遣って優しく声をかけてくれるが、ゴブリンを見る目にはまだ警戒の色が窺える。


 いつもやっていることなのだろう。その親子ゴブリンは、言葉を交わすこともなく見事な連携で作業を分担している。

 父親ゴブリンは川へ魚を調達に行き、その間に兄弟ゴブリンは集めた薪を組み、火の準備をする。


 いつの間にあれだけの薪を集めたのやら。


「大丈夫、なにもしてこないよ。武器は俺が持ってるんだし」


 そんな様子を眺めながら、コウはのんきに言う。


 弓が三つとナイフ一つ。これがゴブリンが持っていた武装の全て。矢はゴブリンが持っているが、弓がないのでさほどの脅威はない。

 それでも警戒を解かないのだから、警戒心の高い少女だ。あるいは単なる心配性なだけか。


「とりあえず、ようやく落ち着けたわけだけど……ゴブリンって随分原始的な火起こしすんのな」


 兄弟ゴブリンは火の着きやすい枯葉や小枝を積み、矢筒から取り出した細長い棒を薪に突き立てて、手のひらでゴシゴシと回転を加え始めた。

 それにより生み出される木屑が摩擦熱で燃え、それを火種に炎を大きくして焚き火をする、コウから見れば古臭い手法。


「原始的って……人間わたしたちも同じじゃない。ゴブリンもああやって火を起こすのね」


 感心したようにリアエルはつぶやくが、まだ火を起こすのに慣れていないのか、兄弟ゴブリンは苦戦しているように見えた。


 コウは口の中で「やれやれ……」とこぼすと、震える足腰に鞭打って立ち上がる。


「リッちゃん、これお願い」

「え? いいけど……どうするの?」

「手伝ってくる。まぁ見てなって」

「待ちなさ——」

[よう、苦戦してるなお二人さん]


 弓とナイフをリアエルに預け、コウは兄弟ゴブリンの元へと歩み寄って軽く手を上げる。


 リアエルの制止の言葉は間に合わなかった。自分勝手に動くコウに手を焼かれながらも、警戒を強めることで対応しておく。


[手を出すなニンゲン]

[これは我らの仕事なのだ]


 兄弟には口を揃えて邪魔者扱いされてしまったが、コウは構わずすぐそばでしゃがむと、ショルダーバッグの中身をあさり始める。


[まぁそう言うなって。俺にも手伝わせてくれよ]


 ここまでずっと良いとこなし(と思っている)コウは、せめて割と得意な火起こしで少しでも挽回しようと画策していた。


 リアエルに、ちょっとでも使える男だと思ってもらいたい。そんな下心が大部分を占めているが、いつの間にか辺りも暗くなり始めているので、早々に火を起こして灯りと暖を確保したいという現実的な理由もある。


[火起こしって慣れるまで難しいよな]


 言いながらショルダーバッグから取り出したのは、プラスチック製の鞘に収まった一本のナイフ。『モーラ・ナイフ』と呼ばれる、キャンパーには定番のナイフだ。


 それを見た兄弟ゴブリンは一足飛びに飛び退る。


[オマエ!]

[本性を現したか!]

[いやいや]


 低く構え、いつでも何が来てもすぐに動けるように構える兄弟ゴブリンだが、ナイフをゆらゆらと揺らして敵意がないことを証明する。


 コウは構わず手近の薪をいくつか手元に引き寄せる。


[いい薪揃ってんじゃん]


 大きめの薪を土台とし、小さめの薪をそこに立ててナイフの刃を先端に当てる。


[んで、別の薪でナイフを叩いて薪を割る! ——秘技、バトニング! ってな]


 バコンバコンと小気味好い音を立てて叩かれたナイフは薪に刃を食い込ませ、一刀両断する。


 その調子で一本の薪から小割を何本か用意したコウは、次にナイフを寝かせて小割に当て、削ぐように刃を滑らせる。

 薄くめくれ上がる木を完全に切り落とさずあえて残して、それを何度も何度も繰り返し大量生産すると、先端がモジャモジャしたヘンテコな木の棒の出来上がり。


[フェザースティックっつーんだ。これをあと二つくらい用意する]


