第161話 覚悟のない奴は信用できない

 今から約二十年前。

 若い人は幼過ぎて知らなかったり、覚えていないかもしれない。


 当時は携帯電話とインターネットが普及し、世間の人々が「いよいよ、本当に日本が不景気になった」と自覚したころだ。


 その中である映画が話題になる。

『バトル・ロワイヤル』

 作者は高見広春氏。

 元々新聞記者で、この作品で小説家になり一躍時の人となった。

 生ぬるいドラマではなくグロテスクなまでに登場人物を追い込み、大ヒットした。


 当時、まだ主流だった紙媒体の雑誌で漫画化され、そして、深作欣二(あと、第二弾の撮影中に死去。息子が跡を継いだ)監督によって映画化された。


 主演は藤原竜也氏がメインで、あとはほとんど売り出し中の若手俳優、教師役にビートたけし氏。

 

 あまりの過激さゆえに世間や国会で賛否両論が巻き起こり、ワイドショーでは朝夕問わず、関係者を追いかけて質問をぶつける芸能記者(笑い)や暗に批判するアナウンサーなど話題に事欠かなかった。


 私は……この世の中の動きが理解できず、「あー、そうですか。よかったですね(無表情)」としか言いようがなかった。


「(小説において)殺しのシーンは、作者の品性が出る。血を噴水みたいにして出すのは……どう?」

 こんなことを言った人もいる。

 なお、件の映画を子供のころ見た私の感想。

「え? あれぐらいの圧だと結構深い血管を斬っているけど……いいの?」


 本題に戻ろう。


 つまり、私は『リアル』という虚構を盾に品のないことをする輩が大嫌いなのだ。


 深作監督曰く『人が争うことで起こる悲劇を書いた作品』と言っているが、ある映画評論家曰く「それは自分の思想が起こす勘違いだ。バトルロワイヤルは綺麗ごとを描いた学園ドラマなどを皮肉った内容でエンターテイメントであり、真面目に戦争論をぶち上げることこそ無意味。だから、頓珍漢な映画になった」


 しかし、深作監督は言う。

「自分たちは戦争を受けてきた世代だ。自分たちは毎日、兵隊から空襲で死んだ人を埋めるための穴を掘っていた」


 ふと思い出したことがある。

 今は亡き文豪で出兵もした作家だ。

 彼は生前、こんなことを言っていた。

「あのな、戦争当時は鼻たれ小僧で(比較的)安全な日本にいた奴らが今更(当時は戦後三十年あたり)戦争を賛美したり、逆に過剰に反対する奴らを見ると反吐が出る。奴らは理不尽な暴力の痛みを知らない」


 話を戻そう。


 ついには、文部省(当時)は学生を規制するようにすべきか深作監督などを呼んで意見を聞いた。

 そこで彼らはこう言った。

「自分たちは子供たちを信じている。むしろ、学生こそこの映画を観て色々考えてほしい。もしも、自分たちの作品(バトルロワイヤル)で事件が起これば責任は全部我々にある」

 原作者は原作者で黙って笑っていた。


 結局R-15指定を受けたが、前宣伝(苦笑)のおかげか大ヒットを記録し、また対象になった学生たちもこっそり観たそうだ。


 やがて、大ヒットを受けて第二弾が作られるようになる。

 今度は原作に頼らないオリジナルである。

 より荒唐無稽で滑稽な反戦映画になってしまった。

 実際、多くの人が、それも原作を愛好していたものさえ、「これって何?」と思った。

 撮影中、深作欣二監督は死去し、息子が跡を継いだ。


 そして、事件が起こる。


『バトルロワイヤル』を愛読していた中学生が同級生を殺すという非常にショッキングな事件が起こった。

 世間が大いに騒いだが、私は実に静かな世界にいた。


 戦前、戦中の作家たちが口をそろえて言ったことがある。

――マスコミなんて信じられない


 昨日まで鬼畜米英と言っていたものが今日は真逆のことを言う。

 今でもよく見る光景である。


 そして、『バトルロワイヤル』関係者は文字通り貝のように黙ってしまった。

 あのビートたけしさえ何も言わない。


 あれだけ、「万が一は責任を取る」と威勢よく言っていた輩のなんとも脆弱なことよ。


――ああ、確かに唾棄したくなるわ


 以来、私は人を信じることがより難しくなった。




































 もしも、『あの世』という世界があり私のわがままが許されるのなら、『バトルロワイヤル』関係者を全員呼んで孤島に運んで武器を持たせて言いたい。

「さあ、殺し合いの時間です。生き残った一人だけ天国へ連れて行きましょう。なお、逃げるなどの行為をした場合は魂ごと消します」






















「ああ、そうか。池波正太郎も、柴田錬三郎も、こんなに風に裏切られたのか……」

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