 同じ要領で手際よく作られるフェザースティック。警戒しつつも、それを興味津々な様子で眺める兄弟ゴブリン。


 リアエルだけは、


「ナイフ持ってるなら最初から使いなさいよ」


 武器を持ってないから投げナイフの一本を貸したのに、実は持っていたことに密かに腹を立てていた。


「よーし、上出来上出来! これならいけるだろ」


 稀に見る完成度の高いフェザースティックにご満悦のコウは、ショルダーバッグから新たなるアイテムを取り出す。

 それは、一見すれば6cmほどのただの黒い棒。


[こいつはメタルマッチ。またの名をファイヤースターターと言う。強力な火打ち石と思ってくれていい]


 メタルマッチの先端をフェザースティックのモジャモジャへ寄せて狙いを定め、ナイフの峰を当てて手前から奥へ、一気にスライド。


[オオ?!]

[ナニッ?!]


 バリバリバリッ——!! と激しい燃焼音を立てて飛び散る大量の火花に驚きの声を上げる兄弟ゴブリン。


「きゃっ……すごい……」


 ——と、リアエル。


 棒に付着したマグネシウムと酸素が摩擦熱により結合して燃焼する化学反応を利用した火花は、狙い通りフェザースティックのモジャモジャへ命中し、小さな火が上がる。


「よっしゃ一発! 今日は調子いいね!」


 いつもは何度かトライするのだが、狙いが良かったのか火花は欲しいところに飛んでくれたし、フェザースティックも綺麗に作れたし、火の着きやすい良い薪であったことが功を奏した。


 それから別のフェザースティックを重ね、上から枯葉や小枝を被せていく。

 みるみるうちに燃え移って火が大きくなり、空気の通り道を確保しつつ薪を組んで火を育てていけば、立派な炎の出来上がり。


 焚き火の完成だ。


「ざっとこんなもんよ!」


 驚いたような反応を見せる兄弟ゴブリンに渾身のキメ顔を見せつけて、[あとはよろしく!]と火の面倒は兄弟ゴブリンに押し付ける。


 続いてコウは川の方へ移動する。


「ちょっとキミ?! 今度はどこ行くのよ?!」

「ん? あっちの手伝い」


 当たり前のようにゴブリンに近づいて行くコウに、リアエルは慌てて声をかけるが、返ってきた返事はあっけらかんとしたもの。


 彼が指差す先には手掴みで魚を捕まえようとして苦戦している父親ゴブリンが。

 ゴブリンの素早さを持ってしても、自由に泳ぎ回る魚を捕まえるのは至難の技らしい。


「……あまりウロウロされると気が気でないんだけど」

「心配してくれんのは申し訳ないし嬉しいけど、この状況で疼くなってほうが難しいんだよね!」


 ワキワキと動き出す手を抑え切れない。


 なんといってもコウの趣味はキャンプである。キャンプに適した場所でキャンプじみたことをして、手こずっているところを見せられたら手を貸したくなるものだ。


 そういうものなのだ。


「ってことでちょっくら行ってくるー!」

「あ、キミってば?! ……もう」


 手を振りながら川へ駆けて行くコウに、呆れたように肩とため息を落とすリアエル。


 川は目の届く範囲であるし、兄弟ゴブリンから目を離すわけにはいかないと判断したリアエルは、その場を動かず警戒を続けることにした。


 心労が絶えない少女には同情すら覚える。


[よう、調子はどうだい?]

[話しかけるな。魚との同調が乱れる]


 軽い調子で話しかけると、コウへは目もくれず、父親ゴブリンの足元に注がれている熱い視線は動かない。


[そうかい]


 つれない返事を受け取ってから、コウは辺りを見回してみた。


 川底の苔まではっきりと見えるほど澄み切った綺麗な川だ。そのまま手ですくって飲んでも問題なさそうなほどに。


 そこへゴブリンは膝ほどまで水に浸かり、手の届く範囲に魚が来るまでじっと動かない。

 追いかける作戦から待ち構える作戦へとシフトしたらしい。


「そういうことなら……」


 ゴブリンのやりたいことを察した彼は、手近に転がっている石を適当に拾い集め、魚影を探す。

 透き通った綺麗な川なのですぐに見つかった。ゴブリンからやや離れた上流側に集まっている。


「ほいっと」


 コウは拾い集めた石を見つけた魚影に向かって投げ入れる。


[キサマ……! 余計なことは——]

[いいからいいから。そのまま続けて]


 石が投げ込まれた衝撃に驚いた魚影の一部は、逃げるように住処へと隠れ、残りは逃げ惑うように下流へと泳いでいく。


 その先にはゴブリンが待ち構えているとも知らずに。


[追い込み漁ってやっちゃな]


 家族で川に遊びに行ったとき、よくやった。人間の動体視力では魚を捕らえるまでには至らなかったが、惜しいところまではいったのだ。


 であるならば、人間よりも素早く動けるゴブリンであれば、捕らえられる可能性は充分にある。


[ヌッ……!]


 小さな気合の声とともに一気に水面に差し込まれたゴブリンの緑色の腕。素早く引き上げられたその手には、ビチビチと元気に動き回る魚が握られていた。


[おっ、やるじゃんよ!]

[フン、これくらい朝飯前だ]

[もう夕飯時だけどな]


 異世界でも『朝飯前』という慣用句があることに軽く驚きながらも、定番の揚げ足を取ることを忘れない。


 とはいえまだ一匹。全員分確保するならあと四匹は必要になる。

 父親ゴブリンは魚を手早く絞めて川岸へ放り投げると、手掴み漁を続行。

 コウも同じように石を投げて上手いこと魚をゴブリンの元へと追い込んでそれを捕らえてもらう作戦を続けると、人数分はあっという間に集まってしまった。


 頭脳労働と肉体労働。


 足りないところを補い合う素晴らしいコンビネーションと言えよう。


[しっかり俺らの分まで捕ってくれるんだから、やっさしー]

[捕りすぎて余ったからくれてやるだけだ。勘違いするな]


 調子に乗るコウにツンデレを発揮しながら、父親ゴブリンは川から上がってくる。


[だいたい、弓があればもっと早く済んだのだ。余計な手間をかけさせおって]

[俺は別に返してもいいんだけどさ、もうリッちゃんに預けちゃったから返してもらうのは難しいと思うぜ? もっと早く言ってくれれば返せたかもしれないのに、残念だったな]


 コウがリアエルに預ける前であれば弓は返そうとしただろう。

 もちろんリアエルには止められるだろうから、それを説得する時間も考えると、労力的にはあまり変わらないように思えた。


「おっ、いい感じに燃えてんな! 上出来上出来!」


 コウと父親ゴブリンは五匹の魚を抱えて戻ると、兄弟ゴブリンがしっかりと火の面倒を見てくれていたお陰で小さな火は立派な焚き火へと成長を遂げていた。


[父ちゃん見てくれ!]

[炎作れた!]

[おお、さすがは我が息子だ!]


 嬉しそうにはしゃいで駆け寄ってくる息子を抱きしめながら頭を撫でて、溺愛する父親ゴブリン。


 種族は違えど、人間と同じように家族愛のようなものはあるのだと、なぜだがしんみりとしてしまうコウであった。


 ——家族。


「心配してんだろうな……」


 鬱蒼とした森に阻まれながらも、空を見上げて溢れるつぶやき。


 唐突に異世界に来てしまってからそれなりに時間が経った。本来であればとっくに帰路について、家で弟妹と遊んだあと、家族全員で食卓を囲んでいる頃だろう。

 和気藹々とした賑やかな家庭に生まれ育ったからこそ、家族がそばにいないことの寂しさは一入ひとしおであった。


「どうしたの?」

「……んや、なーんも。それよりもリッちゃん」


 寂しげな表情をリアエルに読み取られて、誤魔化すように指を指すコウ。


「そろそろそれ、返してやっていいと思うんだけど」

「ダメよ」

「ですよねー……」


 ゴブリンから奪った武器を返してやりたいと訴えるが、速攻で却下されてしまう。


 焚き火までの道案内をしてくれたし、火を起こしてくれたし、魚を確保してくれたのだ。少なくともこの親子ゴブリンは大丈夫なゴブリンであるといい加減わかってくれてもいいと思うのだが。

 それをわからせるためにも、積極的に手を貸したというのに頑固な少女であった。


 どうすればわかってくれるのか頭を悩ませていると、親子ゴブリンのやりとりが耳に入ってくる。


[でも、あのニンゲンが手伝ってくれた]

[あと風も吹いてくれたから燃えてくれた]

[そうかそうか。利用できるものはすべて利用しろ。運も味方につけろ。それでこそゴブリンだ]


 すべて自分だけの実力ではないと素直に告白する兄弟ゴブリンに、それでもいいんだと諭す父親ゴブリン。


 理想的な光景を目の当たりにして、コウはリアエルへと視線を移し、ジッと見つめた。


「……私はなにもしてないわよ」

「まだなんも言ってませんけどね」

「なにか言いたそうな顔してたじゃない」

「いやいや、そんなそんな」

「なんなのよ、もうっ」


 頬を膨らませてそっぽを向くリアエル。


【風りの加護】で風を送って火起こしのアシストをこっそりと行っていたのだろう。どこまでも素直じゃない少女だ。


「さて、と。じゃあリッちゃんも一緒に手伝おうぜ」

「え? なにを?」

「食事の準備さ。まさかなにからなにまでゴブリンにやってもらう気?」

「それは——、……うぅ……ああもう、わかったわよ!」


 ゴブリンの手伝いなんかしたくないという思いと、一人手伝わずにただ見ているだけの罪悪感を天秤にかけて、後者に傾いたリアエルは複雑そうな表情を浮かべながらも恐る恐るゴブリンの元へと歩み寄る。


 ——コウを盾にしながら。


「あのーリッちゃん? あまりくっつかれるとドキドキしちゃうんだけど」

「うっさいわね! キミみたいになんでもかんでも突っ込んで行けるほど神経太くないのよ!」

「ひどい言われよう?!」


 フレンドリーと言ってほしかったが、ここは異世界なのでそんな言葉はないのかもしれない。それにズケズケと踏み込みすぎて喧嘩になったことは幾度もあるので、仰る通りであった。


「こんな感じかなー」


 一人一匹の魚が行き渡り、手頃な枝をぶっ刺して貫通させて、それを火のそばに置いて焼き上げる。まさしく魚の丸焼きだ。


 火を囲むようにして魚を焼きつつ、とうとう準備は整った。


[さあニンゲン。キサマの言う通り腰を落ち着けて話をする場は整った]

[おう、正直ここまでやってくれるとは思ってなかったよ。上出来上出来]


 父親ゴブリンは威厳たっぷりと言い、コウはうんうん頷く。


 あたりはいつの間にかすっかり暗くなり、焚き火に照らされるゴブリンは若干ホラーじみていた。


[話を始める前に、さっきからずっと気になっていたことがあるんだが……それを片付けてからでもいいか?]

[……なんだ、言ってみろ]


 深刻そうに言うコウに、ゴブリンはまたくだらないことを言い出すんじゃないかと思いつつ、とりあえず話だけは聞いてみる。


[耳とか鼻とか、ちょっと触らせてもらってもいい?]

[………………好きにしろ]


 案の定くだらないことすぎて、拍子抜けしてしまうゴブリンであった。

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